45.パンも肉もタマネギスープも味噌もしょう油もコーヒーもチョコレートもメイラード反応で。
小石が混じる砂浜に寄せては帰す波の音。
照りつける太陽と賑やかな歓声が彩った原色の世界は暮れなずみ、波の音も幾分か刺々しさを失っている。
真夏の火照りをいまだ随分と抱え込んだまま、夕闇が緩やかにその濃さを増してゆく。
静かなガスの噴出音と飛び入る羽虫を焦がす熱量を湛えたランタンの灯がテントサイトを浮かび上がらせる。
風が吹く。木々がざわめく。
ランタンに照らされた、すべてのものの影が揺れる。
影が濃い。
うごめく影たちは都会という鎖から解き放たれたのだ。
俺はフライパンを取り出し、バーナーに火を入れた。
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お肉を焼きます。
当方は「バーベキューやるぞっ」と宣言しながら、フライパンを持ち出して携帯用コンロ(シングルバーナー)でジューっと焼いちゃいます。
もちろん、炭火の方が断然おいしいんですけどね。
キャンプに行って、テントを設営。
遊んで泳いで、さて、それから炭火を起こして…となると、いくらアウトドアの夜は長いっていっても、時間が足りません。
調理の味気なさは、実生活の場を離れたフィールドの味わいで補う。
これがパン大好きの流儀なのさっ。(決まったようで、カッコよくありませんが)
そう書きながら、じっくり&ゆったりした時間を過ごすのが、アウトドアの魅力であると思っています。しかし、当方はテントを持って長旅することが多かったので、野外で食事をするとなると、
「バーベキューといえばフライパン」
のスタイルが定番になってしまいました。
さて、話がそれましたが、お肉を焼きます。
お肉を焼くと…焼き色が付くとともに、いい匂いが漂ってきます。
お肉の「茶色い焼き色」、これは前回お話したメイラード反応によるものです。
お肉に含まれている糖類とタンパク質が加熱されることにより、茶色く変色し香りが発生します。
大よその食品にはタンパク質と糖類が含まれているので、加熱すると大抵、茶色い焼き色が付きます。
意外なところでは味噌やしょう油の色(と風味)も、主にこの反応によるものです。数カ月・数年という長い時間を掛ければ、加熱しなくとも徐々にメイラード反応が進んでいきます。
この反応、フランスの科学者・メイラードさん(Louis-Camille Maillardさん)が発見したものです。
パンもお肉もタマネギスープも切干ダイコンも味噌もしょう油もコーヒーもチョコレートも…すべてに共通する「原理」を見つけ出すというのは、並大抵のことではないですね。
メイラード反応は料理や食材、調味料などの色・風味・旨みに重要な影響を与える反応なのですが、複雑な反応過程を経ているらしく、全容はいまだ探求中とのことです。
さて、パンを焼いても、お肉を焼いても焼き色は茶色です。
しかし、パンの焼く香りとお肉を焼く匂いはまったく異なります。
その理由は…
そして、唐突に始まり終わったサトーとシオの物語「アマドリのオーブ編」との関係は…
もったいぶって恐縮ですが、次回に書きたいと思います。
ちなみに、冒頭のキャンプの部分は、
「お肉を焼く」
というシチュエーションを表現するためだけに設けました。
関係ない話ですみません。いまさら、ですけど、ね…