プロローグ5
あのお方を見送り、このふわふわな寝床から下りる。
いつまでも主の寝床を占領しているのは失礼だからな。
にしても、腹にものが入るとこんなにも動けるようになるのだな。脚を無様に震わせていたあの頃が懐かしい。大して時間は経っていないが。
今なら先ほど走っていったあの方に、一呼吸のうちに追い付けそうだ。無論そんなことはしないが。
ふわふわの下で丸くなって待っていると、やがてあの方が戻ってきた。
「ただいまぁ! ってあれ? 降りちゃったの? そのままでよかったのに」
あの方はこちらに寄ってきてわたしを抱き上げた。そしてそのままこの空間を出て、何やら細長い空間を歩いていく。
……自分で歩けるのだが。それにあの甘くて白い液体はどこに……?
疑問に思ってお顔を見上げると、例の心安らぐ表情で話しかけてくる。
「ちょっと遅くなってごめんね。でもあたしたちもこれからごはんだから、そこで一緒に食べようね」
"ごはん"とはさっきも言っていたな。確か白い液体を指していた。
と言うことはつまり、"ごはん"の場所まで移動しているのか?
先ほどの空間で食べればいいものを何故……。
考えていたら到着したらしい。
そこに溢れる食べ物の匂い、そしてこの方と同じ形をした生き物を三匹確認し、わたしは猛烈に反省した。
そうだ、何故思いつかなかった!
何も食事をするのは自分だけではないのだ。この方はもちろん、いるのであればご家族も、食事は必要なのだ。
食べ物を戴くならば、下の者が出向くのが当然であるというのに…………どうやらわたしは知らず知らずのうちに甘えていたらしい。己を厳しく律しなければ。
動物の毛を集めて作ったような柔らかい床に下ろされ、目の前に"ごはん"が置かれる。
しかしまだだ。この群れのボスより早く食べることは許されない。
まずはボスを見極めなくては。
…………おそらくあの、一番身体が大きな方だな、風格がある。
そちらをじっと見つめ、その方が食べ始めるのを待つ。
ご家族の方々が一斉に食べ始めるのを確認して、わたしも食事を開始した。
──ああ、甘い。
今はこのように施しを甘受することしかできないが、いずれこのご恩を返させて戴かなくては。
そのいずれ来るご恩返しの日々の為、わたしは目の前の"ごはん"をたいらげた。