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If Take2  作者: つくあ きぬを
始まり
10/13

居酒屋さん

「いっちょ居酒屋さんでも行きますか」

「こら」

阿保な発言をする雨絵ちゃんに、私なりのツッコミを入れる。「ぬおっ」と小さな悲鳴をあげた後、仰け反るような形で両手を広げた。まるで離陸をする飛行機のよう。その仕草がどうやら恥ずかしかったらしく、鼻をかむ仕草をし、上手くティッシュで顔を隠した。赤らめたままの、もみあげ辺りが脱皮を始めた海老のような色になっていた。甘海老のようでもある。

「不意にオナラをしたくらい恥ずかしい」

「その発言は恥ずかしくないんだね」

「うん。言う分には、別に……」

「うん」

「よっし! 気分を変えてバーでも行きますか」

「ベェ!?」

不意を突かれた私は、取り乱したカラスのような鳴き声をあげた。頭の良いカラスが取り乱すことなんて滅多にはないのだろうけれど、そもそもカラスが取り乱すなんて現実的ではないかな。

「ベェ……か〜 ほうほう、新時代だ」

してやったりという顔で雨絵ちゃんは、私の顔を覗く。何にもなかったと、知らぬ顔をするのはどうやら手遅れらしい。「ほうほう」と試すような笑顔を浮かべる。もう形勢は逆転してしまった。さっきまでの恥ずかしさは消えてしまったようで、雨絵ちゃんは私の恥ずかしがる様子を楽しみ始めた。

「どうしてあんな声を?」

「知りません……」

「腹の奥底から?」

「わかりません」

「文字で表すと難しそうですが」

「知りません!」

ここぞとばかりに攻め込んでくる。もう勝ち筋が見えている棋士の怒涛の攻めのよう。相手が反撃してこないのをいいことに、ちょっとやりすぎ。でも、私が今さら雨絵ちゃんの「ぬおっ」を引き合いに出しても、形勢が動くほどのインパクトは与えられない。

「もう、顔が真っ赤」

「ぐぬぬ……」

「お酒を飲まずに紅くなりましたね」

少し上手いことを言ったぞと思っているのだろうか、雨絵ちゃんの口角がピクピクと動いている。おそらく、アナウンサーとしての役に入ってしまったため、ドヤ顔をしたくても出来ないのだろう。その純粋な抵抗に雨絵ちゃんの憎めない愛しさが詰まっていた。可愛くて許してしまいたいが、いつかこの仕返しはしてやろうと私は誓った。


〜もしも空から網タイツが降ってきたら〜

Take2

「どうしてあんな声を?」

「知りません……」

「腹の奥底から?」

「わかりません」

「文字で表すと難しそ……ん?」

「知り、ま」

「ん? んんん!」

一瞬にして、雨絵ちゃんの頭部から首元にかけて黒い鎖がかかった。現行犯逮捕。いや、私をいじめた罰が当たったんだ。顔を包まれてしまった雨絵ちゃんは、ジタバタともがいている。可愛いのでこの様子をしばらく眺めていようと思った。

「ぐぇ! 何!? 怖」

目則での質感だと、軽い素材のようだ。所々に穴が空いていて失敗作のようにも見えるけれど、精巧に作られたであろうその五角形は、これは完成された作品なんだと主張しているようだった。黒い完成した何かを振りほどいた雨絵ちゃんは、それを右手で持ち睨みつけた。

「なんだこれ」

少し機嫌が悪い。

「わかんない」

これは事実。

「あみあみだ」

これも事実。

「そうだね」

訝しげな表情を浮かべながら、睨むのをやめていない。

「タイツっぽいけど」

「そう言われれば、確かに」

「黒って履きづらい」

「みんな履かないもんね」

「まぁ、これは穴だらけだから」

「寒いよね」

「今の時期じゃない」

「夏用?」

「ありうる」

「通気性に特化したんだね」

「柄がシマウマだ」

「麒麟だと思ってた」

「一理ある」

雨絵ちゃんは、そう言ったあとしばらく悩み、その黒い何かを道路沿いに立つカカシの腰に巻きつけた。

「安心、これで」

満足そうに「うんうん」うなづき、カカシの頭をポンポンと叩いた。奇抜なデザインを腰に巻いたカカシが、ほんの少しだけ困った表情を浮かべた気がした。

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