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亡国の姫ルサルカ  作者: 巫 夏希
第一章 ルサルカ邂逅編
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第17話 ルサルカの願い(1)

 ユウトはマリーと別れると、先程の話で出た情報を頭の中で整理していた。


「……しかし、古代文明の姫、ねえ……」


 仮にその情報が真実であるとして、ルサルカが同じ名前で、家族を探している理由にはならない。

 彼女のことを憶測で語りたくはなかったユウトだったが、とはいえそれを手伝うためにはある程度の理由付けが必要でもあった。彼女のことを裏で探るのは、あまりにも自分が悪いことをしているようで、何処か申し訳ないような気にもしてきた。


「……ちゃんと分かったら、謝ろう……」


 きっと謝ったところで、本人からしてみたら何をいきなり言っているんだという話になるのだろう。

 しかしながら、ユウトの性格からして、それを簡単には片付けられなかった。ある種、考え過ぎというところもあるといえばあるのかもしれないし、ユウト自身も面倒臭い性格であることは理解していた。理解していたからこそ、それを解決しないというのも、それはそれで問題かもしれないが。


「まあ、それについては追々考えるとして……。考えりゃ済む話なのか、それって?」


 思わず自問自答してしまったが、しかしながら、それ以上のことは何も考えられないのが現実だった。


「ただ……、ルサルカが思っていることは事実だろうし」


 家族との再会。ルサルカはそれを望んでいた。だからあんな遺跡にひとりぼっちで居たのかもしれない。

 いつからそこに居たのか、それは彼の窺い知るところではなかったが、しかしながら、それを理解するのは到底不可能だと言えるだろう。


「……ルサルカは、きっとどう思っていたんだろうな……」


 空を見上げながら、考える。

 考えたところで、きっとそれは解決することではなかったのだろうが。

 とにかく、今は帰りを待つ人が増えている。

 どういう面持ちで待っているのかは、流石にユウトも把握してはいなかったのだが。



  ◇◇◇



 今日も『アネモネ』は盛況だった。


「なーんか、最近『ハンター』増えたような気がするよ、気のせいかな?」


 ユウトの問いにケンスケは頷く。


「確か、またプラントが大量リストラしたらしいぜ? プラントも大儲け出来るところと、そうじゃないところが明確に二分化されちまったからなあ……」

「プラントと言っても、生産しているところは儲かっていないだろ。空気清浄のプラントに入れば生涯安泰だろうけれど、そこまで上手く動ける訳でもないし」


 シェルターにはプラントという施設が存在する。生産プラントと空気清浄プラントの二種類に分類されており、生産プラントは食料品など生活必需品を生産するプラントとなっている。かつては人が自分で生産する手法が好まれたことも多かったが、土地が少ないことや土壌汚染の観点から、九割以上の食料品がプラントで生産されるようになっている。


「プラントで作っている料理って、きちんと管理されているから色々とメリットがある……なんて聞いたことがあるけれどな。オーガニック、だっけ? 昔にはそんなことも流行ったらしいけれど、今じゃそんなこと出来やしないもんな」

「自然食品、だったっけ? いずれにせよ、それが出来るのは結構難しいだろうな。実際、それが出来るのは金持ちに限られるからなあ……。俺達みたいな普通のハンター暮らしをしているような人間じゃ、それをするには金が足りなすぎる」

「……それは同意するね。しかし、プラントを潰して『上』はどうするつもりなのかね。まさか輸入に頼るとか?」

「そりゃ、無理な話だろ。……ただ、特産品としてシェルターごとに何かを作っていて、それを輸出入しているのは聞いたことがあるけれど、それにも限界はあるだろ。シェルターだって金のあるシェルターとないシェルターがある訳だし、ここはどうだか知らないけれど、少なくとも豊かなシェルターじゃないだろうな」

「後は、有事が起きた際に自分だけで賄いきれなくなるのが大問題、って話だよ」


 ケンスケとユウトの話に、暇になったマスターが加わった。


「有事?」

「ないとは言い切れないだろう? ミュータントの存在さね。ミュータントは未だ遺跡を根城にしているけれど……、それも時間の問題と言われている。いつになったら、ミュータントが遺跡から出てくるのかは定かではないけれど、少なくとも人間よりは強い存在だからね。戦闘能力がない赤子や女性なんかがミュータントと遭遇したら、それこそ赤子の手をひねるように殺されちまうんじゃないかい?」


 何とも物騒な言い回しだが、しかしそれは事実だった。

 事実である以上、それを無視することは出来ないし、見て見ぬ振りをすることも出来ない。


「……殺されるだろうな。はっきり言って。……でも、それが起きるのはあくまで最悪の可能性。今は警備隊も居るし、遺跡を監視している部隊も居るそうだから、その辺りは問題ないんじゃないか?」

「上の考えは、下々には分からないものだよ、ユウト。……いずれにせよ、どう思っているかは窺い知ることは出来ない。ただ、上に見つかるようなことがあると厄介なのは、ユウトだって把握しているだろう?」


 ケンスケはそう言うと、ルサルカを一瞥する。

 ケンスケが言いたいのは、ルサルカのことだった。ルサルカは遺跡で発見され、マスクを付けなくとも穢れた空気を耐えうることが出来て、しかも古代文明の姫と同じ名前である――ある程度予想を推測することは出来たとしても、それがあまりにも突拍子過ぎて訳が分からなくなるのも事実だった。


「……ルサルカのこと、心配してくれているのか?」

「それもある。後は、首を突っ込んじまった以上、あまり悪い方向に物事を捉えたくないというのもあるかな。何かあれば、連帯責任で全員の首が飛ぶぜ?」


 冗談だろ、ともユウトは言えなかった。シェルターにおいて、人員の管理は凄まじい。番号で呼ばれてこそいないものの、個人番号で全て管理されている以上、感情を持っているロボットと言われてもおかしくはない。

 しかしながら、人々の大半がそれで文句がないと言っているのだから、案外これで人間のコミュニティの仕組みが完成形に構築されているのかもしれなかった。

 


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