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51.雪塩・食卓塩×コントレックス・水道水。違いが分かるほどの、そのパンの味とは。

 パン作りって塩の種類でどう変わる?


 今回は長くなりそうです。

 このエッセー(そもそもエッセーなのか疑問ですが)、おいしいパンへの一歩を記す当方にとって資料的な側面もありまして、今回の調査も事細かに書き記しておきた~いのです。

 そのために、煩雑な記述をつらつらと連ねることに…

 読者不在の視点で誠に申し訳ないのですが、「パンへの愛」に免じてご了承くださいませ。


●塩のおさらい●


 さて、ただでさえ脱線気味なので、おさらいをしておきます。


 塩にはさまざま種類があります。

 採取地や精製の処理などによって含まれるミネラル分が異なります。

 それが、それぞれの塩の味わいの違いにつながっています。


 一方で、ミネラルとパンについて調べていると、

「硬水で仕込んだパンはしっかり引き締まる」

 という報告が多くなされていることに気づきました。

 

 硬水と軟水。これは水に含まれるミネラル分の過多による分類で、ミネラル分の多い水が硬水と呼ばれています。

 水の硬さ(硬度)はカルシウムとマグネシウムの量で決められています。

 日本の平均的な水道水は硬度100以下の軟水。

 ヨーロッパには硬度が1000を超えるような超硬水もあります。

 パン作りには、一般に硬度50~120が適しているとのことです。


●強力粉100グラム当たりのミネラルは●


 本エッセーの「12.お隣のレシピと比較」によりますと、食パン作りでは強力粉100グラムに対し、水は平均68.9ml、塩は1.8グラム使います。


 パン作りにおいて塩は使用量が少ないので、味に影響は及ぼさないという意見を見掛けました。

 しかし、実際どうなのでしょう?

 今回はミネラル分の視点で見てみます。


 例えば超硬水のコントレックスと雪塩を使ってパンを作るとします。

 強力粉100グラムあたり、コントレックス68.9ml、雪塩は1.8グラム使用します。

 

雪塩1.8グラムに

 ナトリウムは545.4mg

 カルシウムは11.3mg

 マグネシウムは50.6mg


一方、コントレックス68.9mlには

 ナトリウムは0.6mg

 カルシウムは32.2mg

 マグネシウムは5.1mg

が含まれています。


 塩は少量なのですが、ミネラルが豊富なものを用いた場合(雪塩のマグネシウムのように)、硬水を上回るミネラル分を含んでいることが分かると思います。

 

 このことから類推するに、塩は少量でも味やその他に影響を与えている可能性があります。

 ということで、いろいろな塩や水のミネラル分を算出してみました。


 塩はアンデス岩塩、イタリア岩塩、雪塩、食卓塩など、水は硬度の高い方からエパー、コントレックス、ペリエ、エビアン、水道水を取り挙げました。以下に一覧表として記します。



▽▽▽強力粉100グラム当たりのミネラル一覧▽▽▽

【塩の種類】ナトリウム▽カルシウム▽マグネシウム

 アンデス・ローズソルト岩塩 703.8▽12.1▽0.7

 イタリア・シチリア島産岩塩 702.0▽0.4▽0.2

 沖縄・粟国の塩 507.6▽9.9▽27.5

 宮古島・雪塩 545.4▽11.3▽50.6

 味の素・瀬戸のほんじお 630.0▽2.9▽5.4

 塩事業センター・食卓塩 630.0▽0.0▽2.2

【水の種類】ナト▽カル▽マグ

 エパー 1.0▽37.8▽8.2

 コントレックス 0.6▽32.2▽5.1

 ペリエ 0.8▽10.7 ▽0.5

 エビアン 0.5▽5.5▽1.8

 水道水 おおよそ0.7▽0.7▽0.2


 ※単位はそれぞれmg/100g、mg/100ml



 粟国の塩や雪塩、ほんじお等はコントレックスのマグネシウムより多いことが分かります。

 塩に含まれているカルシウムやマグネシウムは、水に合わさるとまた違った働きをするのでしょう。それに、塩・水ともに、これら以外の成分も多く含まれているので参考値以上の域を出ないとも感じています。


●こんなところで脱線しています●


 余談ですが色々調べての分かったのは、

 【岩塩】 

  ナトリウム比率が高いものが多い(食卓塩と同じく塩辛い)

  マグネシウムが極端に少ないなど偏った成分のものが多い

 【藻塩、粗塩など】

  海水由来の塩はカルシウムとマグネシウムが豊富

 【食卓塩】

  塩化ナトリウム99%以上。塩辛い。ミネラルはほぼなし


 ところで、コントレックスいいって思い浮かんだのがコンプレックス。

 劣等感の…ではなくて、かのロックユニットCOMPLEXコンプレックス

 脳裏によみがえったのは、「BE MY BABY」でもなく、「恋をとめないで」でもなく、「1990」。

 コントレックスの硬度1468を見ていたら、何となく「COMPLEX1990」が思い浮かんだ…というオチです。

 しかし、あれから25年も経つのですね。

 昔話といえば、友人が「COMPLEXの『うしないチャイナ』って曲ええな」というので、そのタイトル名から、まさかギャグソング? とかいぶかしげに思い、バンドスコアをよく見ると「あかいチャイナ」だったという笑い話があります。

 今調べてみると、天安門事件に絡む曲だったのですね。当時は「若かった」のでそこまで深く意識していた記憶はないですが。


 こんなことを書いているので、話が進まないのですね。


●実験スタート●


 さてここからが本番です。いよいよ実験を始めまSHOW!


 先ほど書いたすべての塩と水の組み合わせで作りたいのですが、現実的ではありませんので、「ミネラル分の多いもの×少ないもの」を抽出してパン作成実験を行いました。


 塩の代表は「宮古島の雪塩」と「塩事業センターの食卓塩」。

 最寄のスーパーで物色した結果、雪塩が100グラム当たりカルシウム625mg、マグネシウム2810mgと突出してミネラル分が多かったので採用しました。一方の食卓塩は塩化ナトリウム成分が99%以上。ミネラル分はごく少量です。


 水の代表選手としましては硬度1468で売り込む「コントレックス」と我が家の蛇口から流れ出る「水道水」の2種類です。


 ①コントレックス+雪塩

 ②コントレックス+食卓塩

 ③水道水+雪塩

 ④水道水+食卓塩


 の計4パタンでパンを仕込みました。

 塩味に関係するナトリウム、硬度に関係するカルシウムとマグネシウムの強力粉100グラム当たりの含有量は以下の通りとなります。


   Na  Ca   Mg

 ①546▽43.5▽55.7

 ②630▽32.3▽ 7.3

 ③546▽11.9▽50.7

 ④630▽ 0.7▽02.3


 ①は超ミネラル、②はカルシウム偏重、③はマグネシウム偏重、④は低ミネラルとでも表せましょうか。


 念のためレシピを記しますと、強力粉100グラム▽水65グラム▽砂糖5グラム▽塩2グラム▽ドライイースト1グラム、となります。


 いよいよ仕込みです。

 4つのパンを平行して捏ねたのは、初めてでした。

 ボールを4つ準備。水を入れる容器も4つ、バターも4つ分を事前に軽量しておいて…できるだけ各作業にタイムラグが生じないようにタイムテーブルを頭に叩き込んでから実験作業に取り掛かりました。


 ミネラルの含有量はミリグラム単位なので、捏ねた手や指に付いた成分が別の生地にまじり合わないように、それぞれのボールで捏ねたら一度手を洗い流し、また別のボールを捏ねて、また手を洗い…パンの皮よりも我が手の皮が気になってしまったのは作業の中盤以降でした。バターが入ったからでしょうか、お肌が荒れる心配は杞憂に終わりましたが。なにせタイヘンな作業となりました。


●捏ね味など、作業上での比較●


 ①の生地はカタく引き締まっていました。グルテンの膜はできるのですがゴムのようなハリのある反発力の強い弾力がありました

 ②は①よりは弱いのですが、ハリのある弾力を感じました

 ③の生地はグルテンの膜が薄く長く伸び~る感じ。お肌に吸い付くようなしっとりとした弾力

 ④の生地は③の生地のしっとり感がさらに増した感じ。スキンケアの「ドモホルンリンクル」のCMでホッペが手のひらに吸い付いく、あのしっとり感です。生地もよく伸びます


 なお、普段の作業とほぼ同じと感じたのは③と④の生地でした。


 何とか4種類の生地を捏ね上げました。

 ここからの作業は通常とほぼ変わりません。一時発酵、ガス抜き、ベンチタイム、二次発酵、成型、焼成と進みました。


 発酵までの段階で生地が膨らまない▽生地がダレてべたべたになる▽生地が膨らみすぎる、などのトラブルもなく順調でした。

 生地の膨らみも見た目ではほぼ同じ。

 強いて言うなら、③は発酵での伸びがよかったことくらいでしょうか。


●焼きあがりました、香り・色の比較●


 さて焼きあがりました。

 う~ん、いい香り。

 焼きたてのパン最高!


 くんくん、鼻を近づけてそれぞれの香りを確かめましたが、当方の素人ノーズではその差を嗅ぎ分けることはできませんでした。


 焼き上がりの色目、大きさなどもほぼ同じ。

 うーん、ここまで差がないと、味にも差があるのかどうか、心配になってきました。


 焼きたてのパンは水分を大量に含んでいるので、冷めてから実食タイムと参りましょう。


●裂帛の気合●


 時計の長針は、その60分周期的回転運動を3回行った。

 そして、誰も疑問を抱かないまま4回転目に突入していた。

 ステンレスの網に載せられた4つのパン。

 内包した過分な水分を空気中に解き放ち、今は静かにその回転運動を見つめている。

 柄にFOREVERの7文字が刻まれた「剣」を男は右手に握る。

 蛍光灯の光をその身に受け、灰銀色の輝きを放つチタン合金のやいば

 男が大きく息を吸った。

 肺へと送り込まれる空気の流れがぴたりといだその瞬間、2つの眼がバチリと見開かれた。

 いざ、裂帛れっぱくの気合を込められたチタンの刃。

 輝きを増し、迷いなく一直線にパンへと振り下ろされた。

 波打つ刃は身の中ほどまでを一気に切り裂いた。

 バリバリ、音を立て飛び散る茶色い破片。

 一転、刃は押し出された。

 ザクッ。

 パンは胴の中ほどで両断された。

 男は眼を閉じ、静かに、ゆっくりと息を吐き出した。

 眼前に剣を立て、瞑目めいもくする姿。

 その姿は、祈りの姿にも見えたという。

 

●試食タイム。そのお味は●


 記事の分量が多いのに、相変わらずひつこくてスミマセン。

 パンを数時間おいて冷ましてから、それぞれ切り分けて実食しました。

 その感想を以下に記します。


ちなみに再掲しますと、

 ①コントレックス+雪塩

 ②コントレックス+食卓塩

 ③水道水+雪塩

 ④水道水+食卓塩

です。


 ①「おいしいでしょ、ワタシ」って言われているような、冷たく突き放されたような味のイメージ。生地は固めで、舌での解け具合はマッタリというよりはポロリポロリという感じ。味わいもあるのですが、少々ひつこく感じます。そして最後の方で、少し苦さを感じるかも。これは気のせいかも知れません。


 ②むむっ? 何かをイメージする前に妙な味わいが邪魔をする。コヤツは何者? 香りの底の方に漂っている違和感がどうしても気になりました。加えて、ほおばった瞬間、塩味を強く感じました。生地は少々つまり気味でしたが、舌触り、口溶け具合はそれほど気になりませんでした。


 ③豊かなムギ畑。柔らかなお日様に照らされた農場。そよ風を受け、実りの季節を迎えた黄金のムギの穂の波が見えます。食べた瞬間、最もみずみずしさを感じ、迷わず「うまい」と思いました。ふわりとしながらも生地の伸びがよく、香りは軽やかな焼き味が心地よいです。


 ④お日様の照る広い草原、水のせせらぎのイメージ。ふわりとしていて、みずみずしさもあるのですが、味わいの深さは、それほどではありません。ううむ、特徴の見出せない「普通のパン」です。おいしいのですが、何かが足りないのです。


●他の4人の感想も聞きましょう●


 私自身だけでは頼りないので、あと4人に試食してもらいました。

 

 Aさん ②が一番おいしい。甘く感じた

 Bさん ③が一番好きな味。④は普通のパンって感じ

 Cさん ①がふわっとしていて一番味がある

 Dさん ③はバターをつけて食べたら一番おいしいと思う。①はチーズが入っているのでは? ②はしょっぱい ④はなんの変哲もない普通のパン


 でした。一番おいしいと感じたのは①1人、②1人、③3人、④0人でした。

 ③がもっとも支持されたカタチとなりましたが、人によって感じ方が違うのだということも分かりました。


●作成、試食を終えて勝手な分析●


 サンプル数が少ないので、参考意見程度ですが分析してみますと…

 

 塩と水を変えたパン。同時作業で仕込んだので塩と水以外の条件はほぼ同じと考えられます。

 そんな4種のパンは、素人の5人が食べても、違いが分かるくらい味に差がありました。

  

 ④に比べて①②③は水や塩に含まれるミネラル分が増しています。

 ミネラル分が増すと風味がどんどん立ち上がってくるようです(「①には味がある」、「④はなんの変哲もない」)。


 しかし、複雑になった風味を濃厚な味わい(「チーズのよう」)と捉えるのか、雑味(「妙な味」)と捉えるかは人によって異なるようです。


 そのあたりが「おいしさ」を決める一つの決め手なのでしょう。

  

 これは私見なのですが、味の80%くらいは同じパンと言えます。

 どのパンも、もしお店屋さんで売っていたら「おいしいパン」として不満はない味だと感じます(少し自慢気ですが)。

 残りの20%の違い…食感や風味や残り香が、全体の味わいを補正している感じです。


 ③や④の水道水で仕込んだパンにみずみずしさを感じたのも、普段から水道水の味わいに慣れ親しんでいることが影響しているように思います。

 逆に普段からコントレックスになじんでおられる方が③④のパンを食べると「物足りない=おいしくない」となるかも知れません。


 ちなみに、試食の途中で頂きもののライ麦パンを口にしますと強烈な酸味を感じました。ふくらみや肌理きめなどもまったく異なっていました。今回の4種のパンは、そこまでの差はありませんでした。


●実験後記●


 パンと塩、そして水。

 繊細ながらも大切なパンの味わいの部分を担っているようです。

 塩も水も多くの種類があります。

 その組み合わせは、まさに無限大。

 自分に合った味を探し出すのも、パン作りの楽しみかも。

 実験はしたけれど、結局、ありきたりなことしかいえない、パン大好きでした。

 


   今すべてをこのパンに掛けてみる

   ときめくオーブンの扉あける

   ほどけたグルテンを結んで

   振り向かずに生地をこねる


5600字も書いてしまいました。まったくもってダラダラとすみませんです。

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