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【Alternative World Online】翠の天使、VR世界で徘徊中【ミドリ】  作者: 御神酒
第4章『昏き底』

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#76 重なる景色



 上空で眺めるのもつまらないので、キャシーさんのお家にお邪魔する。

 作られた剣とナイフは壁に掛けられて放置されている。



『あ――うん。リビングからは動かないどこうかな』



 タイムラプスが続く中、家の中を探索していたりしていたがやめた。

 向こうからは見えないとはいえ、後で会う人の夫婦の営みを直視できる程の胆力は無い。



『でも、まさか子供もいる寝室でやるとは思わないじゃん……』



 目を離せないのは分かるけど、教育上どうなのか。



 そんなこんなでリビングの隅で体育座りをしながらキャシーさん達の日常を眺めていると、時が正常に動き始めた。



「……いって、らっしゃい」

「大丈夫、絶対帰ってくるから。この剣に誓って」


「約束よ。絶対、生きて帰ってきて」



 子供が昼寝している時間に、キャシーさんの旦那さんが支度をしている。


 二人が剣とナイフをぶつけているのは、誓いの証かなにかだろう。危険な場所にでも行くのかな。



「戦争なんて、無ければいいのに……」

「仕方ないさ。お国の考えている事だからきっと必要なことなんだよ」



 拾える単語からの推測だけど、戦争による人員徴収っぽい。これを見せてくる辺り、何となく結末は察せてしまう。



『悲劇なんて見せないで欲しいのに』



 ますますキャシーさんがこれを見せる理由が知りたい。こんなのを見せられて、何と声を掛ければいいのか。



 景色が歪む。

 タイムラプスではなく、今度はスキップのようだ。


 子供も少し大きくなっている。




「そん……な…………」



 玄関を開けた人が何を告げたのかは、彼女の反応から(うかが)える。


 訃報。


 分かっていた。

 ありきたりな展開だとすら思っていた。


 それなのに――


『つら……』



 幸せな日常を高速とはいえ見せられたから。

 直接自分で目の当たりにしているから。


 こんなにも、心が締めつけられる。



「おかさん、どうしたのー?」

「……何もないわよー。ちょっと今からおばあちゃんのとこに行こうか?」


「わーい! ばぁば!」



 日常を演じて、その亀裂を誤魔化している。

 子供は気付いていないが、傍目で分かるほど今のキャシーさんは作り笑いをしていた。


 伝令の人が去り、二人が家を出る。

 それからキャシーさんのお母さんの家に行き、子供を預けて再び自宅に戻ってきた。


 キャシーさんも泣きたいのだろう。

 見えなくとも席を外して――



「フフフッ!」



 気味の悪い笑い声で思わず振りかえる。



「いるんでしょー?」


『っ!?』



 私の存在に気付いた?

 完全に見えてないはずなのに……!



「ねぇ、悪魔さーん」


『……そっちか』



 でも、確かに嫌な臭いが強くなってきた。

 悪魔だ。



「えぇ。力だけ、寄越しなさーい」



 今、彼女は自身の中にいる悪魔と対話をしている。普通の人から見たら頭がどうにかしちゃったと思われるだろうが、天使の私からしたらイヤーな状況だ。



「へー、まあ大丈夫ー。これが最初で最後だから」



 飾られていたナイフを掴んで家から足を踏み出す。

 美しく綺麗だったナイフの刀身が、黒く、鈍く染まっていく。



「【怠惰の悪魔】」



 村をこっそりと抜け出したところで、遂に本格化する。キャシーさんから羽と角が生え、全身を黒い何かが覆った。


 高鳴る本能を抑えながら、事の顛末を見守る。



「フフフフッ! おやすみなさい、永遠にー」



 その羽で辿り着いた大きな町で、蹂躙が始まった。


 圧倒的な力によって、為す術なくもの言わなくなっていく群衆。積み上げてきたであろう全てを理不尽な暴力で無駄にさせられる軍人。



『……ッ』



 あまりの地獄絵図に、高度を上げて悲鳴だけでも遠ざける。

 しかし、決して目は逸らさない。


 ――逸らしてはいけない。



 大きな騎士団らしき軍勢がキャシーさんを包囲している。あの人数からしてここはかなりの都市機能を持っているようだ。


 でも、あの程度では無理だ。

 次元が違う。



『もう、やめて――』



 一瞬で軍を滅ぼし、お城へ向かっている。

 一気に最上階まで駆け上がり、ここの支配者と思しき人間と向き合う。


 その間に一人の女性が立ちはだかった。

 大した特徴もない、黒髪の女性だ。



『――なんて、私が言えたことではありませんよね』




 何度やられても立ち上がるその女性に、冷たい目線を向けるキャシーさん。

 結末は、変わらない。




『私の時と同じ、特別が勝つだけの憂さ晴らし。神様の用意した理不尽な“ざまぁ”展開……』




 つい先日、私もマナさんが不安定な状況になって行ったこと。

 背負うべき罪を、荒れ狂う感情ではぐらかされた命への不誠実を、客観的な場所で見せられている。



『だからこそ、目を逸らす資格は無い』



 罪悪感で押し潰されそうな自分を必死に保つ。

 麻痺してきていた感覚を正常に戻していく。



 全てを壊したキャシーさんが空を仰ぎ、気だるげに涙を流している。そこには達成感なんて無く、ただ空虚な表情が張りついているだけだった。



 再び景色が歪む。

 今度は大きな墓地。


 参拝者が沢山いる上に付近の建物がボロボロだからそんなに時間は経っていない様子だ。



 色んなお墓の中でも一番人が集まっているのは、さっきの最後まで戦っていた騎士のお墓だ。あんな凛々しいマントを羽織っていた人は他に居なかったからすぐに分かった。


 静かに追悼している中で、一際激しく泣いている大男がいる。大事な人だったのだろうか。


 ズキっと胸が痛む。



「……寝よー」



 物陰から眺めていたキャシーさんが立ち去る。

 向かう方向は村とは真反対。

 これからどうするのだろう?

 置いてきた子供はどうなるのだろう?



 ◆ ◆ ◆ ◆



 小さな瞳が私の眼前にある。



「…………終わりですか」


「そ、ここからは寝てただけー」




 その名の通り怠惰を(むさぼ)っていたということか。

 そんなことより気になることはたくさんある。


 でも、まずは――



「後悔、してますか?」


「?」




「一時の感情に身を任せて、多くの人の人生を、生活を脅かしたことに後悔はしてますか?  悪い人にもカスのような人にも、人生があって、大切に想う人が居て、それで――」



「長い」



「あだっ!?」




 かなり強いデコピンを額に食らった。

 自分が要領を得ないことを言っている自覚はあるけど、今は勘弁してほしい。余裕が無い。



「後悔なんてしてない。それこそ殺した人達を侮辱するからー」



 キャシーさんはそう言って布団に倒れ込む。

 相変わらず表情に変化は無く、冷たい。

 でも、その瞳の奥から温かさを感じる。



「殺した人の分まで背負うー。レベルが上がるのはそういう意味だと思ってるからー。人生も、憎しみも、全部抱いて私は眠る」



 レベルの概念は、そういう捉え方もあるのか。

 ただのゲームシステムとして流していたけど、この世界で生まれた人からしたら立派な世界の法則なんだ。


 ……この世界で生まれた人。

 そうだ、ここの人達だってそれぞれの人生を歩んできたんだ。戦いに身を置いていたせいで忘れていた。


 現実にいる人たちと何一つ変わらないことを。

 そんな大切で尊い命を、私は、私は!



「強い人もー、弱い人もー、有象無象もー、みんな死ぬ」

「はい?」


 私の方を見向きもせず、話は続く。



「そこに違いは無いけど、大切な人の死には“別れ”がついてくる。命の天秤はその差で傾く。優先順位を忘れちゃだーめ」


「でも、でも、私は何も無かったのに殺しました! ただの人殺しなんですよ! 貴方はまだ復讐という名目がありますけど――」



「【怠惰の永眠】」



 手の平を向けられる。

 突然眠気に襲われて――




「え?」


 この感じ。死んだ?


「頭冷えたー?」

「は、はい」



 この奈落ではリスポーン地点は自動更新されていくから場所は変わっていないが、この気持ちの悪い余韻は死んだ時のそれだ。


 即死系のスキル?

 強すぎない?



「人は肉を食べるー。家畜を殺すのも、人を殺すのも一緒。死の重さは同じ」

「そうですかね?」



 食用とか明確な目的がある分、命への感謝はあると思うんだけど……。



「……めんどくさ」

「そ、そういえば、何であれを見せたんですか?」



 ボソッと呟いたのが聞こえたので、話題を変える。何度も殺されるのも気持ちいいものではないからね。



「気に入ったからー」

「なるほど?」



「お互いの過去を言う。女子会ー」

「なるほど」



 強制女子会(人生の重い部分を晒す)とか随分と斬新な女子会で。ここ数日で積み重なった人恋しさが無ければ間違いなく逃げてた。



「話してー」


「分かりました。私が異界人なのはご存知かとは思いますが、ここに降り立ったのは――」



 キャシーさんはうつ伏せで私は仰向けで顔は合わないが、一つのベッドの上で話しているからパジャマパーティーみたいだ。


 そんなルンルン気分は、キャシーさんの一言で即終了となった。




「違ーう。もっと根底。お前のその人格を形成したやつ。この世界に来る前」

「!?」



「聞かせてー」

「………………分かりました」



 向こうも相当晒してくれた。

 私がここで言わないのは絶対ダメだ。

 女子会の掟その三ぐらいに後戻りはできないとかあるはず。




「少し長くなりますし、この世界では通じない単語もあるかもしれませんが、都度聞いてください」

「んー」



 限られた人しか知らないことを赤裸々に語れるのは、よっぽど孤独が堪えたのだろう。


 重い口を開き、あの頃を思い返す――――



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