#74 孤独の味
「もう、なんなのここ……」
暗闇の中、一人彷徨う。
灯りなんて、すぐに死ぬから出すだけ魔力の無駄使いだ。おかげで目が慣れてきている。
この空間には何も無い。
よく分からない巨人と私しか居ない。
「どうしたものかなー」
かれこれ数時間探索しているが、地面はゴツゴツで壁も無いだだっ広い場所だ。明日から夏休みが終わるから安全な所へ行きたいんだけど。
何故かお腹は空かないけど、念の為ストレージに眠っている忌々しい果実を口にする。
「んっ、ごく……ご馳走様でした」
分かってはいるけど確認。
まずは耳。合計四つになってる。
次にお尻。はい、尻尾あり。
「やっぱり猫になるんだ……」
猫といえば、天使形態になればわざわざ魔力を使わなくても光るのでは?
踏ん張って翼と光輪を出す。
属性がコテコテのモリモリになってしまった。
「ねむ」
寝床もクソもないし、この辺でログアウトしようかな。何かされても巨人に踏まれるぐらいだろうし。
誰か一人で闇の中歩き回った私を褒めて欲しい。
「ログアウツ!」
気晴らしに叫んでからログアウトボタンを押す。あとは寝るだけ〜。
◇ ◇ ◇ ◇
奈落到達翌日、新学期のあれこれを終えてログインの支度をしていた。
私に限らず、最近は通信制の学校がメインだけど、行事や節目は直接行くことが多い。それが今日だった訳だ。
まだ物好きや地域によっては通うのもあったりしているから全員ではないけどね。
「サイレンさんはどうなのかなー」
呟きながらログインボタンを押す。
あそこにいると連絡ができないから困る。外の端末でも利用不可になっていたし。
視界が渦巻き、体が軽くなる。
「ふんぅ〜!」
伸びをして辺りを見渡す。私から発せられている光で視界に何かが入り込む。
「まだ猫化解けてないのね」
自分の猫耳だった。
それにしても、
「虚しいなぁ……」
一人で誰の反応も得れずに黙々と出口を探すとか、何の罰ゲームなんだろうか。
歩く。
道標として2号を引きずりながら。
奈落というだけあって、陽の光が全く無くてどうにかなってしまいそうだ。
孤軍奮闘なんて四字熟語もある通り、私はよく頑張ってると思う。
むしろ孤軍になったら奮闘しないとやってられない節もある。
孤独の寂しさを、自分を奮い立たせることで誤魔化すのだ。
「巨人さんが意思疎通できたらよかったんだけどなー」
一回試しに会話を持ち掛けたが、言葉が通じずにリスキル地獄にあった。
巨人語とかがあるのかな? 天使には無いのにどういう違いなんだろう?
有り余る時間のせいで次々と疑問が湧き上がる。
「マナさんと会いたい」
そして、しばらく考察した末に寂寥感に襲われる。マナさん自身は無事だから昨日までのようなマイナス100%のものではないだけマシかな。
「マナさん♪ マナさん♪ 私のマナさ〜ん♪ 可愛いマナさ〜ん♪ はーやく会いたいな〜♪」
適当な即興の歌を口ずさみながら、ペースを上げる。
今進んでいる方角が正規ルートかも分からない手探りだからこそ、この調子で気を紛らわていく――
◇ ◇ ◇ ◇
はい、奈落生活三日目。
昨日も全く進展は無しで気が狂いそう。
いや、一回狂った。突然暴れてやったのに、近くの巨人さんに蹂躙されて終わった。あの人達強すぎる。目からビーム出るし。
【不退転の覚悟】も使ってやろうかと思ったけど、前回ので結構トラウマになってて使えなかった。それもあって巨人さんの攻略は完全に諦めた。
そして何故か【ギャンブル】を全て外して散々な目にあったし。昨日は運悪すぎだったなー。
「いい加減猫化果実も飽きてきたし、早くここから出たい……」
猫状態だと尻尾が滅茶苦茶邪魔なのだ。
今着てる軍服はマントがあるから、足に巻きつけて邪魔にならないようにしている。
「ふなっ!?」
前方不注意で何かと激突した。
このパターンはもう何度も味わってきた、死ぬパターンだ。目の前のは壁ではなく巨人さんの足。
ミドリ、逝っきまーす!
身構えて踏み潰されるのを待つ。
この奈落ではその場でリスポーンするので巨人さんがどこかへ行くまでリスキルされ続ける。一度その場で寝られた時には頭おかしくなりそうになった。
「【怠惰の永眠】」
この奈落で、異質な音が聞こえた。
私以外の理解出来る言語。
女性の声。
ものすごく嬉しいが、今は死が眼前に迫っているのでそれどころではない。
加えた力を緩めず待っていると、目の前の巨人さんが急に向こう側に倒れてしまった。重さによる地響きで体が大きく揺れる。
「天使?」
「はい、そうです。ミドリって言います」
女性が近づいてきて、その姿が顕になる。
「そ、キャシー」
そう名乗った女性は、くすんだ茶髪で気だるげな目をしていた。チャームポイントと言わんばかりにそばかすが頬に振りまかれている。
街中で見かけてもおかしくない見た目なのに、この異質な雰囲気は何なのだろうか。
巨人を倒すほどの強者でこんな場所にいる辺りワケありなのは確定だけど……。
「…………来てー」
「え? わ、分かりました」
キャシーさんは目を細めて私を眺めてからそう促す。行くあてもないのでついて行く。
「貴方はこんな場所で何をしていたんですか?」
歩きながら私から話題を出してみる。
しかし、応えは一向に返ってこない。
「あの」
「うるさーい」
「アッ、スミマセン……」
そんなに声を張ったわけではないから、黙ってろということだろう。
無言の気まずい空気のまま、しばらく足を休めずに進み続ける。




