初めてのお使い
1月1日。
年が開けて新年を迎えた今日この頃。
わたしは一匹で町までお使いに来ていた。
…………。
嘘は言っていない、本当のことだ。シルヴィア先輩から頼まれたのだ。
「夜ご飯はシチューがいいな」
事の発端はグリゼルダさまのこの一言だった。
そのリクエストはあっさり通り、わたしも好物であるシチューに胸を膨らませていた。
ところがシルヴィア先輩が食料庫をチェックしたところ、ミルクとタマネギが切れていたのだ。年明けでドタバタしていたので、食材の残りに気を配る余裕がなかったらしい。
シチューを作れないと知って落ち込むグリゼルダさまに、「……わたくしのミスです。申し訳ありません」とシルヴィア先輩が頭を下げる。
「気にしなくていいわよ。今日は別のメニューにしましょ」と奧さまが宥めるも、先輩は自責の念が強く、「いえ、そういうわけには参りません。急げば間に合いますし、今から買って参ります」と、部屋を出て行こうとした。
──もう日が沈みそうだ。この時期はひどく冷える。
そう思ったわたしは素早く出口に立ちふさがって、彼女を止めた。
「どうしたの、セレナード? わたくし、買い物に行かなきゃなんだけど……」
訝しげにわたしを見る彼女に、首を横に振って応える。
こんな寒い中、先輩である彼女を買い物に行かせるなんて耐えられない。わたしは狼、この程度の寒さならなんともない。だからわたしが代わりに行く。
──と伝えたいのだがどうしたものか。
困り果てて主を見ると、ニコッと笑ってくださった。
……いえ、可愛いのですが、わたしがしてほしいことはそうではなく……。
う~んと頭を抱える。
「ごめんごめん、冗談だよ。セレナが代わりに行く、って言いたいんだよね?」
伝わっていた!
言葉にせずとも気持ちが伝わったことに感動しながら、ブンブンと頷く。
改めてシルヴィア先輩を見ると、顎に手を当てて何かを考えていた。
「うーん……。……奧さま、わたくしはセレナードにお願いしても構わないと思うのですが、奧さまはどう思われますか?」
「私もいいと思うわよ。レイと一緒に見回りに行ったり、ゼルダと一緒にお散歩したりしてるから、町の皆もセレナのこと知ってるし。お金とメモとリュックがあれば充分かしら?」
わたしが行ってもいい流れだ。それがわかったので大人しく待つ。
しばらくして、シルヴィア先輩が何処からともなく持ってきたリュックに、幾ばくかのお金と奧さまのメモが入れられ、それをグリゼルダさまが手ずから背負わせてくださった。
「おおー、セレナそれ似合うね!」
一瞬でこのリュックが気に入った。わたしの宝物にしよう。
上機嫌に玄関まで行き、皆さまを振り返る。
「あんまり遅くなっちゃダメだよ?」
「馬車に気をつけるのよ?」
「じゃあお願いね、セレナード」
お三方の見送りに深く頷き、わたしは踵を返して走り出した。
さあ、わたしの初めてのお使いだ。
頑張るぞ!