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If Take2  作者: つくあ きぬを
始まり
9/13

役立ちの竜巻

しばらく、

あなた達を書けなくて、ごめんなさい。

中学生と名が変わる前から、私はクラスの中心的な仕事を任されることが多かった。それは私の力量を測ったうえなのか、単に面倒くさい仕事を押し付けられただけだったのか、今ではわからない。でも、誰かに必要とされている感覚は嫌いではなかった。実際に喜ばれること、クラスのみんなにありがとうと言われることは、背中をこそばゆくさせ、次への活力になった。

「委員長ー 明日の授業のプリントなんだけどー」

後ろに結んだポニーテールをぴょんぴょん跳ねさせ、小走りで駆け寄って来る子がいる。

「ここがね。訂正が必要そうな気がする」

「う〜ん、確かに」

「曜日がまず違うよね」

「ほんとだ。よく気づいたね」

「いやいや、別に……凄くない。だって、鯖ちゃん7回に1回は間違える」

「それは大変」

困ったなという様子で、私の机の上に置いたプリントの試作を撫でる。

「"お助け係"なんてしなければよかったー」

「でもカッコいいよ、サポーターみたい」

「ええ……ほんとかなぁ……」

「うん。私も助かってる」

「ええ。ほんと?」

「うん」

「なら……やってもよかったかなー」

彼女は私を慕ってくれている。とても嬉しいけれど、その期待は大きすぎるくらい。

「よし、ありがとう! 先生に言って来る!」

後ろ姿に手を振っていた自分に「あっ」と気づいた。こういう誠実な所が距離を縮められない原因なのかなと。


「林原さん、それじゃあまたねー」

「うん。バイバイ」

図書室で浜焼きについて調べたあと、授業終わりに野暮用を顧問の先生に頼まれていたのでそちらに向かった。すぐに終わると思っていたけれど、これが意外と時間がかかり昼目前の時間帯になってしまった。授業がないので、今日はお母様と食事に行こうと思っていたのに……今からでも間に合うだろうか。急いで帰宅しよう。同じ部活の子と挨拶を交わし私はまた後ろ姿に手を振った。彼女はおそらく待たせていた友人と楽しそうに会話をしながら帰宅する。

「おまたせー」

「昨日のアニメ見た?」

「見たよー かっこよかったね」

「あれだよね、"勝手になるんだ、友情ってのはな"」

「うんうん! "ボルボー"いいよね!

「来週が待ち遠しい!」

楽しそうだなぁ。

いいなぁ。

友人と親友の境界線を定義してくださいという問題を抱えたまま、私は次の問題へと進んでしまっている。映画を見たり、意味もなく夜までファミレスで話したりすることが模範解答なのだろうか。

親友と呼べる人が私にもいたら、どんな相談をして、どんな食べ物を食べて、どんな帰り道になるのかな。

いつも、ずっと、一緒に、私は憧れている。


〜もしも聖徳太子のように10人の話を聞き分けることが出来たら〜

Take2

「高橋と夏川が喧嘩してる!」

「先生が体調悪くなって、今日は授業がーー」

「皆既日食があるんだってよ」

「次の宿題やってないのー」

「よんぶんのよんはいちだよね!」

どうしたの、みんな。今日はやけに頼られる。うん、頼られちゃう。問題がこんなに起こるなんて、学校の存続が危ぶまれるけれど、いちいちそんなことを気にしていたら、らちがあかないよね。

「うん。授業は他の担当先生に聞いて考えよう。私も今朝のニュースで見たんだよ、楽しみだね。今回だけだからね、はい、ノート。大正解、基本的な問題ほどどわすれしちゃう時あるよね」

なんでだろう。頭が冴え渡る。まるでシャーロックにでもなってしまったみたい。どんな難解な暗号もチョチョイのチョイで推理できそう。みんなの役に立っている私。思わずにやぁと笑みがこぼれてしまう。こぼしてしまったらもったいない、必死に我慢しよう。

「すごいいいんちょう!」

「アンテナを設置したいんだけどー」

「お弁当って幕の内最強じゃない?」

「電車って眠くなるよね」

「うんうん。アンテナは難しいかな〜 私はのり弁。あと一駅ってところで一息ついちゃう」

わいやわいや。机の周りにたくさんの制服がひしめき合う。都心では毎朝通勤ラッシュというものがあるらしいけれど、こんな感じなのだろうか。あやふやなままみんなをかき分け、喧嘩をしている二人を制止する。

「夏川君。高橋君。どうしたの? いつも仲良しなのに」

「あっ、委員長。聞いてくれよ。こいつ、海苔にわさびかけて食べるなんていいやがんだよ」

「なんだと、お前は生姜じゃねーかよ」

「落ち着いて、ね。えっと、要するに夏川君は海苔に生姜をつけて食べて、高橋君は海苔にわさびをかけて食べるってこと?」

「そうだよ。俺のが絶対美味いんだよ。なのに、こいつは外道だぜ」

「いやいや。そっちなんて人の道外してるぜ、生姜マンだよ」

「う〜ん、そっか。両方美味しそうだよね。蕎麦とうどんとかだとわかりやすいんだけど、しょうがない。う〜ん、でも、私は醤油かな〜」

「しょっ……醤油?」

「あっ、あの?」

「えっ、みんなどうしたの。そうだけど」

「委員長って天才なんじゃ……」

「ってことは、先生の体調も醤油で……」

「おいおい、皆既日食って醤油の……」

「そっか……宿題は醤油で塗りつぶせばいいんだ」

「僕の計算に狂いが……よんぶんのよんは、醤油だ!!」

「まてよ、アンテナの代わりに醤油か……」

「幕の内に醤油をかければ、三つ星に届く?」

「そうだ、電車で眠くなった時には、醤油を目にさせばいいのか」

「ちょっとみんな……それは」


本日もよろしい程の日々でございまする。

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