##49 妖怪大氾濫
「エスタさんにウイスタリアさん!? どうしてここに……」
「すごい血の臭いがしたから来たんだぞ!」
「さすがにそれを放置するのはよくないからネ」
この二人の実力は私も見た事ないからなんとも言えないけれど、相当強いと聞いてるから頼もしい。
ただ、今回は相手が相手だ。
見た目と態度からは信じられないが、ジェニーさん並の強さを持つ相手なのだ。いくら戦力が揃ったとて覆される可能性は高い。
「……ミドリちゃんと葉小紅ちゃんの二人は至る所で暴れている妖怪と大元を倒してきていいよ。ここで無駄な時間を費やせばこの国は妖怪によって滅びるからネ」
「雑魚は任せたぞ〜!」
「え!? いやいや、でも――」
「確かに、そいつはヤツの用心棒だから間違いなく動くはず。微かに聞こえる悲鳴も操られた妖怪による仕業……だとすれば…………」
どうしようか。
葉小紅さんだけ行かせて三人がかりで倒すのも手だ。しかし、信頼していないとかではなく純粋に心配してしまう。
「ほら、二人とも。暗い顔はよくないネ。幸運と勝利が逃げちゃうじゃないか。この子猫ちゃんは確実に仕留めるから、安心して行ってきなさい」
「……そいつは私の姉の仇、どうか、私の代わりにお願い。私は呪いを断ちに行く」
「では、この場は任せましょうか。私と葉小紅さんでサクッとわるーい陰陽師を退治して、必ず加勢に戻ります!」
私はともかく、葉小紅さんにとっては重い決断だっただろう。恨みを晴らすためにこの場に残るか、今生きている命を救うため、彼女の姉にかけられた呪いから解放しに行くか。
客観的に見れば後者一択だけど、目の前に仇がいたら感情が揺れる。そんな中、未来を選んだ彼女は間違いなく強い。
「励むのだぞー!」
何も知らないウイスタリアさん、元気に見送ってくれていて、こっちも元気になりそうだ。
「――ミドリちゃんミドリちゃん」
「はい?」
「耳元失礼、――――」
ごにょごにょとエスタさんから耳打ちで頼まれごとを告げられた。
「エスタさんそれって……」
「大丈夫。ちゃんとやることはやるからネ」
「…………わかりました。もしもそうなったら、任せてください」
私がそう言うと、エスタさんはニッと笑って応えた。
「じゃあ、いってらしゃい」
「ええ。頼みましたよ」
◇ ◇ ◇ ◇
私と葉小紅さんで町の騒動へ向かう。暴れている妖怪に雪女ほどの強敵はいない。道中で倒しておきながら、この町を一望できる天守閣へ走る。
天守閣の屋根から禍々しい何かが空へ広がって妖怪を操っているようなので、そこに陰陽師がいる読みだ。
悪役とバカは高いところが好きという定説もあるし間違いない。
「――んく、ぷへぇ〜」
「凄いわね。こんなに回復するなんて」
「まだ少しなら残ってますから必要になったら言ってください。あ、どうせならすぐに回復できるように数本渡しておきますね」
いつぞやのイベントの報酬で知らぬ間にストレージに入っていたポーションを走りながらがぶ飲みしているのだ。今までアイテムによる回復なんてろくにしてこなかったけど、案外便利だ。
ちゃんと葉小紅さんにも渡しておいてっと。
「ありがとう」
「いいですよ。ところで天守閣もあと少しですけど、どうします? 正面から乗り込む感じですか?」
「まさか。そんな面倒なことするわけないでしょ。崩せばいいのよ崩せば」
「ほほーう?」
これで城内に罠やらが仕掛けられていたりしたら……これがゲーム制作者の意図しない方法でクリアするプレイヤーってやつか。
屋根まで登るという選択肢もないようだし、それで葉小紅さんがスカッとするなら斬ってもらおうかな。
「よし、この距離かしら」
「やっちゃえハコベニー!」
「う、うん。やるけど元気ね」
「お構いなく」
「そう? まあいいわ。【紅空】!」
炎の斬撃が天守閣を綺麗に真っ二つに切り裂き、轟々と燃え上がる。
そして、葉小紅さんはついさっき渡したポーションを飲み始めた。
私のと比べて彼女の相棒は熟練の妖刀であり、通常スキルにまでデメリットが付いていると先程聞いた。私の新米妖刀による【逆雪】はデメリットがないのでこのまま新米でいて欲しいものだ。
そうこうしていると、天守閣の頂上から人影が見えた。燃え上がる天守閣から、こちらに向かってフワフワと降りてきている。あれが目的の陰陽師だろう。
「【超過負荷】」
腕に巻き付いていた破片と布が周囲に漂い、バチバチと左腕から力の奔流が溢れ出る。余裕そうに降りてくる敵へ大きめのエネルギー弾を放つ。
命中したのか、煙が出ていた。
「やったか!」
「やってないわね」
だろうね。
結界のようなもので防がれていた。
まあ私がフラグを建てたから予想はしていた。
「ネズミがわらわらと。あの猫は何をしている……」
豪華そうな着物を着て、妖しげな光を瞳に宿した男が私たちの前に舞い降りた。
「こんな美少女を前にネズミとは失礼な。そいそいそーい!」
エネルギーの弾丸を連射する。
ひとつひとつの威力も普通の人間をぶっ飛ばすくらいは余裕だが、数発撃っても全て結界に防がれてしまった。割れかけても更に張り直されているので、埒が明かない。
「ミドリ、跳んで!」
「え!? はい!」
赤い線は見えなかったが、指示通り思いっきりジャンプする。すると、先程葉小紅さんが斬った天守閣から数え切れないほどの妖怪が押し寄せてきた。攻撃ではないが、その場にいたら身動きがとれなくなっていただろう。
「ふん、ネズミとはいえこの場にいる栄誉を光栄に思うが良い。我が名は土師飽継、かの陰陽師を超える存在だ。貴様らは歴史の生き証人として瞼にこの光景を焼き付けた後――死ぬが良い。【災害再臨】」
鬼が出るか蛇が出るか。
足元の妖怪達が一斉に液状になって溶け、宙に集い始める。
「あ……あれは……」
常に強い眼光を放っていた葉小紅さんの目が初めて揺らぐ。私はそれを横目に眺めながら陰陽師が余計なことをしてこないかも注視してい――
集ったモヤが八つの頭に分かれてその姿を顕した。気配から私も察してしまった。
あれは例の大天狗と同じかそれ以上の脅威、未知数の災害そのものだ、と。
「さあ、〈龍の災害〉八岐大蛇よ! 手始めにこの国を滅ぼせ!」
〈人間なぞに従う気は無いが――しかし、あの刀小僧の血の匂いがするな。ふむ、ヤツの娘といったところか〉
「――ッ」
「葉小紅さん、この感じだと復活させたってことですよね? 何か倒す方法があるんですよね?」
こういう非常事態こそ冷静に。
八岐大蛇は、現実世界の神話だと酔わせて動けなくなったところを倒したんだっけ?
今の場面では不可能な倒し方だから別の案が必要だ。この世界の倒し方次第では私たちでもいけるかもしれない。
「……八岐大蛇はほんの数十年前、一人の侍が真正面から斬り伏せたそうよ。それも私の父らしいのだけれど」
「あー、だから妙に狙われてるんですね」
七草家の大黒柱は八岐大蛇や九尾といった災害級の妖怪をホイホイ倒せる侍ってことになる。今は天空国家クーシルにいるらしいが、いつか会ってみたいものだ。
さて、一旦状況を整理すると、八岐大蛇が葉小紅さんを狙っており逃げるなんてしたらそれこそ国が滅びかねない。戦いは避けられない。
幸いというか、何かまた呼び出そうとしているのか、陰陽師は何かの陣を構築し始めている。今なら何とか1対2で有利に戦える。
「……勝てますか?」
「正直厳しいわ。勝てるビジョンが全く浮かばないもの」
「でしょうね」
私も同感だ。
さっきの猫獣人よりは得体の知れなさはないが、それでも圧倒的な強さは感じられる。何れにせよ、今の私たちでは届かない相手なのは間違いない。
「――であれば、ここが使い所ですね! 【不退転の覚悟】!」




