#9 【AWO】二日目、朝です【ミドリ】
「おはようございます」
「あ、おはようございます! すぐに朝食出しますねー」
「ありがとうございます」
一階の食堂のような場所では、私含め数人だけ居て、各々朝食を食べている。
現在時刻は7時。気持ちの良い朝だ。
「お待たせしました! どうぞ召し上がれ」
「いただきます」
出されたのはフランスパンと溶けているチーズ。美味しそうだ。
「かけてお食べ下さい」
「どうも」
パンを半分にして、アツアツのチーズをかける。なんて贅沢な朝食なんだろう。
実食。パンの硬さとチーズのとろみのマッチが素晴らしい。
「すごく美味しいです」
「やった! ありがとうございます!」
嬉しそうでなにより。それにしても本当に美味しい。ガブガブとすぐに食べきってしまった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまです!」
宿屋から出て、準備をしつつ冒険者ギルドに向かう。市場はかなり賑わっている。こっちも朝から元気な気分になってくる。
ん? 運営から何かメッセージが。公式サイトに名前を載せていいかの確認だ。下手なトラブルは避けたいし、匿名に。
よし。
告知をして、配信を開始する。
「おはようございます」
[フカヒレ::おはよー]
[カレン::おは〜]
[芋けんぴ::おはよう!]
[壁::おはミドリ〜]
[キオユッチ::おはよ〜]
[唐揚げ::おはよう]
[味噌煮込みうどん::はろー]
「おはミドリ? アオミドロみたいな語感ですね」
[ソキノニ::たし蟹]
[階段::そう?]
[ソクラテス::わからんでもない]
[無子::おはミドリいいね!]
[燻製肉::おはミドリ〜]
[天変地異::謎のチョイスだ]
まあ、使わないだろうけど。
ギルドが見えてきたし、そろそろ黙ろうかな。昨日のことは……言わなくていっか。
朝だからかギルド内も人がいっぱいだ。人間ばかりで他の種族が居ないのは、ここが人間の国だからだろう。
天使はまあ、教会みたいなところが初期地点っぽいし、セーフかな。
そう考えると悪魔はどうなるんだろう?
人垣をかき分けてボードの前に行く。依頼が充実していて、選びがいがある。
「これは……」
地下水路にいる魔物、ドブネズミの討伐がある。他にも討伐系の依頼はあるが、これだけ妙に報酬が高い。昨日の出費を取り返すにはちょうどいい。
ボードから取り、受付の列に並ぶ。進むペースは早いからそんなに待ち時間は無さそう。でも昨日の依頼の報告は帰ってからしよう。
順調に真ん中辺りまで進む。
「どけよ! ガキがっ!」
スキンヘッドの男が私の前に割り込もうとしてきた。弱そうな人を狙ってやってるということは、常習犯かな。
「嫌です」
「あぁん? 俺はCランクのべソクだぞ!」
べソク? あ、名前かな。困った。どうやって対処しよう? 譲るのだけ絶対しないが、ここで戦うのもなぁ……。
「何をしている?」
スキンヘッドの肩を叩く人影が。
「げっ、ギルマス!?」
ギルドマスターが助け舟を出してくれたようだ。この反応からして、普段は見張ってたりしてないんだろうなー。
「こいつが割り込んできたんだ!」
スキンヘッドがホラを吹く。いじめの現場とかはこんな感じなんだろうか?
「ほう?」
ギルドマスターがこちらに視線を向けてきたので、首を横に振って応じる。
「こい」
そう言ってスキンヘッドの首根っこを掴んで引きずっていく。
「な、なんでだ!?」
おそらくここの人達特有の天使リスペクトだろう。助かった。
「お次の方〜」
そうこう騒いでいたうちに、私の番になっていた。受付嬢は昨日と同じ人だ。
「これ、お願いします」
「はーい。…………え、いいんですか?」
「はい」
「わ、分かりました。地下水路の入口はここです。依頼を受けてきたという旨を監視員に言えば入れますので」
「了解です」
そんなにこの依頼、人気ないのだろうか。確かに臭いとか、汚れるとかあるだろうけど……。
南にあるらしい、地下水路の入口に向かう。
「ドブネズミってどれくらいの大きさなんでしょうね」
[アシカガ::でかいんでしょ(適当)]
[紅の園::そういうのも冒険者がやるんだねー]
[セナ::汚そう]
[蜂蜜過激派切り込み隊長::ドブネは人間の子供ぐらいの大きさ]
[枝豆::ねー]
「子供サイズですか、まあまあですね」
大きすぎず、小さすぎず。
「ちなみに今回の依頼は、ここの地下水路の清掃員からのでして、偶にドブネズミが湧くので清掃ができないのだそうです」
依頼書に書いてあったのを教えてあげる。気になってる人もいたみたいだし。
[死体蹴りされたい::へぇ〜]
[カレン::ほぇ〜]
[蜂蜜穏健派下っ端::なるほど]
[味噌汁汁抜き::へー]
朝だからか、心なしか脳死してる人がチラホラ。
あ、そういえば。
「話は変わりますが、ユニークスキルってどれくらい強いのでしょう?」
まだ【ギャンブル】の実験をしてない。一人だとできないみたいだから。【職業神?の寵愛】は完全にサポート系だから何とも言えないし。
[ヘツノェ::持ってるんか!?]
[芋けんぴ::持ってるの!?]
[スクープ::持ってるんですか!]
[天変地異::持ってるん?]
[燻製肉::今日増えた匿名の人はそういうこと?]
[あ::まさか……]
[らびゅー::どうなんだろ]
[隠された靴下::持ってるの?]
[節後::わからん]
[紅の園::強いんじゃない?]
おっと。公式サイトにユニークスキル持ってる人の名前載るんだ。折角匿名にしたし、嘘ついた方がいいのかな?
決めた。明言しなければ大丈夫! ……なはず。
「どうでしょうねー」
[枝豆::絶対持ってるやん]
[蜂蜜過激派切り込み隊長::ユニーク引いたから昨日運が悪かったのか]
[壁::それは持ってる人の言い方]
[ソキノニ::裏山]
[阻止獅子::うがー!!]
視聴者さんたちと戯れているうちに、地図にあった場所に到着した。
地面に取り付けられた小さな門の前に、人が二人立っている。この人達が監視員だろうか。
「すみません、冒険者ギルドの依頼でドブネズミ討伐に来ました」
「……」「……」
つばのある帽子で表情は見えないが、無言で門を開けてくれた。
階段を下って地下水路に入る。
「無愛想な方達でしたね。返事ぐらいしてくれてもいいでしょうに」
[階段::徹夜なんじゃない?]
[コオロギ::見惚れてたんでしょ]
[唐揚げ::コミ障なんでしょ]
[酒::言ってやるな]
あまり触れない方が良さそう。配慮配慮。
案内も無しにドブネズミを探す。なかなか見当たらない。
ここはそこそこ臭いが、そこまで酷くはない。戦闘で下水がかかりそうなのが嫌だなー。
「ん?」
水路を流れている水に、少し赤色が混ざっている。
ドブネズミが何かと戦ったのかな? なら共倒れしていると楽なんだけどね。
血の流れに沿って歩く。少しずつ混ざっている血が濃くなっている気がする。
「嫌な予感がします」
[あ::血が流れてる時点でしてくれ]
[芋けんぴ::チラッと見て、報告した方がいいのでは?]
[カレン::慎重にね!]
[隠された靴下::同じく]
突然、赤い光の線が見える。曲がり角から、私に向かって伸びている線だ。
これはここが危険と教えてくれているのかもしれない。昨日は黄色のだったし。
「ngcgr」
「……ッ!」
線から避けて、屈む。
何かが真上を通っていく。
「うそ……」
振り向くと、そこには例のキメラが大きめのネズミを咥えて立っていた。
屈んでいなければ、今頃あの爪の餌食となっていただろう。
「ordmhbi」
キメラがネズミを咀嚼し、飲み込んだ。
少し後退し、曲がり角の先を覗くと、ネズミの山ができていた。血もそこから流れている。
「【飛翔】」
正面から勝てる気しないので、背を向けないように後ろ向きで飛んで逃げる。
道なんて知ってるはずもなく、曲がりくねり、キメラを撒こうとがむしゃらに飛び回る。
「ぜぇはぁ、いつからホラゲーになったんですか…………」
効果時間が切れたが、キメラは付いてきていない。撒けたみたい。
[キャベツ::ナイス!]
[らびゅー::いい逃げ]
[味噌汁汁抜き::キメラは怖いよな]
「ylgqo」
赤い線。水路を挟んだ反対側に跳んで避ける。見つかっちゃったかー。鼻がピクピクしてるね。
もしかして、
「鼻がきくからですかね」
地下水路の臭いがそこまで強くないから、私の匂いを追えたのだろうか。
「それにしても、困りました」
[阻止獅子::お?]
[セナ::ん?]
[蜂蜜穏健派下っ端::ん?]
[死体蹴りされたい::どした?]
「逃げたいのですが、入口の場所を覚えとくのを忘れてました」
[カレン::あらら]
[芋けんぴ::迷子定期]
[紅の園::あっ]
[フエリ::あっ]
[酒::いつも迷子やん]
無意味な逃げで、逃げ切る道が閉ざされてしまった。
【飛翔】のクールタイムまで逃げるのは無理だろう。ここは一旦体勢を立て直してから、戦うしかない。
後ろの曲がり角を曲がって仕掛けよう。重いから大剣はギリギリまで取り出さないようにする。
少し睨み合いながら、ジリジリと後退していく。
「……来いっ!」
曲がり角を曲がって、ストレージから大剣を取り出し、抜く。
「りゃあ゛ぁ!!」
飛びかかってきたキメラの額に命中する――――
一応補足しておきますが、書いてあるのはミドリが視認したコメントだけです。実際はもっと流れてます。