表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
If Take2  作者: つくあ きぬを
始まり
4/13

公家の団欒

囲炉裏の火が、まるで妖精の拍手のようにパチパチと鳴らしている。寝室から上掛けを身体に巻いたまま、居間まで来た。寒いからの一択。これからさらに寒くなるなんて考えられないなぁ。

「制服着ねーで大丈夫なんか?」

箸を私に向けながら、爺ちゃんが聞いてきた。

「今日は大丈夫なーの」

「中学はお休みらしいですよ」

私の適当な相槌に、婆ちゃんが丁寧な補足をしてくれた。「そうかそうか」と、爺ちゃんはガハハと笑いながらご飯を平らげる。また袖にご飯粒ついてるよ。嫌になっちゃうな。

「みずちゃん。ももちゃんはまだ寝てるの?」

「幸せそうに寝てたから、そのまま」

「あらもう、三連休は終わったのにねぇ」

本当に幸せそうだった。寝返りを一度でも打ったのかと思わせるほど、綺麗にまっすぐ布団に入っていた。上掛けも旅館の準備のまま使っているような、シワの無い状態だった。それに、何か楽しい夢でも見ているのか、ニヤニヤ笑いながら寝ていた。私は慣れているからいいけど、他の人が見たら気持ち悪いと思われそう。絶対そう。やめた方がいい。

「コンクリートだなぁ、京東は」

爺ちゃんの独り言を聞いているかのように受け流し、テレビの時刻をチェックした。そろそろ降りてくる時間だな。こりゃ慌ただしくなりそうだ。ドタバタとした音が階段を鳴らした。

「なんで、起こしてくれないの!」

ねーちゃんの登場。

「起こしたよ、諦めたけど」

「努力しなきゃ!」

どんな言い分?

「努力するのは、ねーちゃんでしょ」

チョロいなねーちゃんは。ぐぬぬと悔しがるのはいいけど、支度しないとさ。髪の毛とか、制服着るとか、ご飯も食べないとだし、

「朝ご飯あるけど、先に食べるかい?」

「うーん……頭やる!」

あんなに綺麗な体勢で寝ていたから、髪はストレートのまま。どこをどういじるのだろう。私ならそのままにしちゃうけどな。

「どこの高校に行くんじゃか」

「やぁね、あなた。○君と同じよ」

「そうかそうか。はっはっは。あーわしがポックリ行く前に、嫁いで欲しいの」

「そうねぇ」

「幼馴染!!」

洗面所からドライヤーの音にフィルターされた怒号が聞こえた。

「こんちわー 桃乃ー来たぞー」

「あぁ……きた」

歯磨きをしながら、右往左往している。朝ご飯を食べるのは、どうやら諦めたみたいだ。あたふたの文字が踊っているような様子のまま、なんとか支度を終え玄関に向かうねーちゃん。婆ちゃんが追いかけて、風呂敷に包まれたものを2つ渡していた。お弁当と、朝ご飯を包んだ簡単な握り飯。婆ちゃんは甘やかしすぎなんだよなぁ。ねーちゃんは行ってきますの代わりに、ありがとうと行って出て行った。


〜もしも妹がいなかったら〜

Take2

座布団のほつれに気がつかない爺さんは、袖についた米粒に気付くはずもなく、ガツガツと米を胃袋へ運んでいた。

「とにかく食うんじゃ。食って生き様を見せい」

昔見た時代劇に憧れ、方言に手を出してみたものの、ちんぷんかんぷんで断念。爺さんにとって、方言は外来語を学ぶことに等しかった。が、諦めきれないまま、さまざなテレビの真似事をし、拙い頭で覚えていった結果、今の"爺弁"が生まれたのである。

「そうなんじゃ、娘はやれんのぅ。はっはっは」

「朝なのに、腹が破裂しそう……」

公家の家の男は、筋肉隆々、紳士、食事は残さない、そして馬鹿、この3つが家訓だと爺さんは言うが、間違いが直されないまま引き継がれていることに、誰も疑問は持たなかったのだろうか。

「なんで、起こしてくれないの!」

ドタバタ慌ただしく階段を下った桃乃は、居間を通り過ぎて、洗面台に向かった。

「お口に合うかしらねぇ。今朝採れてねぇ」

(さかえ)さん本当に美味い」

「どんな食材もうまく変えちまうたぁ、大した女だろぃ」

「また変なこと言ってねぇ」

栄はまんざらでもない、そんな様子で空いた食器を持っていった。

「なんでいるの!?」

歯ブラシをしながら、桃乃は居間へとやって来た。にゃんこを紹介する番組を見ることが、毎朝のルーティンになっているのである。

「そりゃ、お前を迎えに来たのよ」

「ええぇ」

「昔から朝弱いからな。特に連休明けは」

「でも、この番組までには必ず起きるのよねぇ。不思議だわ」

「いいよ、一人で行けるから、わざわざ来なくても」

「でも、学校に行く途中にあるからさ。せっかくだから寄りたい。暖まりたい」

「休憩所じゃないの!」

「いつでも来ていいからねぇ。歓迎よ」

「ありがとうございます」

「勝手に解決した……」

この言い合いのせいで、番組を見逃したことを、桃乃は少し後で後悔する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ