-2からの目覚め
グレースは、その日、ずどんと撃ち抜かれた。いや、正確には打たれたのはこの日ではない。だが、その時と同じくらいの衝撃を受けた。
「お嬢様……お労しゅうございます」
そう言って目頭を抑える乳母の目元には眼鏡。俯いた頭に見えるのは熊のような丸い耳。そして慌てて涙を隠し背を向けた、そこに小さな二枚の羽根。
「え……?」
口をぽかんと開けたグレースが、さらに哀れに思えたのか、乳母はいよいよ本格的に泣き始めた。
属性。
それは外見、そして能力に見られる特筆すべき性質。
ここ、アリーナ王国では、属性の多さこそが人の格であるとされる。
故に皆、多くの属性を求めて婚姻し、生まれたときからその属性を多方面に伸ばすべく教育される。
特に貴族社会においては、遠くの異なる種族の血を求め、より珍しい属性を得ることこそがステータスとされた。そして、運悪く属性を1つ2つしか持たないものは、貴族としての先はないとされ、その家に居なかったものとして扱われることすら往々にしてあった。
グレースは、7つの年に暴漢に襲われ、属性の2つを失った。そして、同時に家族と身分も失った。
しかし本人としては、死ななかったのだから、幸運だと思っている。
これは意地を張っているわけではない。
なぜなら、あの日。暴漢に傷を負わされて初めて目覚めたあのとき、グレースの中のもう一つの記憶が覚醒したのだ。
そして、悟ったのだ。
この世界は、属性が渋滞しすぎだと。
元々のグレースは、貴族社会で育ったごく普通の令嬢だったので、属性は多ければ多いほど素晴らしいと思っていた。
だから、自分の乳母やメイドにも3つくらい属性を求めていたし、それ以上に、自分の属性がたった2つ……しかも、目に見えるものは一つきりになってしまったことに絶望したはずだ。
しかし、新たな記憶が、それを上回る勢いで現状を断固否定していた。
属性は1つ2つだから際立つのであって、多いからいいというものではない、と。
多すぎれば、それぞれの強みがかえってぶつかり合って殺し合う。最悪、毒となるとも言えるだろう。
そんな価値観はこの世界のこの時代には存在しないものなのだが、唐突に思い出したもう一つの記憶が、叫ぶのだ。『獣耳に羽根に眼鏡に龍の尻尾におまけにツインテールの魔法少女騎士兼鑑定士なんて、ダメ、絶対』と。