番外編 その17 柔らかさが指と掌を通して伝わる。「ファボールサンド クッキークリーム」 Por favor!
深夜のスーパーを徘徊する。
ぐるるるる。
夜食ハンターの腹が鳴く。
自然と眼つきが鋭くなる。
きょうもランチパックなのか?
でももう夜真っ只中だぜ。
いや、俺にとってはこのミッドナイトこそが真昼なのさ。
ハンターは意味もなく一人芝居をつぶやく。
そんなパックたちには無情の20%割引シール。
「俺はもっと価値があるはずだっ!」
「レッテル貼りはよせっ!」
時間との戦いに敗れしモノたちの怨嗟が渦巻く。
スレンダーなオレンジ色のヤツの姿が目に飛び込む。
奴の体に秘められた、あの圧倒的な味わい。
むわわワッ、とむせ返るような濃厚さ。
俺の心をひしっと離さない、半透明かつ乳白色のあのクリーム。
ハンターの心が揺らいだ。
いや、違うのだ。
俺の視線を奪ったのは、その隣。
何だ? 青いラインがやけに眩しいじゃないか。
鋭くなった目付きが、さらに細められる。
しかし、その眼光は先ほどよりは幾分優しさを湛えていた。
なぜならハンターは待望の獲物を掴み取ったからだ。
右手に収められた細長い体。
その身体の柔らかさが五指と掌を通して伝わる。
「ふふふ、では、いただくとするか」
セルフレジの赤色灯が照らし出すハンターの笑み。
周囲の店員と客は顔を引きつらせ、遠巻きにそれをながめていた。
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パン大好きです。
60話以上も書いていて今更ですが、自身の名前が「パン大好き」なので、キッチリしたことを言ってもなんだか締まりません。
…ご心痛のほどお察しいたします。パン大好き
本当に、察してるんですけどね。
やっぱり、なんだか変ですね。
さて、今回の番外編。
夜食に、と思ってスーパーを探していると目に入った青いパッケージ。
パスコさんの「ファボール サンド」の隣に、そやつはありました。
「ファボールサンド クッキークリーム」
ファボールサンド、当方とても大好きです。
先述しましたが、あの「むわっ」としたクリームが何とも堪りません。
生地はソフトフランスパン。
少し硬めでカミカミするとフランスパン特有の味わいが増し、クリームのむわわっとした香りとの相乗効果で「もうたまらんっ」ってな感慨に包まれます。ああ幸せ…いや、この「むわわ感」がどうしてもイヤっていう知人もいるのですが…
そのノーマル・ファボールサンドではなく、今回はクッキークリーム版。
見つけた瞬間に伸びていた右手。
さっそく購入いたしました。
ファボール。
当方はスペイン語の「ポル・ファボール」を真っ先に思い浮かべます。
Por favorは英語で言えばPleaseです。
お願いします、や、スミマセンが…の意味でよく使いました。
そう、十数年前にスペイン旅行する際に覚えた言葉の一つなのです。
この他に学んだのは、
グラシアス!(ありがとう)
ケ・エス・エスト?(これは何ですか?)
アキ!(aqui=ここ!)
ぐらいでしょうか、今思い出せるのは。
最後のアキ!は、タクシーを降りる時に「アキ! アキ!」って必死に訴えて停車してもらっていたので記憶に刻まれています。
あと現地の方々のグラシアスの発音に驚きました。
「ラ」の部分は巻き舌を使った「深いラ」、「シ」は舌を巧みに使った「スウィ」という音で「グゥラァスウィアス」と、立体的に聞こえたのが印象に残っています。
話がそれました。日本に帰ります。
このパン、英文スペルは「FABALL SAND」となっています。
Faballなので、スペイン語のFavor(親切・好意)とは違います。
ネット情報によると、FABALL SANDはパスコさんの商標登録名とのことです。ということはファボールは固有名詞、つまり造語の可能性が高くなります。登録商標の実データにあたりたいのですが、現在「メンテナンス期間中」なので調べることができていません…無念。
ネットで調べていて、実はいくつかのファボールサンドの袋にフランス語のFaveurが記されているものを見つけました。
FaveurはFavorと同じように親切や好意など指します。
両者は恐らく同じルーツの言葉でしょう。
「このおいしいパンをどうぞ」
のようなイメージが込められているのを想像しながら、さっそく、計測に入りましょう。