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74.アシスとロッド、炎天下の道をゆく。「誰にも会わないぜ。これで本当に聖地なのか?」


「イラードの灯の危機を救え、アシスよ」

 国王からの勅命を賜った俺は、ロッドとともに辺境の村へと向かった。



 照りつける太陽。流れる汗。

 草原の道をひたすら歩く。

 雲ひとつなく、微風すら吹かず、ただただ行く手の景色が陽炎に揺れている。

 

「まだ村の影すら見えないぜ……」


 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ。

 土くれだった道を踏みしめる音だけが、俺を励ましてくれる。

 人の行き来が少ないのだろうか?

 道には拳の大きさほどもある石がゴロゴロ転がっている。

 所々腰の高さくらいまで伸び放題となった雑草が、通せんぼするように立ちはだかる。


 もう秋だというのに、ジリジリと真夏を思わせる日差しが肌を焼く。

 俺はトレードマークともいえる三角帽子を目深にかぶり直す。


 空気を満たす濃厚な草の香り。

 最初この地に「降り立った」時は都会とは違う大自然のすがすがしさに胸が躍ったものだが……

 炎天に蒸し返された雑草の濃密な匂いが身体の奥底にまで染み付くほどになると、さすがにげんなりしてくる。


「まったく、カミサマってのもアテにならねぇな」


 額から容赦なくしたたり落ちる汗を拭いながら愚痴をこぼす。

 日陰の一つすらない大草原に果てしなく続く行先を呆然と眺める。


「アシス、今なんて言った?」


 すかさず背中からロッドの甲高い声が響いた。

 たしなめるような口調で続ける。


「それ、レガート様への悪口じゃないのか?」


「おいおい、ロッド。これだけ歩かせておいて……

文句のひとつくらい言ってもいいだろ」


 疲れと、イライラと、いまだ目的地が見えない不安と。

 悪態をつくには十分すぎるほどの理由が胸の内に積みあがっていた。


 ロッド君。まったくお前のカミサマってきたら……

 村のすぐそばに俺たちを転移させるって自信満々に言ってたはずだぞ。

 それなのに、こんな大草原のど真ん中に送り込んだ挙句に、


「アシスよ、あちらに向かうがよい! はっはっはっ!」


 カミサマが指差した方角には、村の影かたちはおろか、人影すら見えない。

 うっそうとした草原に刻み込まれた一本の道が、地平線まで陽炎に揺れているだけだった。


「おいっ! イラードっていう村はどこなんだよ!」


 見当違いな転移魔法を使った張本人をにらみつけた。

 しかし当のカミサマはまったく聞く耳を持たず、満面の笑みを浮かべて言い放った。


「イラードの灯を頼んだよ! 私のアシス!」


 おいこらっ、笑顔でごまかすな!

 それに、なにが私のアシスだ!

 俺がいつお前のものになったんだよ!

 

 心からの俺の突っ込みを無視して、カミサマは霧のように消え去った。

 体よく逃げられたカタチだ。


 ああ、だから俺が転移魔法を使うといったのに。

 あんな適当なカミを信じた俺が馬鹿だったのか……


「レガート様はこの世界を創った偉大な神さまだけど、

 それも何千年も昔のことだから。

 ちょっとくらい記憶している座標からズレることもあるはずだよ」


 ロッドは、こともあろうにカミサマの失態を弁明している。

 まあ、ロッドがカミに逆らうことはありえないのだが。


 なにしろ彼は、俺を監視するためにカミから遣わされた存在なのだから。


「ちょっとくらいって……本当にこっちで合ってるのか?」


 かれこれ数時間は灼熱の草原を歩いているが、一向に目的の村の姿は見えない。

 いくら辺境の地だからといって、人っ子ひとり出会わないというのはどうよ……


 続けて文句を言いたいところだったが、喉まででグッと押しとどめた。

 今回に関しては、ロッドに何の罪もないということもある。


 気を取り直して、再び歩き始めた。



 一日のうちの盛りの時は過ぎさり、陽はずいぶんと西に傾いた。

 わずかではあるが風が起きる。

 さわさわと草々のこうべを撫で来たった大気の指先が、ささくれだった俺の心を優しくなでる。


 気がつくと、はるか上空に千切れ雲がたなびき、トンビが舞っていた。

 ピーヒョロ~ ピーヒョロ~

 おお、旅の友よ……地上からの一方的な出会いではあったが、閉じかけていた心が少し軽くなった。



 俺たちの目的の村、イラードは「世界の灯」を守る聖地だ。

 「世界の灯」または「レガートの聖灯」と呼ばれるこの灯は、よこしまなる存在から人間を守る力があるとされている。

 

 レガートの灯消える時

 再び人の世に

 災厄が降りかからん


 という伝承の一節は、この世界で知らない者はないフレーズとなっている。



「誰にも出会わないぜ。これで本当に聖地なのか?」


辺境の地とはいえ、イラードは世界にとって大切な土地のはず。

数時間、一本道を歩いてきたにもかかわらず、人っ子ひとり出会わないのには合点がいかない。


「そうだね。不思議な聖地だね」


 いつも俺に対して厳しい背中の声も、素直に肯定を返した。



 

「おいしいパンを作りましょう」の最終挿話です(たぶん)。

きちんと書き溜めてから投稿するはずが、結局行き当たりばったりに……どうなることやら。

しばし、アシスとロッドのお話にお付き合いくださいませ。パン大好き

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