#13 どうか安らかに眠ってください
解体の基本を教えてもらった上に、解体用のナイフも貰ってしまった。
親切な人だなー。
「見えましたね」
「あそこは迂回した方が早いけどどうする?」
最初の町と王都の間にある三つの村の内の真ん中の村。
「そうなんですか?」
「復興中で不審者を入れないようにしてるからな」
ほほう。復興ね。
「何かあったんですか?」
「大体1ヶ月程前に何者かの襲撃があったそうだ」
襲撃、もしかしたらキメラの件とも関係があるかもしれない。深掘りしよう。
「犯人はまだ捕まってないんですか?」
「俺も詳しくないんだが、ここのは一応解決済みとして扱われているらしい」
おやおや?
「ここってことは別のまだ解決してないのがあるんですか?」
「さっき俺たちが休憩した廃墟だ。あそこはまだ犯人のはの字も出てきていないらしい」
それならそっちの犯人が関係あるのかなー?
分からなくなってきた。
「まあ、いいです。ここには観光スポットとかあります?」
「すぽっとが何かは知らないが、観光はろくにできないだろうな」
「それなら迂回しましょう」
「あいよ」
これじゃ、もはや護衛と依頼主みたいな関係だなー。私がこの人に勝つのは厳しそうだから合ってるっちゃ合ってるけど。
復興中の村の灯を横目に、生い茂る木々の隙間を縫って東へ。
怪しまれないように、静かに無言で進むが、むしろ怪しくなっていると思う。
「あの――」
「しっ」
「……」
話しかけてもこれだ。そんなにコソコソする必要あるのだろうか?
しばらく無言の時間を過ごす。
「よし。これぐらいまでこれば大丈夫だろ」
「…………そんなにコソコソする必要あります?」
つい不満をぶつけてしまった。隠密行動なんて慣れないことをするもんだから、謎のフラストレーションが溜まっているのだろう。
「だってこんな夜に出歩くなんて、怪しいだろ?」
「そう言われればそうなんですけど、泥棒になったみたいで嫌でした」
「まあまあ、ほら、着いたぞ」
ドゥーロさんが示す先には、無事な村が。ちゃんと原型を保った村を見るのは初めてかもしれない。
「俺はここで杖の手入れをしてるから、行ってきな」
「一緒に手を合わせると言っていませんでしたっけ?」
「知らないやつが急に来ても驚かせるだけだろ。誰も居なくなったら行くからな」
「そうですか。……ん? つまり一緒に行動するのはここまでですか?」
「そうだが…………もしかして、寂しいのか? 俺のことがそんなに――――」
「は?」
「……冗談だ」
冗談も大概にしろ。次やったらビンタだ。
「じゃあな」
「はい。またどこかで」
ミャンさんの時と違ってあっさりと別れる。
松明が無くて暗い夜道を進み、ようやく村に到着する。
「さて、どこかな?」
オックスさんの実家を探さなければ。
それもくれた地図に描いてあればよかったのに。
適当な民家のドアを叩く。
「夜分遅くにすみませーん!」
遅くと言っても21時。現実ではまだ早い時間だが、ここでは電気なんて無いし、寝ているかもしれない。
「はいはーい…………えーと?」
ドアの中から、おば、ゴホンッ! お姉さんが出てくる。
「オックスさんのご実家はどこでしょうか」
「まあ! もしかして、あのヤンチャ坊のお嫁さん!? 随分な美人さんを捕まえたのね」
「いえ、知り合いとかそんな感じです」
勝手に想像して、あらぬ誤解をしないで欲しい。
でも、村という閉鎖的な環境もあるのか、親に限らずそれなりに慕われているのが見てとれる。
温かいな〜。
「あら、そうなのね。ごめんなさいねー。えーと家だったかしら、それならうちの向かい側よ」
「ありがとうございます」
お礼を言って退散。まさか向かい側とは。何か負けた気分になった。
「ごめんくださーい!!」
戸を叩き、声を張り上げる。
すると、扉の中から見知ったご夫婦が顔を出す。
「はーい、あ、貴方は! 天使様!」
「夜分遅く失礼します。オックスさんの仇討ちが済みました」
「あらあら! それならお墓に案内しますね」
「お願いします」
「あなたはここで留守番よろしく」
「ああ」
オックスさんのお母様と夜道を歩く。
「わざわざここまでありがとうございます」
「いえ、王都へ行く道中ですし」
軽く雑談をしながらランタンのようなものの明かりを頼りに砂利道を進む。
「王都に行くんですか?」
「はい」
「それなら一晩泊まっていってくださいな」
「いえ、そのまま行きますよ」
「王都はこんな夜更けだと入れませんよ?」
「え」
メニューで時間を確認。現在時刻、およそ22時。ダメなのかー。
「ね、泊まっていってください」
「すみません。お言葉に甘えさせて頂きます」
一応ドゥーロさんにも伝えなければ。
「ここは……」
「この村の共同墓地ですよ。綺麗でしょう?」
お墓の周りには、一面の花畑が広がっている。
何の花かは分からないが、悲しさなんて忘れさせるぐらい堂々と咲き誇っている。
「あの子のはここです」
「ありがとうございます。先に戻っていてください」
「分かりました」
天使だと知っているからか丁寧な反応をしてくれるが、何とも言い難い歯痒い感覚を覚える。
自分は敬語を使うのに、使われるのはあんまりなんてとんだ自己中だ。直させてもらうのはやめよう。
「さてと」
ストレージから折れてしまった彼の大剣を取り出して、墓石の横に突き刺す。
お墓参りの作法なんて知らないので、とりあえず手を合わせておく。何か効果があるかもしれないので、翼と光輪を出しておく。
「仇は討ちました。どうか安らかに眠ってください」
『条件を満たしました』『スキル:【天使の追悼】を獲得しました』
それは流石に無粋だろうに。このタイミングでシステムアナウンスは空気が読めてないなー。
「貴方の強さは知りませんが、貴方の分まで強く生きます。託そうなんて気は無くとも、勝手に託されます。私は、天使ですから」
自分でも何を言ってるか分からない、謎理論だが、一人、託すことなく果てるなんて寂しいことにはさせたくない。
「戻ろ」
相変わらず名前を聞きそびれているが、ご夫婦の家に戻ろう。
と、その前にドゥーロさんに伝えなければ。
〈ありがとな、嬢ちゃん!〉
声が、聞こえた。
振り向く。
そこには誰も居ない。
ただゆらゆらと花が揺れ動いているだけ。
折れている大剣が、輝いているように見えた。
少し寄り道をして、ドゥーロさんと別れた場所に行く。
「あれ?」
居ない。お墓から直行したから、通り道に居たなら気づくはず。付近にいる可能性もあるので、少し歩き回って探す。
「あ」
結局見つけれなかった上に、最悪の展開になってしまった。
「ここどこ……?」
迷子定期とかいう言葉が脳内を過ぎるも、頭から振り払う。
「だ、大丈夫。夜だし、【飛翔】」
夜だから飛んでも見られないはず。
一先ずそれなりの高度で村を探す。
「あった。よかった〜」
危うく、この暗くて危険な森で一晩を過ごす羽目になるところだった。
村の眼前のところまで飛ぶ。
「あれ? やっぱり居ない」
飛びながら近辺を探すが、ドゥーロさんは見当たらない。ここら辺に居ないということは、もしかしたら既に王都方面に行ってしまったのかもなー。
お墓参りをするというのは嘘だったのだろうか?
「う〜ん?」
分からないけど、まあいいや。
「ホラー的なやつじゃないといいんだけど…………」
急に怖くなってきた。あんなに話してたのに、実は幽霊で……とか。
今日寝れるかな?
「忘れよう忘れよう忘れよう忘れよう」
よし、落ち着いた。おそらく、概ね、大概、きっと、多分、絶対、大丈夫。よし! 大丈夫じゃない!
暗い暗い夜道を戦々恐々と怯えながら、ご夫婦の家に戻る。
「お帰りなさーい。どうぞゆっくりしていってくださいね」
「お世話になります」
寝床を借りて、ログアウト。
神様仏様零様、どうか眠れますように。
もうペンダントは無いのに、つい首元を触ってしまう。
零が誰かは、だいぶ後に分かります。




