プロローグ7
「名前……かぁ。そうだね、いつまでもワンちゃんじゃ可哀想だし。可愛い名前がいいよね」
名前を戴けるのか!
可能ならばグリゼルダさまにつけて戴きたいが……ここは黙って見届けよう。
「はい、はい! 僕はシロがいいと思う! 白いし」
全員が旦那さまを睨んだ。おまえは黙れ、とばかりに。
シュンとして小さくなる旦那さま。
わたしもホッとした。流石にシロはない、ダサい、カッコ悪い。
「まずはその子が雄なのか雌なのか調べてからにしてみては? 名前をつける基準になりますし」
「え? この子男の子だよ。ね?」
問いかけられたので頷く。
すると主を除いた全員が、首を傾げた。
「ねぇ、その子、なんだか私たちの言うことを理解してるみたいじゃない?」
「だよね、僕もそう思った。でも流石にそんなわけないよね」
「いいえ旦那さま。わたくしの友人の狼人族が言っていたのですが、中には意思の疎通ができる個体もいるそうです。こんなに幼いうちから、というのは珍しいですが」
どうやら言葉を理解する狼は珍しいらしい。ということはやはり、わたしは賢いのだな。
ふふふ、わたし凄い。
悦に入っているとシルヴィア先輩が寄ってきて、わたしの前でしゃがんだ。
「わたくしの言ってることわかる?」
問われたので頷く。次に右手を差し出してきて「じゃあここに右前足を乗せて」と言われたので乗せた。
彼女は微笑んで、「じゃあ次は左前足」と言ってきたので、大人しく乗せる。
「じゃあ次はちょっと難しいよ。奥さまのところに行って」
何も難しいことはない。とてとてと歩いて奥さまの足元に行く。
何故かおお~と歓声があがった。
「間違いなさそうですね」
「そうね。賢い子だわ」
「そうだねアディ。この分なら、大きくなったらゼルダのボディガードを任せられるね」
ボディガード! 甘美な響きだ。
成長したら是非ともその大役を受けさせて戴こう。
奥さまに頭を撫でられながら、鼻息を荒くして未来に想いを馳せる。
「ところでこの子の名前なんだけど」
わたしの頭を撫でながら、奧さまが話を戻した。
「誰につけて欲しいか選んでもらうっていうのはどうかしら?」
それを聞いた瞬間、わたしはグリゼルダさまに駆け寄った。
そしてお顔をじっと見つめる。
「あたしにつけてほしいの?」と訊かれたので、ブンブンと首を縦に振った。
「ふふ、決まりね」
「うん。ゼルダ、いい名前をつけてあげなさい」
「……"シロ"が何を言うか」
シルヴィア先輩の暴言が凄い。
幸い、わたしにしか聞こえなかったようだが。
それはさておき名前だ。
グリゼルダさまは腕を組んで「……う~ん」と真剣に悩んでくださっている。
やがて「よし、決めた!」と言って、わたしを見た。
「セレナード。あなたはセレナードだよ。これからよろしくね」
──セレナード。
それがわたしの名前。
魂に刻み込むように何度も胸中で繰り返す。
わたしはセレナード。
この誇り高い名を穢さぬように、主の隣で生きていこうと、今一度心に誓った。