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If Take2  作者: つくあ きぬを
プロローグ
3/13

プロローグ(3)

私達は主催者の二次会へは参加せず、各々帰宅することに決めた。後日、よもんの家で飲み直す約束をして。

「今日の驚きは美友(みゆ)俵太(ひょうた)君と結婚してたこと」

「私も当時はびっくりした」

甘絵ちゃんが私に相槌を打つ。

「会った時、言ってくれなかったよ」

おそらく、あの首にかけた指輪がそうだったのだろう。

「そういうの言うタイプじゃないから。確かーー」

「身内だけでしてたんだよ、結婚式」

割り込んだよもんは、ちょっと悪い顔をしていた。確か、甘絵ちゃんをよくいじって楽しんでいたっけ。

「私のセリフ、奪ったな」

グーパンチを手の甲でしっかりと受け止める。よもんが一瞬ボクシングのトレーナーに見えてしまって、変なツボに入った。

「笑いすぎ」

チョップが脳天に当たる。しばらく私達は顔を見合わせて笑った。

「でも、本当に会えて嬉しい」

真っ直ぐにすんなりと言われるとなんだか照れる。よもんは全然照れていない。そこがよもんの育ちの良さなのかなと思った。

「私も」

「ねぇねぇ。本当はもっと会いたい人いたんじゃないの」

甘絵ちゃんの、これは楽しんでいる顔。

「そうだった」

ポンとひらめくよもんの悪い顔。

「今日、来てなかったね」

「連絡先がわかんなくてさ。家族も引っ越しちゃったし、頑張ったんだけど」

「見て、キャーキャーしたい」

「私はいつもの空回りを見たかった」

よもんと甘絵ちゃんは、私を乗せないまま走ってしまうバスのようだった。運転手はどっち。ぐぬぬと唸る私を、二人は気にもとめない。そんな一方的な小競り合いを終えた後、一人二人と別れた。私はまた実家へと続く田園を歩いていた。日差しの名残が、薄暗くさせ、辺りはまだ黒で染められてはいなかった。電信柱に街灯をつけてくれたら、夜だって楽に歩けるのに。ポツポツ漏れ出す家の明かりを頼りに、足元を確認しながら歩く。

「あーあー! 顔見せるくらいしてくれたらいいのに!」

二人がいた時は言えなかったけれど、もしかしたら、いや、絶対に出会えると期待していた。畦道には誰もいない。気構えなく大きな悪態をついた。コツンと石ころが当たる。


″白い白い白い猫。

かじって捕まえて食べちゃうぞ。

そぼろにかしら。味付けれんこん。

あたまがぐるぐる真っ白だ。

レンレンレン。レンレンレン。


まーるい煮干し。さんかくお菓子。

優勝したならつけましょう。

いただきます。お粗末様。

逆逆しつけは大変だ。

レンレンレン。レンレンレン。


醤油はいらない。将軍取られた。

真っ白子猫は私だよ。

捕まえたくなるシャボン玉

白い猫ちゃん私だよ。

レンレンレン。レンレンレン。〟


幼い奇妙な唄声。

「なら、会いに行こうよん」

いつからいたのだろう。背後には少女が立っていた。

「だれ?」

冷静さを失わないよう、なるべく平坦に質問した。

「マユちゃんですよ」

ランドセルを背負った少女は飛び跳ねながら自分の名前を張り上げた。その仕草や無邪気な姿は幽霊でも妖怪でもなく、ただの人であると思わせた。

「ダメだよ。こんな時間に一人で、どこの家の子?」

「ここ」と指をさした先は、今朝見かけた神社だった。神主さんって放浪主義なの?

「じゃあ、一緒に戻ろう」

少女の右手に手をかけようとした時、すっと躱され、対面に向き直し、ニコッと笑った。

「戻るのは、お姉ちゃんだよ」

パンと少女が手を叩くと、鎮座していた二匹の狛犬が動き出し、混ざり合い、麒麟になった。石で出来た麒麟。突然の出来事に、我が目を疑った。犬が麒麟になり、石が動き、少女はニコニコしている。

「マユちゃんって……魔法使いなの?」

「んー わかんない」

興味がない、もう次のお仕事があるからと言いたげな顔で、ランドセルを前に持ち直し開け、中から一冊のノートを取り出した。そのノートをまじまじと見つめ、ふー。息をかけると、たちまちにブランケットへと変わった。変なものでも食べたかな。久しぶりの故郷で疲れてるんだ。

「マユちゃんって……何歳?」

「27歳だよ」

「えっと、私と一緒なの……」

「お揃いだね」

宇宙人が攻めてきたような気の動転。攻めてきたことはないけれど、同じ気持ちになりそう、きっとそうなる。この奇怪な状況を打破しようと、日常的な質問をしたが、結局混乱をもたらしただけだった。

「肩にこれ、麒麟ちゃんの後に続くんだよ」

「これ?」

私は言われるがままに、ブランケットを肩にかけた。まともな思考なんて、もう必要がないのかもしれない。

「それれ!!」

バンバン、ランドセルを叩く。木の葉が揺れ始めた。木々がさざめく。風が吹き始めた。

木々が笑う。本殿の扉が勝手に開いた。中には神体があるはずだったが、先が見えない。

「どこに向かうの、真っ暗だけど……」

「麒麟ちゃんの尻尾つかんで」

当然、石なのだからカチカチ。どうなっているのだろう。少しずつ暗闇に進む。さっきまで息をするのも忘れていた。が、今はもう不思議と恐怖はない。感覚が麻痺してしまったのだろう。足が暗闇に入る。少しだけ、わくわくする。これから、どうなるのだろう。私は暗闇に身を委ねた。何もわからないまま。


「ぜんぶ忘れちゃうけど、それでも思い出してね。楽しいことも嫌なことも全部だよ。きっと大丈夫だから。みんながいるからね」

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