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If Take2  作者: つくあ きぬを
始まり
11/13

バスはパスせずパンバンパー

下校のチャイムを背に私たちは足早に帰路に着いた。鬼気迫るような何かがあったり、タイムリミットが迫っているわけではなかったけれど、やる事がない学校に長居していてもしょうがなかった。太陽が頂点に登るまでに、私たちの本日の授業は終わった。普段なら桃乃の部活動があり、こうして一緒に帰ることは少ない。もしかしたらせかせかと急いでしまったのは嬉しさが滲み出ていたからかもしれない。そんな杞憂はとりあえず胸にしまっておこう。桃乃は気づかないはずだし。


「ぐぬぬ……」

「お酒を飲まずに紅くなりましたね」

どちらが言うわけでもなくぶらぶらと歩いて、いつもの場所でお別れをしようと思っていたけれど、よくよく考えてみたら家に帰っても特にすることもないと気づいた。いつもの小競り合い? コント? イチャイチャ? クラスのみんなが例えた関係を、ひと段落済ませ、私は「"多津"にでも行こ」と、直球で聞いてみた。桃乃は考えるそぶりもなく「いいよ」と、二つ返事をしてくれた。


「やっぱりバス」

「バテたの?」

「帰宅部をなめることなかれ」

「学校の手前ですぐ乗るじゃん」

「あれは、社会にお金を寄付してるの」

「ふーん」

「ふーんじゃない」

「だって、定期だよ」

「それは、あれ。もったいないから。あるものをしっかりと使う、それが大事」

「ふーん」

「ふーんをやめなさい」

「ふーんをやめることなかれ」

「パクるな」


家で特にすることはないと言っても、多津に来ても決まってすることはない。ただ、家で一人ダラダラするよりは、桃乃と二人でダラダラする方が幾分かマシな気がする。それに奇跡的な出来事が降ってくるかもしれない。そんな期待を込めて、私は窓ガラスに何処しれぬキャラクターを描いた。


「今にも起き上がりそうな絵だね」

上機嫌に指を動かした私に桃乃は水を差す。

「結構上手に描けてると思う、力作」

「お〜」

桃乃は屈託のないニコニコを私に向けた。

「まぁね」

「可哀想な形してるね」

「馬鹿にしてるな」

それでもニコニコしながら言うものだから、馬鹿にしているのか、どうか。


〜もしもバスに積まれた飛行装置が作動し、宇宙へと旅立ったら〜

Take2

「次に参りますのは多津市役所前、多津市役所前、お出口は中央にございます。後部座席をご利用の方は段差にご注意ください」


「今にも起き上がりそうな絵だね」

上機嫌に指を動かした私に桃乃は水を差す。

「結構上手に描けてると思う、力作」

「お〜」

桃乃は屈託のないニコニコを私に向けた。

「まぁね」

「可哀想な形してるね」

「馬鹿にしてるな」

「してないよ、でも独特だなーって」

「それって褒めてる?」

「うん」

「間違いではない?」

「私は好きな絵、可愛いから」

「ほっ……ほほ〜」


いじりに来ていると思わせて褒めてくる。今日のおかずは海苔だけよと言われてから本当はすき焼きよと言われるような感覚。下げて上げての法則。この子はもう。根っからの素直だから褒めてくれると嬉しい。


「次に参りますのはGd−91 Gd−91 お出口は真ん中にございます」


「あれ? 市役所前過ぎちゃったね」

「あそこで、降りるはずだったのに」

「押しとくよ、ボタン」

「うん、ありがとう」

「ここから結構長いんだよね。しょうがないけど」

「えー そうだっけ? 駅近くはすぐじゃないの?」

「もー 雨絵ちゃんは頓珍漢なんだから。これから飛ぶから、すっごく長いんだよ」

「へ……飛ぶ?」

「うん、Gd−91に行くからね」

「なんだその数字の羅列」

「雨絵ちゃんの方がバス経験あるのに」


ガタタと揺れた車内によって、一旦、桃乃との会話が途切れた。私はその間に窓の外を見る、掌で結露をバッバッと拭いてから。


「羽が生えてる……」

「飛ぶもん」


絶句とはこのことか、開いた口が塞がらないとはこのことか、言葉の意味を真に学んだ私は、息でまた窓に水滴をつけてしまった。ゴシゴシと今度は制服で拭き取る。よく見ると、確かに浮き始めているようだった。いや、その表現はおかしい。あの生えている羽が軽やかに運動している。これは確実に飛んでいる。もう、よくわからないけれど、確かに飛んでいる。


「……」

「久しぶりだ〜」

「……久しぶり?」

「うん、元旦ぶり」

「元旦?」

「うん、ひいおじいちゃんのお家が土星にあるから」

「家がおじいちゃんのひい土星……」

「あ、そろそろシートベルト付けた方がいいよ」

「え?」


「只今よりゲートを通過致します。ご搭乗のお客様はシートベルトの着用をお願い致します」


「え?」

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