表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/143

39.魔の炎(ほむら)を鎮め、光あふれし時  五つの宝、約束の空に帰らん

「女で悪かったわね!」


 アイグがキッとにらみつける。


 すでに観念しているようで抵抗はみせず、元素剣すら手放していた。

 だが、なおも挑戦的な視線が俺とシオに向けられていた。


 けれど、俺の戦意はすでに消えうせていた。

 アイグの素顔を見た瞬間に、戦う気力が霧散してしまった。

 

 それは、シオも同様だったようだ。

 依然として警戒を解いてはいないが。


 吹っ飛ばされていた、黒い兜を拾い上げる。


 渾身の俺の一撃を受けたにもかかわらず、アゴの部分に少しへこみが見られる程度。ほぼ損傷の痕がなかった。

 恐ろしく強靭かつ超軽量。一体、どんな物質でできているのだろう? いずれにせよ「この世」のものではないのは確かなのだが。


 片手でその兜を持ち上げ、アイグに手渡す。

  その時、ふわりといい香りがした。

  ああ、これは…女の子の香りだ…


「痛っっ!! 何だ?!」


 思わぬ電撃に襲われ、俺はあわててシオを見る。

 シオは何故なぜか冷え切った目で俺を見下していた。

 

「私の負けよ。で、これからどうするの?」


 敗北を認めながらも、少女の挑発的な言葉に俺とシオは顔を見合わせる。


「あなたも巻き込まれたの?」


 シオの問いかけに、アイグは少し目を伏せた。


「そうよ。赤い竜にだまされて、この世界に送られたの」


 俺たちと同様に、ある願いを叶えるためにアイグは【アラジンのゲーム】に挑んだ。そして、赤装束の男の化身である赤い竜に負け、気づけばこの世界にいたのだそうだ。


「ということは、だ。俺たちはむしろ敵同士じゃなくって仲間ってことだ」


 アイグに兜を渡しながら俺は問いかける。


「よければ、一緒に旅をしないか?」


 兜を奪うようにして取り返したアイグは、栗色の髪をかきあげ、その頭部を再び黒色の装備の中に包み隠した。


 あの量の髪をどうやって納めたのだろう?

 兜、そんなに大きくなかったよな。でもいい匂いだったな。ああ、それよりも、もう少し見ていたかったな。顔が隠れたのが惜しい気がす…いててっっ!!


「シオ!! いきなり電撃はやめてくれ。っていうか、俺の思考を勝手にのぞくな」


「さあねぇ。私は何もしりませんよっと」


 シオって、こんな性格だったっけ?

 なんだかものすごい違和感が…これも異世界のゲーム効果なのか?


「仲がいいのね…」


 アイグは誰に言うのでなく、ポツリとつぶやく。


「まあいいわ。私もあの赤い竜を倒すのが目的だから。お互いの利害が一致したってことで」


「よし、じゃあ一緒に旅するってことでOKだな」


 不機嫌が顔に浮き出ているシオに呼びかける。


「私はまだ何も言ってないんだけどね…。サトーがそうしたいのなら、私はそれに従うわ。ということでアイグさん、ヨロシ・ク、ね」


 語尾がトゲトゲしかったのは、恐らく気のせいだろう。

 少しも優しくない目付きのまま、シオはアイグに手を差し伸べた。

 同時に、俺に向かって電撃を放っていたのは何故だろうか。


「みんなからはアイって呼ばれていたわ。コチラコソ、ヨ・ロ・シ・クッ」


 ううっ。こっちの少女もトゲだらけだ。

 必要以上に強く交わされた握手。

 俺は何だか胃が痛くなってくるのを必死でおさえた。


 先ほどまで死闘を演じていた相手。

 アイが強者として纏っていた存在感オーラから、俺よりもずっと身体からだがデカイと感じていた。だが落ち着いて見ると、意外と小柄なことに気が付いた。

 漆黒の鎧も身体に沿った滑らかなラインをしている。これはこれで、うんいいかも…って、ぐはあっ!

  また電撃かよ。ちょっと位、そんなこと思ってもいいじゃないかって、イテテテテ。


つうっっ!! ちょっと待て、シオいい加減にしろ!」


「もう、知らないっ。お二人でどうぞご勝手に行ってらっしゃい!」


 そんな2人のお決まりのやり取り。

 アイは冷めた視線を送りながらも、心に温かいものが流れてくるのを感じていた。


 これまでは、孤独な異世界での戦いの旅に耐え続けた日々。

 これからは…


 シオがポンッとアイの頭を小突く。


 それを合図として、俺たち3人の旅が始まったのだった。


-----------------


 この世界には古い言い伝えが残っていた。


 五つの剣 集いし時

  メイラードのいただきに導かれん


 五つのやいば 重なりし時

  千年の赤竜は地に堕つべし


 魔のほむらを鎮め 光あふれし時

  五つの宝 約束の空に帰らん


 (「サトーとシオの物語」完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ