#85 害虫駆除、保護者斡旋
偉そうに息巻いたものの、そう簡単にいくとは思っていない。
しかし、ナズナさんならある程度の場があれば余裕とも考えている。
「大勢の前で歌えますか?」
「そんくらい余裕」
「でしたら私も精一杯のことをやらせていただきます」
「あっ、おい……!」
驚くナズナさんを無視して、綺麗な髪をいじり始める。
ステージに立つのなら、灰色よりはインナーカラーの虹色を強調したい。
あれ?
灰色なのは意外と表面だけだ。
これなら、横の髪を後ろに回して、前髪はフワッと。
「この虹色の、前髪の先も染めたいんですけど、あります?」
「それ、地毛な」
「????」
「地毛」
「……分かりました。なら色を抜くやつありまへん?」
「こんなの水で洗えば落ちる。まぁ水なんて酔狂な魔法使いくらいしか出せねぇけどな」
そういえばここで水道らしきものを見ていない。食事は必要だけど、水分は要らないのだろうか。
そんな疑問も抱きながら、【神聖魔術】の詠唱を開始する。
◇ ◇ ◇ ◇
神の涙は対象が一人だからか少なかったが、灰色を落とすには十分だった。
いい具合に髪や肌のケアはできた。
あとは服装。
こればかりはどうしようもないなー。
う~ん……。
「服ならあてがある。ちょっと待ってな!」
「落ち着いた雰囲気のでお願いしますよ。あ、私の分の黒スーツといかついサングラスもお願いします」
「あんたも随分と図々しいな」
「お互い様ですよ」
走り去っていく小さな背中を見送り、翼を広げる。
彼女の一番の障害を排除しておかないといけないのだから。
「【飛翔】」
低空飛行で、地面すれすれを行く。
いつまでも迷子の私ではない。
ここの住民が実体を持っていることは確認済み。
つまり、足跡からの尾行が可能なのだ。
目を凝らして薄い足跡を辿っていく。
たどり着いた場所には控室と立て看板がある。
現実だったら警備員の一人や二人、立っていることだろうけど、ここは冥界。
危害を加えるなんてこともないのだろう。ファンが押し寄せるとかも、祭りが続行しているうちはなさそうだし。
「お邪魔します」
「は!? だr――」
「【縮地】、斬られたくなければ騒がないでください」
「――⁉」
目には目を歯には歯を、優位な立場には同じものを。
彼女の代わりに、できる私がやるのだ。
徹底的に、近づかないでおこうと思わせるぐらいに。
「要求は一つ。ナズナさんに今後一切関わらないでください」
いびり小姑もどきさんは、ナズナさんが成功したときに何かしらの嫌がらせをしかねない。
まずは素早く脅して、次は信用できる保護者……もとい次期プロデューサーを見つけないとだし。
「分かったわよ、関わらなければいいんでしょう?」
「……火よ、〖ファイヤ」」
「ヒッ……!」
あまり時間をかけたくないので、いざとなれば火あぶりも辞さない。
火に対するリアクションとしては完璧だけど、そんなジョークを言う空気ではないので飲み込んでおこう。
「いいですね?」
「分かったから、それしまってちょうだい」
「返事ははいかYesか、死んでお詫びいたすかのどれかです」
「はい!」
圧をかけているから従順でいいね。これぞ弱肉強食の世界って感じ。
今の私は相当クズだろう。
でも、私の人生の汚点が増えるだけで一人の少女を救えるのなら、おやすいものだ。
「よし。とりあえず忘れないように一発いきますよー」
「は――」
魔法はちゃんと消して、と。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます」
相手の手の甲から指の隙間に私の指を入れて、力を加えて固定する。
左足を踏み込んで、
「指切ったあぁぁああぁ‼」
ぼちぼちに育ったステータスに任せて、外の人混みの方へぶん投げる。
騒音に紛れていく悲鳴を聞き流し、次なる行動へ移る。
「【疾走】」
休むことなく、全力疾走で再び路地裏に戻っていく。
◇ ◇ ◇ ◇
さてはて。
どうしたものか。
張り切って走り始めたはいいものの……。
「ここどこ」
しつこいくらい、私の中の迷子属性が主張してくる。
このままだと私の完璧なプロデュース戦略が――強化されていないガラスのように砕け散ってしまう!
なんとか、なんとかしないと……!
◇ ◇ ◇ ◇
「おーい、探した……何してんの?」
「ふぬぬぬぅぅ……あ、ナズナさん。すみません。スキルが都合よく発動しないかと踏ん張ってただけです」
役立たずに名を落としつつある【天眼】に最後の機会を与えてあげていたのに、これっぽちも発動の予兆が無かった。
そんな私の事情は置いておこう。
もっと厄介な案件が目の前にある。
「えーと、狼さんも、さっきぶりです?」
私を追いかけまわした例の狼さんが、ナズナさんの後ろにいたのだ。
「子供をこんな街中で放っておくもんじゃあネェヨ」
ぐうの音も出ない。
確かに場慣れしてそうな子だし、すばしっこいからと一人にしていたが、よく考えたら個々の治安だ。危険は至る所に……あれ?
「もしかして子供好きなんですか?」
「……食ってやろうカ?」
その殺意を私に向けてくるあたり、出ちゃってるんだよねー。
いいね。
条件としてはピッタリ。
「食べるのはなしでお願いします。そんなことより、です!」
突然前のめりになった私に気おされて後ずさる二人。
そこに、追い打ちのように指を突き出す。
「信用できるかはギリギリのラインですが、鬼ごっこした仲でもありますし――」
「鬼ごっこじゃないゾ?」
「そこで! 貴方にはナズナさんの保護者兼プロデューサーになっていただきます!」
ガバガバ感やグダグダ感も否めないが、早急な解決で一番正解に近いのがこの狼さんだ。
全て出来高になるけど、きっとこの狼さんは見捨てれないから。
私のためにも、ナズナさんのためにも、申し訳ないけどその優しさ、利用させていただきます。
「…………生者だから、カ」
「はい?」
「よろしくな、ばぁさん」
どこか悲しげな表情を浮かべる狼さんに、何を思ったのかナズナさんが握手を求める。
「はぁァ、仕方ないネェ」
その手を握る狼さん。
二人がどんな出会いをしたのかは知らないが、私とマナさんの出会い程ではないにしろ、それはきっと運命的なものだったのだろう。
その様子が出会って間もないはずの二人からとれるのだから間違いない。
「それで、服装は?」
「あぁ、ちゃんとこん中に着てきた」
ボロ雑巾のようなマントの中には、質素で顔から上を引き立てる色合いながらナズナさんの細いシルエットを覆うダボッとしたパーカーに近い服を着ていた。
「私の黒服グラサンもありますか?」
「ほれ」
「おー、注文通りですね」
ヒョイっと放られた一式を受け止め、早速着替える。
サイズがピッタリなのは気になるけど、今はもっと大事なことに時間を使おう。
明確なプロデュースのプランを、練るとしよう。
「ふふふ……」




