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死ぬ前に見る夢  作者: 雪託詩音
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【編集中】第一話

「死後の世界って一体どんな所なのかな?」


電車のドアの前、窓から流れる灰色の風景を見ながら僕は思わず笑ってしまった。

背後から聞こえた女の話が、あまりにも突拍子も無い内容だったからだ。


「詩音、あんた急に何言ってんのよ」


全くもって意味不明、というニュアンスで別の女は声を上げた。

何やら周囲からクスクスと極小の笑い声がする.....気がする。

僕も幼い頃、真剣に死後の世界の事を考えてみた事がある。

やれどこかの宗教のお偉いさんは「死後の世界は天国と呼ばれる楽園だ」だの「生前に悪い行いをしたら地獄に落ちる」だの「生まれ変わって生き続ける」だの言ってはいるが、果たしてそれは一体誰に教えてもらったというのだろう。

一度、死んでみないと分からないのに。

そこまで考えて僕は「神」というものの存在を思い出すが「神」と言われても自宅の仏壇にある小さな仏像や、日本史の教科書に載っている東大寺の大仏しか見たことがないので、そもそも実際に存在しているのか皆目見当もつかない。


「だって、気になるじゃん、やっぱ死なないと分からないのかなあ」


この少女は恐らく、俗にいう「不思議ちゃん」というやつだろうか。

ふと思う。

電車のドアに反射して、彼女の後髪を飾る白いリボンが見えた。

制服を着ている。

どうやら高校生らしかった。


「次は、東京、東京」


車内放送が流れ出す。

そうだ、今は死後の世界の事なんて考えている場合ではない。

これから僕は、この「東京」という世界で生きていくのだから。

車窓の奥で駅のホームが流れていく。

人、自販機、人、人、キヨスク、人、自販機、人人人人。

生まれて初めて訪れた「東京」という世界に、僕は思わず圧倒される。

人が川の水のように流れていく。

とある有名なアニメ映画の悪役の台詞を思い出しかけて、すぐに考えるのをやめた。

その流れの中、立ち止まる人は一人もいない様に見える。

電車が止まり、後ろのドアが開く。

特に急いでいる訳でもなかったので、次々と降車していく人の流れに従い、僕はゆっくりとホームに降り立った。

深呼吸。

東京の空気は汚れていると聞いた事があるが、僕の住んでいた町と全く変わらない様に思えた。

ふと辺りを見渡して「不思議ちゃん」を探してみる。

彼女の後髪を飾る白いリボンを見つけるのには3秒もかからなかった。

友人達と階段を下っていくところで、視界からすぐに消えていった。






僕はとある田舎町で生まれ育った。

本当に何も無い田舎町だ。

家から大体10分程歩いた場所にあるバス停には、朝と夜の二回しかバスが来ない。

遠くに行く時は電車を使うのだが、尋常では無い頻度でよく軋む為歴史を感じさせられる。

駅前も到底栄えているとは言えず、今にも潰れそうな小さな商店や魚屋が数店舗程並んでいるといった様子だ。

こういう町を「シャッター街」と言うんじゃなかったっけ。

その中で、コンビニだけは強く光り輝いているように見えていた。

僕は3年と7ヶ月続けてきた仕事を辞めて電車に乗り、この何も無い田舎町を出てきた。

こんな何も無い田舎町で、ちょっと給料が良いというだけで一切関心を持てない仕事を一生続けて、老いて死ぬのは嫌だ。

どうしても叶えたい夢があったからだ。

夢の話はさておき、とある友人から聞いたのだが、東京には美味い珈琲が飲めるお洒落なカフェがわんさかあるそうだ。

カフェの事を話す友人の強く光り輝いている表情を鮮明に覚えている。

あんなに嬉しそうに話すのだから、きっと魅力に溢れているのだろう。

珈琲の良さがちっとも分からない僕は、そんな希望に満ち溢れた友人の話をしかめっ面で聞いていたと思う。

あんな苦い飲み物、誰が好んで飲むと言うのだ。

あんなものを飲むなんて、彼は相当なマゾヒストに違いない。

珈琲の話もさておいて、あんな何も無い田舎町に居ても夢を叶える事なんて出来やしないから、僕はこの世界に来たのである。






さて、これからどうしようか。

とにかく人の多い東京駅のホームのベンチで、僕はぐったりとしていた。

長時間吊革につかまって直立していたせいか、疲労が溜まっていたのだろう。

旅立つ1ヶ月前から決めていた東京のアパートまでは徒歩20分。

そこまで長い距離でもないのだが、今の僕には歩くどころかベンチから立ち上がる気力すら無かった。

僕の虚ろな目はしばらく地面に描かれた白線を映していたが、徐々に視界はブラックアウトしていく。

次に視えたのは住宅街の狭い路地。

付き合って3ヶ月になる彼女と会う為に、僕は通学用のママチャリを全速力で走らせていた。

借りていた、いきものばっかりのCDを返さなければならない。

ようやく彼女に辿り着き、僕は笑顔でディスクを手渡した。

彼女も僕に笑顔を見せた。

すると突然、冷たい風が吹いて彼女の隣に何かが現れた。

それは人の形をしていた。

男の形をしていた。

背が高い、男だった。


「彼氏が出来たの。もう、会えない」






「何でだよ!」


思わず叫んだ。

頭上に広がる青い空。

目の前には巨大なビル群。

その下には砂利と線路。

腕やら腰やら足に固いプラスチックの感触を感じ、起き上がった。

僕はベンチで横になっていた。

どのくらい眠ってしまったのだろうか。


「あの、大丈夫ですか?」


後ろから少女の声が聞こえて、反射的に振り向く。

横になっていたベンチの後ろに、その少女は立っていた。


「あ、はい、だいじょ・・・」


その少女の顔を見て、僕は凍りついた。

目の前には、夢の中の彼女がいた。

なんだよ、もう会えないんじゃなかったのかよ。


「え・・・・・何で、何でここにいるんだよ」


震える声で、僕は言う。


「はい?」


目の前の少女は首を傾げて怪訝な表情をした。

まだはっきりと焦点が合っていない。

無理矢理焦点を合わせて、僕は自分の間違いに気付いた。

人違いだ。

しかしながら、その少女はあまりにも夢の中の彼女に似ていた。


「あ、あ、すみません、人違いでした・・・・・」


顔が熱くなる。

少女は笑顔になり、頭を下げてきた。

その笑顔は、正に夢の中の彼女そのものだった。

立ち上がった時、何かが落ちているのに気が付いた。

薄茶色のコートだ。


「え、あれ、これってもしかして・・・・・」


彼女は苦笑しながら、コートを拾い上げた。


「だって、あまりにも寒そうだったから・・・・・」


そして、拾い上げたコートを軽くはたいてから、着た。


「うわ、マジか、本当にすみません!」


この少女は、ベンチで横たわる得体も知れない他人の僕に「寒そうだから」といって自分のコートを

かけたというのか!?

いやはや、まだまだ日本も捨てたもんじゃないな。


「本当にすみません、わざわざありがとうございます。助かりました」


僕は謝罪と礼の言葉を何度も何度も繰り返した。


「いえいえ、それじゃ」


いつの間にかホームには電車が止まっていて、彼女はそれに乗って消えた。

彼女の後ろ髪は、白いリボンで束ねられていた。






To be continued...

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