34.「全身、鎧を着ているのか? いつの間に?」。部屋にはシオだけが残された。
巨大な赤竜から吐き出された怒涛のブレス。
鮮烈な輝きを放つ紅蓮の熱波に襲われる男女の戦士。
シオと俺は悲痛な表情でパソコンの画面を見つめる。
無理だ。回避不可能だ。何もかもが圧倒的過ぎる。
「だめか・・・」
とあきらめ掛けた途端に【帰らずのゲーム】という言葉が頭の中でサイレンのように鳴り響いた。
俺たちは赤装束の男に勝てなかった。
それは当然、ミズへの願いが叶えられないことを意味している。
その失敗の代償は…あるいは…
もしかすると、シオに危険が迫るかも知れない。
得体のしれない不安が一気に膨れ上がる。
「シオを、いや、シオだけは守る!!」
圧倒的な暴力に飲み込まれる。もう時間がない。
ゲームの画面の中で男の戦士が呪文を唱えた。
それは己がすべてと引き換えにパートナーの「命」を守る禁断の自己犠牲のスペルだった。
「リザレクトッ!!」
呪文を唱えた瞬間、急速に意識が薄れてゆく。
光が俺の体を包み、シオの部屋の隅々までを明るく照らし出す。
フラッシュを何百本も焚いたような閃光が降り注ぐ。
同時にああ、俺の肉体が消えてゆく・・・その光景が、まったく現実感を欠いた、まるで映画のワンシーンのように俺の両目を通して映し出されていく。
人の最期とは、こうも客観的なものなのか?
そんな冷めた疑問が浮かんだ直後、俺の意識は閉じた。
光の奔流が収まり、静けさを取り戻した部屋には、シオだけが残された。
画面の向こうですべてを見届けた赤き巨竜は、ニタリと意味ありげな笑みを残し、大地を叩きつけるように両翼を羽ばたかせた。そして、咆哮を吐き捨て飛び上がり、ゲーム世界のどこかへと消え去った。
「サトー、サトー、お願いだから返事を…して…」
涙に掠れた声が耳元で囁く。
シオの声か・・・俺はぼんやりと聞き流す。
携帯の受話器を通したような遠い音声だった。
そんな、泣くような声なんてシオにしては珍しい。
徐々に意識がはっきりする。
何か大事なことを忘れていたような…
しかし、現状を眼にした俺は、その衝撃で一気に目が覚めた。
「ここは、どこだ?」
俺は地面に寝転がっていた。
硬い岩肌の大地が眼前に広がる。
俺は身を起こす。
すると、それにつれてガシャガシャと金属が擦れ合うような音がする。
「全身、鎧を着ているのか? いつの間に?」
中世の騎士のような自身の姿。
頭部からつま先まで全身が鎧に包まれている。
鎧は金属に似た超硬質な物質でできている。だが、まったくといっていいほど重さを感じない。厚手の衣服を纏っている感覚だ。
鎧の重量を感じないのは「闘気」の作用であることを知るのは、もう少し後のことだった。
俺の姿・・・戦士風のこの姿。まぎれもなく先ほどまで俺が扱っていたゲームのキャラそのものだ。
どうやら、夢ではない。手段は分からないが、現実の世界からゲームの世界に連れ込まれたと考えるのが妥当だろう。
「サトー、ごめんなさい」
かすれて震えるその声からシオの悲しみが伝わる。
「私がこんな賭けに誘ったばっかりに、こんな…」
「これは俺の判断の結果だ、シオ。お前が責任を負う必要はないぜ」
彼女が言葉を続ける前に、敢えて言葉をかぶせた。
難しいです。2時間くらいかけて、これだけしか書けませんでした。少しくどいような・・・気になりますが、投稿(投降)いたします。




