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「グレース。仕入れた魔石を見てくれる?」

「いいわよ」


簡素なワンピースに身を包んだ娘が、渡された石たちを凝視する。すると、彼女の灰色の目が一瞬銀色に光った。見る者が見れば驚くであろう、魔力の放出。それは瞬き1つの間にかき消える。


「うーん。こっちは魔力量は24、21、23。この大きさでこの出力だと、工房で使うランプ用が妥当ね」

「そっか。まあ、このくすんだ色だもの、予想通りね」

「こっちの小さいのは、まあまあよ。108と92。これだけあれば、何かに加工して売れるでしょう」

「よかった!これでベン爺に『お前が行くとろくな物を買ってこない』って怒られなくて済むよ~」


ほっと胸を撫でおろすと、石を袋にしまう。彼女もまた、同じようなワンピース姿だ。しかしその背中には、後頭部にまで及ぶ大きな羽根が生えている。


「何言ってるの。ジェシーが遠くの原産地まで行ってくれるから安く魔石が買えているのは、ベン爺だって分かってるわよ」


そう言って肩を叩くと、ふふっとジェシーは笑った。


「ありがとう!グレースのおかげで、元気出たよ」


ここ、アリーナ王国ノースタッド地区の修道院には、30人ほどの老若男女が住んでいる。その多くは、属性の少なさ故に家族から見捨てられ、世俗で生きられなかった者たちで、彼らは肩を寄せ合い補い合うことで糊口をしのいでいた。

ごくごく少額の寄付、それと魔石や薬草の加工品を売った利益、物の修繕依頼などが彼らの収入源だ。

そんな修道院が各地にあり、人々の最後の砦となっているのだが、世間からはないもののように扱われている。

それは、多属性を良しとするこの世界で、最も尊いとされる神が、百の手に百の属性を持つことに関係する。その神こそが最も尊い姿であるとして崇める教会も信徒たちも、逆に属性が少ないことは徳の低さの現れだという考えだからである。

つまりこの世界における修道院は、社会から、徳の低い者が身を慎むための更生施設のように思われている。


「でも私、世界で一番ここが落ち着くわ」


グレースは常々そう思っていたし、実際口にも出していた。

ここには、コウモリの羽と鹿の角と虎の尾が生えた眼帯中年がいない。犬耳なのに蛇の尾でツインテールの老女もいない。魔力に左右されるという髪の色がツートンカラーのものもいないし、主に赤や濃紺、茶色など、非常に目に優しい色である。特に焦げ茶や黒といった髪の色は、魔力に恵まれないとして世間では好まれないものの、前世の記憶を思い出したグレースにとっては、郷愁すら誘うものだった。

ところで、7つでここに来たグレースは、生まれつき属性が少なくて捨てられた者たちからも哀れに思われた。当時グレースの背中には羽根を撃ち落された傷跡が、お尻には龍の尻尾を切り落とされた傷跡があったせいもあるだろう。


「元々もっていたものを無くすのは、辛かったでしょう」


そう言って皆が労ってくれた。貴族の暮らしから自給自足に近い修道院の暮らしの落差は、幼い身体にはこたえるものだったから、その労りはありがたかった。けれど、傷が癒え、身体が慣れたころには、グレースの心はすっかり元気になっていた。

そして、気づいた。自分の目が、眼鏡なしでもよく見えるようになっていることに。

それから、耳も、異様によく聞こえることに。目など、30歩先の実体が見えれば良いというレベルだったのに、その10倍は離れている町の塔の時計から、さらには魔石の魔力量まで見えるようになった。それは、成長期であったことを差し引いても、驚くべき変化だった。

元々のグレースは、鑑定スキルを上げるために眼鏡をかけ、聴力補助の装身具をつけるためにツインテールにしていた。要らなくなったそれらを取り払い、鏡の前に立てば、豊かな銀髪を肩に下ろした、灰色の目の猫耳少女がそこにいた。


『これぞ、正しい猫耳の使い方!』


頭の中で誰かが叫んだ。


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