約束は忘れない
クーラーの止まった部屋で、暑くて目が覚める。
「暑い……」
時計を見ると時刻は午前7時。いつもギリギリまで寝ているけど、暑くて寝れやしない。パジャマを脱ぎ捨て、毎日着ているシャツへと袖を通す。
「今日で終わりか」
そして着替えた俺はリビングへと向かう。
「私に起こされずに起きるなんて!今日は雨の予報だったかしら?」
「酷いな母さん。俺はもう中学生だよ」
「その中学生が毎日起こされますかね〜?」
「頑張るよ……」
「ふふ。期待しないでおくわ。あ、ご飯食べるわよね?すぐ準備するわ。」
食卓にトースターが置かれ、2枚のパンが飛び出す。マーガリンが置かれ、目の前の皿には目玉焼きが乗っている。
「今日はどうしたの?目玉焼きに……ベーコンまでついてるけど」
「これくらい普通よ。ささ、食べちゃいましょう」
なんだかご機嫌な母さん。せっかく作ってくれたから、ありがたくいただく。
そして朝の支度を終えて、いつものように声をかける。
「それじゃ、いってきます。」
「いってらっしゃい。」
なんの変わりのない日常。いつもと代わり映えのしない風景。慣れ親しんだ通学路。いつも走っているが、汗かくし、今日はゆっくり歩いて行こうと思う。
学校に着き、自分の席に着く。今日は暑いな……
「おい親友!今日は雨が降るのか!?」
「お前まで母さんと同じ事言うのか」
「はっはっは。それだけ朝早くいるのが珍しいと言う事だよ」
コイツは俺の親友。俺の世話をするのが大好きな学校の母さんだ。
「いま、変な事考えただろう?」
「無駄に感が良いのも似てんのな……」
「なんの事だ?まぁいいか。それより明後日の夏祭り一緒に行かないか?どうせ一緒に行く彼女もいないだろ?」
「いないのはお前もだろ?」
「はっはっは。甘く見てもらっては困るぞ親友!」
「え?いるのか?」
いるのか!?そんな話は聞いた事ないぞ?
「作らないのだ!俺は遊びたいからな!」
「子供め……」
しかしコイツは顔は良い。それに誰にでも気さくで、人気者である。こんな漫画の主人公みたいな奴が、俺の親友ね……まさか、男が好きなんて事が!?
「また変な事考えたろ?」
「エスパーか?」
「お前は顔に出やすいんだ」
―キーン、コーン、カーン、コーン……
「はーい。席につけー待ちに待った通信簿だぞ」
「げー!?」
「待ってないよ〜」
ベルが鳴り、先生が入ってきた。今日は簡単にホームルームをやって、通信簿が配られたら下校するだけ。
そして明日から夏休みである。
「B、B、B……体育だけAか」
「運動神経だけは良いからな〜」
「勝手に覗くなよ。お前はどうなんだ?」
「無論、体育はAだ!」
「英語と数学Cだがな」
「俺は日本で生きていくんだ……そして足し算引き算は出来るんだぞ!」
「威張ることではない」
鞄にプリントと通信簿をしまい、鞄を背負う。
「俺は今日部活だから。じゃな!明後日、16時に正門前な」
「おう」
簡単に返事をして、俺は教室を後にする。
寄り道もせず、俺はまっすぐ家に帰る。早くクーラーの効いた家に帰りたい。
そしてアイスを貪り、ソファーでダラダラしたい。
明日から夏休みである。しばらくはぐうたらしてやる!
そんな極々普通の日常……のはずだった。
♦︎
クーラーの止まった部屋で、暑くて目が覚める。
「暑い……」
時計を見ると時刻は午前7時。いつもギリギリまで寝ているけど、暑くて寝れやしない。パジャマを脱ぎ捨て、毎日着ているシャツへと袖を通……
「って今日から夏休みか」
脱ぎ捨てたパジャマに再び袖を通して、またベットへとダイブする。ぐうたら最高だな。
しばらくすると、ドアがノックされ扉が開く。
「おきなさーい。学校に遅れるわよ……って起きてたの?
「暑くて起きただけ。今日から夏休みだから、とりあえずぐうたらしてる。」
「何言ってるの?夏休みは明日からでしょ?」
「はえ?そうだっけか?」
あれ?でも昨日通信簿もらったよな?
鞄を漁るが通信簿がない。あ、昨日渡したんだ。
「今日から夏休みだと思ったら、もう1日あるとか地獄だ。」
「何言ってるの。今日はすぐ終わるって言ってたじゃない。さっさと着替えて降りてらっしゃい」
「はーい……」
着替えて下に行くと、トーストが焼き上がるところだった。時間を見ると7時58分。うん、いつも通りだ。
「いつも通りだとか思ってないで、早く行きなさい。パン食べながら歩いて、誰かにぶつかるんじゃないわよ」
「そんな漫画みたいなことにはならないよ。いってきまふ」
「いってらっしゃい」
あー暑い。けど歩いていたら遅刻するよなー……走るか。慣れた通学路を全力で走りきる。
「あー……間に合った。」
「おい親友!明後日の夏祭り一緒に行かないか?どうせ一緒に行く彼女もいないだろ?」
「お前はいつも唐突だな。それにお前も彼女はいないだろう」
「はっはっは。甘く見てもらっては困るぞ親友!」
この会話は昨日しなかったか?同じ事を何度も言うなんて。
「作らないって言い訳はいいぞー」
「はっはっは。ツッコミが鋭いな親友!」
―キーン、コーン、カーン、コーン……
「はーい。席につけー待ちに待った通信簿だぞ」
「げー!?」
「待ってないよ〜」
ベルが鳴り、先生が入ってきた。今日は簡単にホームルームをやって、通信簿が配られたら下校するだ……あれ?通信簿は昨日貰ったはずだけど?
「……昨日と一緒だな」
「体育のAは一緒だな」
「お前は英語と数学Cとか?」
「何故分かったんだ!?」
「なんとなく」
通信簿昨日と同じだよな?あれ、夢でも見たか?そして帰り際も昨日と同じ状況になる。
「俺は今日部活だから。じゃな!明後日、16時に正門前な」
「おう」
明後日?昨日も明後日って言ってたよな……何かが引っかかっているけど、それが何か分からない。
夏祭りの日なら母さんも分かるだろうし、この場では特に突っ込まず家へと帰る。
そして疲れているんだと、いつもより早く布団に入ることにした。明日から夏休みだから。
難しい事は明日考える…………はずだった。
♦︎♦︎
暑く寝苦しくて起きていた昨日。いや、一昨日だっただろうか?背中に冷たい何かを感じて、今日は目覚める。
「まだ7時か……」
夏休みの初日ではあるが、特にやる事はない。予定はあるが約束は明日の夏祭り。
「あら?早いわね」
「なんか目が覚めちゃってね。もう一度寝ようかなとは思うけど」
「これから寝たら遅刻よ?ご飯作っちゃうから、着替えてきなさいよ」
「遅刻って。今日から夏休みだよ?」
「何言ってるの。夏休みは明日からでしょ?」
「え?」
そんなはずはない。通信簿も貰ったし、明日の夏祭りの約束もした。
「母さん。夏祭りっていつだっけ?」
「夏祭り?23日の木曜日でしょう。誰かと約束でもしたの?まさか!?」
「……彼女とかじゃないから。アイツと行くと思う」
「親友との友情も大切だけど、少しは浮ついた話があってもお母さん良いと思うわよ?」
母さんは一体なんの心配をしているんだ。そんな事よりだ……夏祭りは明後日?
ふと見たテレビから不思議な言葉が聞こえてくる。『7月20日、今日のニュースを……』
「母さん。今日何日?」
「今日は7月20日よ。寝ぼけてないで着替えてきなさい」
20日……何かおかしい。けど、このまま家にいても状況は変わらない。一度、学校に行って確認しよう。そして俺は気がつく。夢を見ているわけじゃない。繰り返される7月20日に…………
「おい親友!今日は雨が降るのか!?」
この会話は一度目で聞いた内容だ。
「ぼーっとしてどうした?おーい?」
「なんかよく分からん夢を見たせいかも。」
「夢?」
「あぁ。7月20日が繰り返されるんだけど。」
「あーあるある。夢の中でも学校に行く事。そして起きて、また学校に行かないと行けない現実。まぁそれも今日までさ。なんて言っても明日から夏休みだからな」
そんな夢が何度もあってたまるか。そう思うが、どうする事も出来ない。きっと明日になれば……俺はそう願う事しか出来ない。
♦︎♦︎♦︎
繰り返される7月20日。
朝起きて学校へ行き、家に帰って寝る。
何度も見る通信簿。親友との会話も毎回同じ。俺はずっと夢を見ているんじゃないか?頬を抓ると、確かな痛みがある。夢じゃ……ない。
「なぁ聞いてるか?明後日の夏祭り行くよな?」
何度目かの誘いか。
「その約束守れるのか?」
始まらない夏休みに俺はついそんな事を言った。
「俺が約束を破る事があったか?明後日の16時に正門前な」
「あー」
「お前こそ、約束破んなよ」
「俺が約束破る事あったか?」
「ないな!だから心配はしてない」
そして何度目かの約束をする。叶う日が来るのだろうか……
♦︎♦︎♦︎♦︎……
朝起きた俺は、制服に着替え学校に向かう。
「今日は早いのね」
「ん〜ちょっとね」
当たり障りない会話の後、俺は家を出る。向かった先は学校ではない。
「行ってもまた戻るんだし。一回くらいサボっても良いだろう」
ふらふらと向かう先は何処だろう。ただあてもなく歩く。学校とは違う方向に……
小学生が学校へ向かうのか、ちらちらと目に入ってくる。
「こっちは小学校の道か……懐かしいな」
ぼーっと車が通るのを眺める。電車の踏み切り前で校長先生が旗を持ち小学生を誘導する。
―カンカン……
踏み切りがなり遮断機が降りようとしている。旗を下ろしてみんなに止まるように声を上げる校長先生。
「こら!危ないぞ!」
その声にハッとなり、遮断機を見る。そこに走り出した一人の女の子。
そして耳に入ってくるエンジン音。遮断機が降りる前に加速したのか、女の子に気づいていない。
俺は鞄を投げだし走り出す。何故走り出したのかは分からない。けどそうしないといけない気がしてた。
―ガシャーン!
「きゃー!」
「誰か救急車!」
そんな声が聞こえてきた……赤い水たまりの中、俺は泣きじゃくる子供の頭を撫でる。
「とび……だしちゃ。あぶな……いぞ」
「うわぁぁん。ごめんなさいー」
「ん。ちゃんと…………あや……えら…………」
頭に乗せてた手が落ちる。
今回はこんな終わり方か。明日は、飛び出す前に注意してあげないとな…………
♦︎
夏休み明けの新学期。ホームルームはいつもより暗かった。
そして放課後。
机の上に置いてある花の前に一人の少年が立つ。
「約束……守るんじゃなかったのか…………俺も約束破っちまったけどな。おい、親友」
誰もいない教室に、アイツの声だけが響く。それは涙声だったか、どうだったか。
「妹は無事だ。お前が助けてくれたから…………っくそ!なんでなんだよ。なんでお前はまた学校に来なかった!」
繰り返される7月20日。
繰り返されるはずだったその日。1人の少女を助けた親友…………
「……ありがとう」
親友の声だけを残し、教室は静まりかえる。
―キーン、コーン、カーン……カンカン……
飛び出しちゃ危ないよ……
放課後のチャイムが電車の警告音に聴こえる。そんな噂が出るのは、次の夏休みだった。
???「約束守れなくてすまん」
???「待ってたのか?律儀なやつだ」
???「……それじゃ、夏祭り行くか?」
???「おう。親友!」