都合よく今日から上裸半ズボンで生活しようと思う
「うにゃ!」
朝、布団にくるまる俺のことを起こそうと布団に乗り掛かる小さな影が一つ。
期待した人もいるかもしれないので言っておくが、これは可愛い幼馴染みなどではない。
そんなものはとっくのとうに俺じゃ手の届かない所に行ってしまった。
いや、まあ秘めた恋慕があったとかではないからどうでもいい話なのだが……
「バカ猫、おはよう」
「うにゃっ!」
俺は小さく呟きながら布団をひっぺがすと、可愛いバカ猫が床に蹴落とされる音と悲鳴が聞こえてくる。
「ふしゃぁー!」
抗議の毛並み逆立て攻撃をしてくるが、そんなものは俺には利かない。
「そんなに怒るなよバカ猫」
「にゃぁぁ」
撫でてやると大人しくなる。
やっぱりバカだ。
まあ名前的に言ってもこいつはバカ猫なんていうとんでもないネーミングはしていないのだけど。
こいつにはちゃんとうちの妹が付けたボンジョルノ一世という素晴らしい名前がある。
何故俺がバカ猫と呼んでいるかというと、こいつがバカだからだ。
いや、それだと少し語弊を生む。
五姉妹の中でこいつだけバカだからだ。
元よりこいつは五年前くらいに妹が箱ごと拾ってきた捨て猫で、こいつ以外にも四匹の姉妹がいるのだ。
当時、毛並みに張られていた画用紙に幼稚園児くらいの子の字で長女、次女、三女、四女、五条……失礼、五女、と書かれていたのは、裏に涙ぐましいエピソードがあったのではないかと想定されるものだが、そんなことは本気でどうでもいい。
長女と書かれた張り紙をセロテープでくっ付けられていたのが、今俺の鞄を必死に引きずってきてくれているバカ猫ちゃんというわけだ。
こいつは長女の癖に運動もあんまできないし、餌の取り合いでもすぐ負ける。
その上少し高いところから布団に向けて飛び降りる遊びが猫の間で流行った時は、何故かこいつだけパラグライダーのような姿勢で落下していたのだから目も当てられない。
ギャグである。
まあとりあえずそんな感じだったこいつは、あろうことか俺になつきやがった。
最初は嬉しかったが、妹に体力テストで負けたときのこいつの目を見て俺は悟ったんだ。
あ、これ仲間意識持たれてる、って。
それから俺の中でこいつの呼び方はバカ猫、妹の前ではボンジョルノ一世ちゃん。
あの動物愛護団体顔負けの動物大好き女にバカ猫なんて呼んでるところを見られたらどうなるか分かったもんじゃないしな。
「にゃぁぁ」
俺はバカ猫のそんな声で正気に戻る。
どうやら俺の鞄を持ってきてくれたようだ。
こいつは将来いい嫁になるだろう、うん。
まぁ俺の元からこいつを引き離そうとするやつがいたら最悪マフラーくらいはしてでもぶちのめしに行くけどな。
「んじゃ、行くか」
父親はもうとっくに出勤している、妹は部活の朝練でどっか行った。
んで母親の方は恐らく締め切りが近い。
いつもの通りだったら徹夜コースで朝食は昨日の残りがラップに包まれてテーブルの上、本人は自室に籠って原稿と格闘している筈だ。
昨日は大方やっと家族で夕食の時間が取れると言って態々厳しいスケジュールに穴を開けてくれていたんだろうな。
そんな家族の団欒を俺の上裸でぶっ壊してしまって本当に申し訳ないと思っている。
まあどうせ一緒に居てもどうせろくなこと話さねえんだし許してほしい。
家事を分担している内は家庭崩壊なんてもんはないだろう、俺も気楽に上裸生活を送れるというものだ。
俺はそーっと扉を開き、リビングへの階段に向かって忍び足で進む。
データ消去の魔術師と言われた俺の実力がまたしても発揮されてしまったか……
(一回最後まで書いたやつが消滅した)