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#83 冥界、黄泉、パーリナイツ!




 至る所からズンチャカズンチャカと騒がしい音楽が鳴り響いている。



「ここはどこですか?」


 ――ウェーイ!


「冥界だよ☆ 異界人に分かりやすく言うと地獄って所かな☆」



 ――盛り上がってるかい!

 ――イェーイ!



「うるさっ!? え、ここが地獄? ある意味地獄みたいな光景だけど……」



 ――ここで飛びっきりのゲストのお出ましだ!



「今日はお祭りみたいだね☆」

「……それならまだ良かったです。普段からこれなら死にたくない人もいるでしょうし」



 それにしても陽キャ祭りとしか感想が出てこない。都会でも今どきこんなバカ騒ぎしないだろうなー。



「祭り、楽しむかい?」

「まさか。今度はみんなで来ますよ。そのために早く帰らないと」


「今度なんてあるのかは微妙だけど、それがいいよ☆ あまり長居すると君まで死者になりかねないからね☆」


 オセロじゃないんだからそんなことにはならないでしょ。冗談は流しそうめんにして食べるとして、この人混み――死者混みは通りにくい。




「あ、武器は常備した方がいいから、これあげちゃう☆ 治安はわたしもどうしようもないからねー☆」


「ども」


 二つの剣が入るホルスターを受け取り、腰に付けてみる。軍服というのもあって、様になってるのではなかろうか。


 ん?

 後半聞き流しちゃったけど、治安がなんて――



「失礼」

「あ、すみません」


 小走りの人と肩をぶつけてしまった。

 これだけ混んでたら避けたくても避けれないし、お互い様。



「いやー、面白いくらいトラブルに遭遇するね☆ その子を連れて脱出の支度はしておくから、頑張ってね☆」

「触らせないって言いましたよね?」



 ――フゥゥ〜!!!!


 睨んだ途端、ここら辺一帯が爆発したかと思うほどの盛り上がりを見せる。ステージらしき場所では、パンクロック系のパフォーマンスが行われているから、きっとそれだろう。



「――」


 シフさんが何か言っているが、歓声に掻き消される。聞こえないアピールをすると、今度は自分の腰をトントンと叩いている。



 腰を見てみろということだろうか。

 キャシーさんを背負ってる上に人混みで見にくいので、必死に身をよじって確認する。



「……」



 無い。



「剣が――!」

「うるさい」


「ひぃっ!?」



 周りに張り合って叫ぼうとしたら、キャシーさんが目をこすって起きてしまった。殺気を感じて変な声が出てしまったのはご愛嬌。


「じゃあ、わたしはこの子と静かな場所まで行くからね☆」


「……分かりました。変なことしたら殺しますから」

「んー☆ 手厳しい☆」




 聞こえる距離で身を寄せて話す。


 現状それしか選択肢は無い。

 二人と別れて、とりあえず人混みから抜け出すために外へ外へ人の波を泳いでいく。





 ◇ ◇ ◇ ◇



「はぁはぁ…………地獄の人達がこんな生き生きとしてるなら、悪人の方が得してない?」


 純然たる疑問をボヤきながら、路地裏で息を整える。


 路地裏は私の生息地といっても過言じゃない。

 困った時は路地裏。

 路地裏しか勝たん!



「うぉぇ――」


 おろろろろと、小さく縮こまってから吐く。

 人に酔ってしまった。

 乗り物酔いはしない派だけど、あんな人混みなんて行ったことあるかも記憶にないくらいだからね。慣れてないとあれは誰でも酔うと思う。



「ふぅ、ひとまずはスッキリ。一回吐くと世界が違って見えるなー」


 嘔吐教でも創設しようか。


 ……頭おかしいんじゃないの?

 前のG()の件で懲りなさいよ、私。



「だめ、疲れてきてる!」



 自分の頬を張って気合いを入れ直す。


「よしっ! まずは――――」


 …………。



「どうしよう?」



 誰かに盗られたのは察しているけど、あんなに人がいたら取り返すのは相当骨が折れる。

 盗人が元いた場所からも離れているのは明らかだし……。



「天眼先生! 出番ですよ!」


 困った時は【天眼】先生がなんとかしてくれる。

 路地裏と【天眼】先生のコンボなら向かうとこ敵なしだ。



 ――シーン!


 気合いの入った静寂が返ってきた。

 本当に疲れてるのかもしれない。



 ――シーン!

 ――シーン!


 ――みんな、ありがとぅ〜!!!



「紛らわしい」



 どうやらさっきの人達のグループ名みたいだ。

 タイミングを弁えて欲しい。



「そこなお嬢ちゃん、お困りカイィ?」

「お困りです」



 お困りしていると、老婆に声を掛けられた。

 路地裏とはいえ、ずっとしていたお困りアピールは有効のようだ。



「最近頂いた、{適応魔剣}ってやつをスられてしまいまして」

「それは可哀想だネェ」



 ケタケタと笑う老婆に、嫌悪感を覚えて後ずさる。


「あのー、失礼ながら伺いますが、貴方、人間じゃないですよね?」


「よく気づいたネェ! 生きた天使なんてご馳走を前にヨダレでも垂れちゃったカナァ!?」



 元気よく襲いかかってしたお婆さんは、狼の姿となっていた。


 完全にモチーフが分かってしまった。


 赤ずきんに出てくる、お婆ちゃんを食べた狼だ。




「【疾走】!」



 全力で逃げる。


 何故戦わないのかって?

 こんな三次元的な動きがしやすい、狭い場所で戦うなんてアホのすることだからだ。




「誰に説明してんの、私! 逃げるのに集中しなさい!」


 相手も足が速い。

 油断したら簡単にパクッといかれる。


 曲がりくねり、適当に逃げ続ける。


 こんな激しい鬼ごっこをしたのは王国でのキメラ戦ぶりだろう。

 こちとら超格上相手に逃げおおせた足ぞ? 

 狼の一匹や二匹、一瞬で撒いて見せようぞ?



 ◇ ◇ ◇ ◇




「もう勘弁〜!!」


 一時間は足を止める暇なく走った。

 なのに離れるどころか、狼を筆頭に、今もなお増え続けている死者の大軍に追われている。



「ん? 死者?」



 そういえば、死者に効きそうな魔術があったような……。いや、あれは不死系の生物を()()に送るんだっけ。


「――黄泉ってどこ?」


 ここは冥界、下は奈落。

 でも、日本の冥界が黄泉ってイメージがある。

 なら冥界イコール黄泉なのかな?

 分からない!



「えーい、ままよ! 女神ヘカテーよ、我が憐憫の情を聞きつけ、歪んだ者を安寧の世界へ運びたまえ、〖ゴッデスティアーズ〗」



 唱えた瞬間、魔法陣から水がこぼれたので、急いで後ろに向ける。



 轟音。

 洪水と見紛うほどの水量の、神の涙が出ている。


 泣きすぎでは?


 ともかく、昇天してる様子もないし、やっぱりここは冥界であり黄泉でもあるのかもしれない。涙に効果はないけど、物理的な効果はあるのでこのまま逃げてしまおう。




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