#93 第五回イベント「特攻隊」
「ステータスオープン」
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プレイヤーネーム:ミドリ
種族:天使
職業:重戦士
レベル:53
状態:郷愁
特性:天然・善悪
HP:10600
MP:2650
称号:異界人初の天使・運命の掌握者・理外の存在・格上殺し・魅入られし者・喪った者・■■■の親友・敗北を拒む者・元G狂信者・対面者・破壊神の興味
スキル
U:ギャンブル・職業神(?)の寵愛・破壊神の刻印
R:飛翔9・神聖魔術6・縮地6・天運・天眼・天使の追悼・不退転の覚悟・祀りの花弁()
N:体捌き9・走術6
職業スキル:筋力増強9・大剣術6・踏ん張り1
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スキル
【神聖魔術】ランク:レア レベル:6
神聖なる力で回復から攻撃までこなす。
〖使用可能な魔術〗
・セイクリッドリカバリー
・ディバインウォームス
・フォンドプロテクション
・ゴッデスティアーズ
・フェイントスケイルズ
・エンジェリックハート
魔術
〖フェイントスケイルズ〗
対象者の見た目が小綺麗になる。
詠唱:「女神ヘカテーよ、我が羨望の眼差しに応じ、醜き者を整えたまえ」
消費MP:1000
魔術
〖エンジェリックハート〗
天使の鼓動を半径10メートル内で響かせる。
詠唱:「女神ヘカテーよ、天使の鼓動を聞かせたまえ」
消費MP:10000
スキル
【走術】ランク:ノーマル レベル:6
走り上手になる。走ることに補正がかかる。
アーツ:ダッシュ・持久走・疾走・スタートダッシュ・スライディング・壁走り
アーツ
【スライディング】
正面に鮮やかな滑り込みを決める。
CT:300秒
アーツ
【壁走り】
五歩だけ壁の上を走れる。
CT:600秒
スキル
【大剣術】ランク:ノーマル レベル:6
大剣の扱いが上手になる。
アーツ:パワースラッシュ・ヒートアップ・プッシュダウン・ジャストガード・アッパーブロウ・ヘビーブースター
アーツ
【アッパーブロウ】
大剣を振り上げて敵を斬りながら吹き飛ばす。
CT:180秒
アーツ
【ヘビーブースター】
振り下ろす時に重さを乗せて威力を増やす。
CT:210秒
スキル
【踏ん張り】ランク:レア レベル:1
スキルレベルに応じて踏ん張れるようになる。
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昨日のスライム狩りのおかげか、レベル50を突破していた。記念にもっとガラッと変わっていたら嬉しかったけど現実はイマイチだ。
「二人で秘宝とやらを探しにいくように頼まれました」
「あ、マツさん。どうも」
背後からマツさんの声が聞こえたので立ち上がる。
「秘宝探しですか」
「えぇ、向こうさんは秘宝なんて要らないけど物によっては悪用される云々で元から勝ち目のない私達が手に入れれば大丈夫だと。代価としてイベント中の衣食住は用意するみたいです」
要するに強い人に強い武器を持たせても勝てないのには変わりないが、弱い人に強い武器が渡って大変なことになるのを危惧しているわけか。
理由としては合理的だ。
「一つしかなかったらどうするんですか?」
「それはもう――奪い合いでしょうね」
「結局それですか……」
「世は弱肉強食です」
貴方の場合戦いたいだけでしょうに。
しかし、衣食住を揃えてくれるのは素晴らしい。
あれだけ人がいれば効率的に進むだろうし、ここは私もその条件を呑むのがおいしいかな。
「分かりました。一緒に見つけましょう」
◇ ◇ ◇ ◇
「今更ですけど、私いなくても一人で何とかできるんじゃないですか?」
「合法的に戦っていいと言われたので」
いや、私は言ってないよ。
合法的かも怪しいし。
……私を餌にしたな、あの飼い主さん。
今度会ったら容赦しない。
そんな奇妙な関係性のタッグチームとして秘宝を探しに森へ入った私達二人は、絶賛迷子になっていた。
「あれ、ここ印ついてます。また戻ってきてますね」
「……任せたのは失敗でしたか。こんなにひどい方向音痴が実在するとは」
「くっ、言い返せない。論破されました……」
[お箸::なんでそっち行くん?]
[積み木::論破というより方向音痴が酷すぎるだけなんだよなぁ……]
[芋けんぴ::迷子定期]
[味噌煮込みうどん::そろそろ才能だと思い始めてる]
私を励ましてくれる人はいないようだ。
悲しい。
「キャー!」
落ち着いた空気が引き裂かれる。
森の中をつんざくような悲鳴が聞こえたのだ。
女性、それもかなり幼い人が襲われていると考えられる。
「マツさん、行きま――もう行ってるし」
私が声をかけるより先に駆け出している。
意外と正義感もあるんだなーなんて一瞬思ったが、よく考えたら戦いたいだけだ。
とりあえず私も後を追う。
――ガサッと後ろで物音が聞こえたが、今は無視しておこう。
「【疾走】」
◇ ◇ ◇ ◇
ようやく追いついたと思ったら、出くわした絵面は酷いものであった。
涙目の黒髪の幼女、土下座をするスキンヘッド三人組、それ見下ろすマツさん。
もう少し戦ってると思い込んでいたから拍子抜けだ。スキンヘッドズが早々に降参したのだろうか。
「ちょうどいいところに。この人達どうしましょう」
「えーと、まずは事情を聞いてからにしません? 十中八九その人達が悪いとは思いますが……」
「あの、俺らはただ迷子の子が泣いてたから話を聞こうと思っただけでして」
「確かに世紀末っぽいキャラメイクはしたんすけどチキンでナンパなんて恐ろしいぐらいなんす」
「デュフフ、おなごの手で殺されるなら本望……」
「ミドリさん、何人いります?」
「ストップです。手のひら返しますけどたぶんその人達悪い人ではないかと思います」
「姐さん……」
「姐御ぉ……」
「デュフフ……」
私を崇拝するような目で見てくる。
居心地の悪い視線。
「最後の人だけやっていいですけど他の人は解放してください」
「……触るの嫌なのでパスで」
「私も嫌ですよ」
「すみません。この変態は俺らが言い聞かせますんで!」
「ならそれで許します。ほら、行った行った」
強面三人衆を退場させ、私達は残された幼女に事情を聞くために近づく。
すると、半泣きだった子は急に走り出してしまった。
「こんな所であてもなく走ったら迷いますよ!」
引き止めるために注意したが、無視して茂みの奥へ入っていった。
はー、絶対迷うのに。
マツさんに追いかける旨を伝えようとしたが、何故か目をギンギンに張って開いてこちらを凝視していた。
「な、なんですか?」
「……どの口が迷うなんて言えたなーと」
正論はやめておくれ。
私を殺す気か。
「ゴホンッ! 追いかけますよ!」
「迷わないでくださいねー」
「くぅ〜! 追うだけなら迷うわけないですよ!」
[PET::ほんと?]
[焼き鳥::言ったね?]
[セナ::鳴き声たすかる]
まだ見える場所にいるから、先回りしてしまえばいいだけの話。
「【飛翔】!」
木々の隙間をかいくぐり、女の子の正面へ回り込――
「あれ?」
いない。
おかしい。
見失ったなんてことではない。ついさっきまでそこにいたのに、消えているのだ。
「ほら、もう見失ってるじゃないですか」
「違うんですよ。本当に気づいたら消えてたと言いますか――」
「おーい、こっちだよー」
先程と同じ距離感でまた走り出している。
鬼ごっこのつもりだろうか。
それなら本物の鬼であるマツさんにいってもらおう。
「マツさん、任せました」
「世話の焼ける人ですねー」
貴方には言われたくないという言葉を飲み込み、笑顔で送り出す。
少し待つと、マツさんが「あれ?」と私と同じ状況に陥る。
言わんこっちゃない。
「ね、今度は二人で一斉に捕まえますよ」
「あのガキ、捕まえたらボコボコにしてやります」
私は捕まえた後もこの人を抑え込まないといけないのか。
それなら捕まえられない方が楽かもしれない。
「行きますよ!」
「とっちめてやります。待っていなさいクソガキ!」
本物の鬼は、鬼という名に恥じない鬼の形相である。消えたり現れたりするイタズラ好きの謎の幼女を捕まえるため、二人がかりで、森の中を全力で駆ける。
しばらくの追いかけっこの後、森の外に出ていったのが見えたので、最後の詰めだと思って二人揃って飛びつく。
「「あ」」
足元が無く、簡単に言うなら巨大な落とし穴に入ってしまった。幼女も一緒に。
「なんで飛べないんですか!」
何故か【飛翔】が発動していない緊急事態で混乱して一人叫ぶ私。
「ここは【天使の墓場】を参考に作った入口だからだよ、お姉ちゃん」
「ミドリさん、私こいつやっちゃいますね」
「もう好きにしてください!」
落下しながらワチャワチャするが、マツさんの殺意は本気のものだ。今回に限っては罠に嵌められたのでやっちゃっても問題は無いはず。この高さから落下したらいずれにせよ死ぬからね。
「【鬼拳】」
土手っ腹に強烈なパンチが入り、液体のように体が飛散した。
「あははっ! またね、天使さんっ!」
幼女は嗤う。
そして、ゆっくりと消えていく。
その黒くて暗い瞳の奥で、より暗い黒猫が蠢いているように見えた――――




