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72.味わいと形成の微妙なバランス。2次発酵は比較的高温で手早く。パン作りって罪づくり……

 パン酵母の働きについて、おさらいしましょう。

 またかよ、と思われる方もおられるでしょうが、当人が忘れているもので……

 

 酵母は生きています。

 生物学的にはカビやキノコと同じ種類の真菌しんきんに分類されます。

 小難しい話はニガテなので、真菌か信金かメガバンクかはここでは置いておきましょう。


 なにせ、酵母は生き物なのです。ただ、自ら動くことができませんが。

 我々と同じようにメシを食って、それからエネルギーを生み出して、ウ○チをします。伏せ字にしなくてもよいのでしょうが、何となくです。

 酸素の多い環境、通常の私たちが暮らしているような環境下では、酵母も私たちと同様に、酸素を使って糖分などの「メシ」を代謝してエネルギーを取り出し、ウン○にあたる二酸化炭素と水を排出しています。酸素を取り込み二酸化炭素を吐き出す。これは「呼吸」と呼ばれる生命活動の根幹をなす仕組みです。また、子孫を残す出芽・分裂も酸素のある環境下で行われます。

  

 一方で、酵母は酸素がないような環境でもエネルギーを作り出すことができます。酵母はきっと息苦しくて、もがいているのでしょうが……酸素をまったく使わずに糖分を代謝して生命活動に必要なエネルギーを取り出す仕組み。これが「発酵」と呼ばれるシステムです。ここで○ンチにあたるのが(しつこいですね)、アルコールと二酸化炭素です。ただ、苦しみもがいたうえに、取り出すことのできるエネルギーは呼吸に比べて微々たるものです。ああ、パン作りって罪づくり……ごめんね、酵母さん。


 パン作りは酵母の発酵をコントロールする作業と言い換えてもいいかも知れません。発酵で生成されるアルコールはパンの味わいを、二酸化炭素はフワリとした膨らみを作り出します。


 そんな主役の酵母の働きを支える名脇役が「酵素」です。小麦や酵母自身の持つ多くの酵素が発酵やドウの形成などに大きな影響を与えています。パン作りにおいて代表的な酵素としてはアミラーゼとプロテアーゼが挙げられます。


 アミラーゼはデンプンが目の前に来たら問答無用にぶった斬って麦芽糖にしてしまう。一方、プロテアーゼはタンパク質に接するや否や、容赦なく細切れにしてしまう。酵素は物質の分解・合成などを自動でやってくれる「便利屋さん」みたいなイメージですね。いや、当方はむしろ、与えられた任務をマシンのように執行する「ター○ネータ」のようなイメージを持っています。あっ、酵母好きさんの読者様、すみません……


 以前「コーボーとアミ」のお話で書きましたが、酵母は小麦のデンプンを直接食べることができません。デンプンは酵母にとってデカいのです。アミラーゼがデンプンをぶった斬って麦芽糖にして、それを酵母自身が持つ酵素・マルターゼで叩き割って単糖にして食べています。


 プロテアーゼはタンパク質を切断する働きがあります。パン作りにおけるタンパク質といえば……そう、グルテンです。プロテアーゼはパンの膨らみの元であるグルテンを切り裂きます。パン生地の伸びをよくするという効果もあるのですが、出来上がったグルテンの膜がズタズタに分断されてしまうという、あまりありがたくない影響も生じます。分解生成物である各種のアミノ酸は、パンの味わい・風味の向上につながっていると考えられるのですが、パン自身が膨らまないことにはおいしさが半減してしまいます。


 当方のレシピは一般的な食パンのレシピと同じで、1次発酵と2次発酵、それぞれ最長1時間です。捏ねやベンチタイム、焼き上げなどトータルで3時間程度の工程となります。これを超えると……経験上、生地がどんどんヘナヘナになっていきます。

 教則本などでは「ダレる」と表現される状態です。生地のコシがなくなり、全体的に平べったくなってしまうのです。恐らく、これはプロテアーゼの仕業だと推察されます。捏ねの作業でしっかり形成されたグルテンの膜が、時間の経過とともに切り裂かれ、やがてパンの骨組みとして成り立たなくなり、へしゃげてしまうと考えています。


 味わいの深さを追求するならば、できるだけ長い時間をかけて小麦を分解・発酵させるとともに、各種の酵素や乳酸菌など酵母以外の作用もじっくりと取り込むべきです。一方、パンの形成の安定性を考えるのなら、グルテンの膜がしっかりしている2、3時間の間に焼き上げるべきです。


 味わいと形成の微妙なバランス。1次発酵は比較的低温でゆっくり発酵させてパンの味わいを引き出し、2次発酵は全体の工程が短時間で終わるように比較的高温で手早く。先人たちの試行錯誤の結果、現在のレシピ・時間配分に落ち着いたのだと考えています。


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