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亡国の姫ルサルカ  作者: 巫 夏希
第一章 ルサルカ邂逅編
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第12話 シスター・ジュディ(3)

「何か知っているのか?」

「知っているとか知らないとか言われると、それはきちんと明確に判断出来ないのですけれど……、マリーさんってご存知です? うちに良くやって来る冒険者の」

「マリーって……、あの大剣使いの? アイツ、苦手なんだよな……」


 ユウトは深々と溜息を吐く。どうやらユウトとマリーは犬猿の仲――或いはそれ以上のようだった。

 それを見たジュディは笑みを浮かべたまま、首を傾げる。


「どうしてですか? あの人、良い人ですよ。良くこちらに食料を寄付してくれますし。食料が寄付出来ない場合でもお金を寄付して下さりますから。自分の身銭を切ってでも、貢献してくれる……、そんな人がこの世の中に未だ居るんですよね。ほんとうに驚きです。今は欲しい物だけ手に入れて、信仰などどうでも良いと思っている人だらけですから……」

「……そんなこと、俺に言われても困るんだけれどな。それとも、ジュディは俺が宗教を信じていないと思っているのか? 半分正解ではあるけれどさ」

「最後の一言だけは余計でしたね……。でも、まあ、良いでしょう。もしマリーさんに会いに行きたいのなら、多分ここには居ないと思いますし、今日は来ないと思いますよ」


 立ち上がるジュディを見て、ユウトも立ち上がる。


「どうして?」

「マリーさんは定期的にやって来ているんですよ。来たのが三日前で、五日おきにやって来るから……、来るとしたら明後日でしょうね。もし彼女に会いたいのなら、あそこへ向かったらどうですか? ハンター連盟の集会所に」

「……あそこか。嫌なんだよなあ、あそこ。仕事を受領するために行くなら良いけれど、それ以外に行くのは。あそこはエゴとエゴのぶつかり合いで、自分がどれぐらい強いかをアピールする場所でもあるからさ」


 ハンターという人間は、自意識過剰じゃなければやっていられない。多くの人間が遺跡から手に入れる旧文明の遺物を、自らの生活のために売り払うことしかしていないのだから。

 中には、シェルター間の商人の護衛をしてたんまりと報酬を貰うハンターも居るし、私兵となって豪商と一緒に行動するハンターだって居る。ハンターだって、それぞれ生き方も違えば働き方も違っているのだ。


「……確かに、ここにやって来るハンターの人達も言いますね、ハンター連盟の集会所は居るだけで息苦しくなってしまう……って。それは窮屈だからとばかり思っていましたけれど、そういう事情もあるのですね」

「そもそもシェルターに住む一般市民が金を手に入れるには、その大元を辿るとハンターが回収した遺物を売却することで得た利益が市場に流れるところから始まる訳だしな……。とはいえ、もっと良い稼ぎ方があるかと言われると直ぐには思いつかないけれど」


 そもそも、働かなくても良いような――少なくとも今の仕事より――稼ぎ方があるというのなら、多くの人間は直ぐにそちらに乗り換えるだろう。そこまでしても仕事を乗り換えない人間というのは、その場所の居心地が良いかそれ以外の条件が良いからのどちらかだ。

 だからハンターはハンターで一生生き続けなければならないし、シスターは一生シスターとして生き続けなければならない。人がその職業を変えるのは、旧時代では然程難しいことではなかったという記録が残っているが、今となっては無謀無茶無理の三拍子が揃ってしまう。


「そりゃあ、良い稼ぎが見つかれば皆そっちに行くだろうな……。ハンターなんて危険と隣り合わせのくせにそう大した稼ぎにならないことも多々あるんだから。でも、ずっとそれは変わらないと思うよ。ハンターという生業がなくなるのは、遺跡から遺物が全て消失してから。しかしながら、それは絶対に有り得ないことだろうし」

「どうして? どうしてそう思うのですか」

「分かりきっていることだ。……遺物はずっと発掘され続けている。常になくなる危険を孕みながら。実際、いつかはなくなると思うよ。人間の文明というのは、無限に存在していた訳じゃない。けれど、その数は無尽蔵だ。ハンターが増え続けても、食いっぱぐれることがない程度には」

「でも、恐怖を抱いている人だって少なからず居ますよね。こちらにやって来る、食べ物を求めている方の中にもそういう人は居ました。ハンターは一見安定した職業に見えて、いつ終わるか分からない遺物の恐怖に怯えている、と……」

「そんなことしていたら、食っていけないよ。遺物がなくなるから、遺物を収集するのを辞めるのか? 違うだろ。遺物がなくなる以前に、こっちの命が尽きちゃうし」


 理屈としては当然合っているのだが、しかしながら、それを説かれたところで実際どう動いていくか――というのが問題であったりする。幾ら文化や文明を保護しようとしたところで、そもそも人類が生き残らなければそれを正確に伝えることは困難だからだ。


「……それは分かりますが、でも、この不安定な生活がいつまで続くのか、と心配になったりしませんか? やはり、神に仕えている身としてはこの時代がいつまで続くのかは不安にはなります」

「予定説完全無視の台詞だな、それ……。あ、取り敢えず情報ありがとうな。俺は集会所に行ってみるよ、あそこになら居るんだろ?」

「ええ、多分ですけれど……。ここに来るために沢山の任務を熟しているそうですから」


 そうして、ユウトはシスター・ジュディの居る教会を後にするのだった。

 


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