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【Alternative World Online】翠の天使、VR世界で徘徊中【ミドリ】  作者: 御神酒
第9章『紅雪』

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##四季は巡れど歳月は過ぎ行く##

 

 これはミドリと葉小紅が陰陽師退治へ向かったすぐ後の話。猫の獣人と相対するエスタとウイスタリアは、普段の様子からは想像できないほど真剣な面持ちで身構えている。



「たった二人で勝てるって思われてるなんて心外にゃん」


「エスタ! なんかこいつの喋り方すごいムカつくぞ!」

「……その感じ、あなたが()()ネ。悪い噂はいくつか聞いた事があるのよ」




 ウイスタリアの文句をガン無視して、エスタはその悪辣な猫に問いかける。



「にゃは、照れるにゃんよ〜」


「おーい、エスター、無視するなー」

「でも黎明って名は本当のものではないのでしょう?」




「うぅ……難しい話は退屈なのだ……」



 無視され続けたウイスタリアは拗ねて地面に落書きを始めた。それを横目に、エスタは黎明をじっと観察する。



「にゃたしは黎明、それ以外の名前はもう無いにゃんよ」


「無いっていうのがイマイチ分からないネ。強欲による簒奪ではない、つまり名乗れないのではなく名乗らないだけ――まさか」



 何かに思い当たったエスタは驚愕の色を顔に浮かべた。


「……これだからソフィ・アンシルの関係者は嫌にゃんよ。あ、でもさっきの堕天使にゃんも似た立場で、そういう点で言えば更なる闇堕ちに注意にゃん。立ち位置は逆にゃけど」


()()()()()……いや、それはいいネ。そんなことより、少し誤解しているようだから言っておくけど、ミドリちゃんはあなたみたいにはならないわ」




 理外の存在とは、本来あってはならない状況におかれている存在のことであり、その詳細はエスタすら知らない。エスタはただ、そういう存在がいるということだけの知識しかない。それが一体何を意味するのか、どういう過程を得てそうなるのかも知らない。


 黎明もわざわざこの場で語ることはしないだろう。



「――エスタ、よく分かんないけど敵なのに違いないならさっさと戦わないか?」




 丁度いいタイミングでウイスタリアが水を差す。

 エスタはそれはそうだと応え、杖を構えた。

 黎明もそれに応じ、禍々しい力を纏い始める。



「【無神来訪】」


 黎明は自身の本来の姿に戻った。

 彼女は()を司る神でもあったのだ。

 猫の要素はそのままに、身体が透き通るような無色透明となる。



「【冬の隔たり】【夏の瞬き】【秋の移ろい】」

「【竜の鼓動】【竜星拳】」



 エスタは、雪で構成された結界を周囲に構築し、眩い光の波動を放った。

 一方のウイスタリアは、紅いオーラを発しながら連撃を放った。


 それらは普通の神であれば大打撃になりうる攻撃なのだが――



「無神には何も(にゃ)く、時の流れも空間の干渉も徒労に終わるにゃん。にゃたしを殺したければ、かの傲慢の剣でも持ってくるにゃんね」



 事実、二人の攻撃を受けて完全に無傷であった。全てを無視して結果を確定させる最強の剣くらいでしか彼女に傷をつけることはかなわないというのにも間違いない。




「さようなら、にゃん」



 黎明が指を鳴らすと、冬の結界内の全てが無に帰した。地面にできた底の見えない空洞の上に浮かぶ彼女だけが残っている。


「あっぶなかったー」

「想定以上のデタラメさだネ。先に緊急離脱のスキルを使っておいてよかった」


 元々あった結界の外にエスタとウイスタリアは居た。

【秋の移ろい】による移動をわざと遅らせ、黎明の動き出しに合わせて発動したのだ。まさに熟練の技である。



「ほーん、頭の回る老人にゃんね。ま、いつまで持つかにゃ〜?」



「【春の輝き】」




 挑発には乗らず、エスタは冷静に最後の下準備を整える。実体のない極彩色の、春に咲く花や木々が乱立していく。しかし、それは無を司る神の前には何の意味も持たない。



「植物ってそんなに好きじゃないにゃん」



 指を鳴らし、美しい植物たちは無惨に消え去った。




「エスタエスタ! これヤバイやつじゃないか?」


「ウイスタリア、ミドリちゃん達の所に行って頂戴。もう終わらせるからネ」




「おいエスタ、何をするつもりなのだ。返答次第では手が出るぞ」


「……渓谷で用事を済ませたら、あの子達と共に世界を見てまわりなさい。あなたが思うよりこの世界は広く、残酷だけど美しい」


「エスタ?」


「さようなら、あたくしの大切な友達。輪廻の先で会えるのを楽しみにしているネ。【秋の移ろい】」


「エスタ!? バカあああ――――!!!!」



 エスタはウイスタリアに【秋の移ろい】を使い、手出しをさせないようにミドリたちと鬼の居る戦場に送った。一方的に別れを告げたエスタは寂しそうに、しかし決心に満ちた不敵な笑みで黎明を見た。




「まさかたった一人でどうにかするつもりにゃ?」



「あたくしもあなたも、どちらも最早進歩のない老木。(まばゆ)い希望の光に満ちた彼女らの物語には不要の存在。退場の時間ってことよ」




「にゃたしに終わりなんて(にゃ)い。未来永劫、永遠にこの世界を眺め続けるにゃん。退場するにゃらどうぞおひとりで」


「永遠、ネぇ」



 エスタはおもむろに懐から小さな懐中時計を取り出した。かなり古い物なのか表面にはところどころ亀裂が入っている。



「永遠なんてものは無い。悲しきかな、季節は巡ってもそれは変わらないという意味ではない。終わりが無いという意味でもない。大きな流れで見れば必ず終わりは潜んでいるネ」


「……それは進む存在の話にゃ。()()()()ものには変化にゃんて関係にゃいの」



「止まっているのはあなただけ。周りが変わっているのなら、いつか動かせられる。どんな存在にだって、世界が続く限り変化から逃げることは叶わない」




 エスタの周囲に春夏秋冬すべての要素が、鮮明な虚像として映し出される。

 そこには、軽やかな春の景色が、爽やかな夏の景色が、穏やかな秋の景色が、純白な冬の景色が。



「さあ、時を動かそうかネ。大きな古い木は未来ある芽の邪魔にならないように、土に還って養分になろうじゃないか――【春夏秋冬・有限規定】」



 虚像がエスタと黎明を包み込む。

 黎明は無神の神能を使って消そうとするが、何の効果も発しない。それは当然だ。エスタのスキルは“有”の概念そのもの。()()ことは定められており、規定を覆すことは不可能である。


 その中では不老不死でもただの凡庸な命となり、巡りゆく季節を味わいながら眠るのみ。

 発動条件が厳しく、使用者も発動中は動けないので有限の時間からは逃れられないため、強力なのも頷ける。



「死は唐突にやって来るにゃんて、知ってはいたけど……嬉しいにゃん。やっと、やっと解放されるにゃんね」


「あなたほど悪行を積んだ者もそう居ないし、理外の存在っていうのも、どうなるか分からないけれど、次生まれ変われるのなら優しく生きるといいネ」



 春夏秋冬の光の奔流に呑まれながら、エスタの脳裏に愉快な少女たちの姿と、長い時間を共に過ごした親友が()ぎる。


「たとえもっと酷い世界になっても、優しく楽しく過ごせれば、それはきっと――かけがえのない人生になるはずだからネ」




「かけがえのない人生……ありがとう。まだ生まれ直せるのなら、次は誰の代わりでもない、にゃたしだけの人生にするよ」




 “黎明”はあるともしれない次への渇望を胸に、()()を迎えた。元となった存在の口調がほんの少しだけ残りながらも、彼女は――(せん)の世界の神ゲルビュダットは呪いとも言える無限の環から脱したのであった。


 そして、エスタの命も終わりに近づく。

 老いてとうの昔に覚悟を決めている老人の散り際は、未来へすべてを託す願いを孕んでいて、星空に引けを取らないほど美しかった。



「…………ああ、天上の星々よ。どうか朋友(とも)やうら若き冒険の徒に明日(あす)への導きがあらんことを」




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