33.「お願い、サトー。 私を、いえミズを助けて」。思わず漏れたシオの本心。
【帰らずのゲーム】
このゲームをプレイしていたと思われる人々が、何人も忽然と姿を消していた。
まるで、現代の神隠しだ。
テレビのコメンテーターたちは画面の中で持論をまくし立てながら、一様に首をひねっていた。
「一種の都市伝説」。俺も、そんな風に聞き流していたのだが…
シオには2年下の妹がいる。
その妹、ミズは3年前、交通事故に巻き込まれてしまった。
意識の戻らない日々が、今も続いている。
毎日、ミズの病室に赴くシオ。
いつの日か、もう一度ミズの笑顔に合える日を信じて。
だが、現実は残酷だった。
外傷が癒えた後、何度カレンダーをめくり続けてもミズが目を覚ますことはなかった。
「ゲームを一緒にしよう」
という言葉を受けた俺は、あきらかに動揺していた。
シオはさらに続ける。
「お願い、サトー。もう、これしかないの。
私を、いえミズを助けて」
私を、か。
思わず漏れたシオの本心を聞き逃さなかった。
俺は知っている。
一日も欠かさずミズの病室に顔を出し、身辺の世話をするシオを
時がすぎ、知人や友人が離れてゆくなか、ひたすら孤独に耐えるシオを
そして何より、自身よりも妹のミズのことを想い続けるシオを
俺は、一言も発さずコントローラーを手にした。
彼女の願い。それを今、叶えることができるのは俺しかいない。
シオと2人でこの「アラジンのゲーム」に挑んだ。
正直なことを言うと、こういったゲームはあまり得意でなかった。
「世界の半分をくれるという悪しき竜退治の探検」
とか
「クリスタルにまつわる最後の幻想世界」
といった、初期のゲームしかプレイしたことがなかったからだ。
記憶を頼りに、手探りながら立ちはだかる敵をなぎ倒す。
与えられた無理難題ともいえるクエストをこなしてゆく。
シオと協力しながら、ゲームは順調に進んでいった。
ターニング・ポイントはあの赤装束の男だった。
何の前触れもなく、あの男は現れた。
続いて、うわさ通りの台詞を男は言い放った。
「次の敵を倒せば、あなた方の願いを一つかなえましょう」
その戦いで、
絶対に負けられない戦いで、
俺とシオは、
なすすべもなく、
敗北した。
赤装束の男の化身である巨大な赤き竜が吐き出した、禍々しいほどの炎の咆哮。
この世のすべてを溶解し分解してしまうほどの圧倒的な熱量。
シオとともに、なすすべもなく無慈悲なるこの煉獄の炎に飲みこまれてしまった。
まさに2人の最期と思われた。
その時、俺は一つの魔法を唱えていた。
「リザレクトッ!!」




