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32.俺はシオに誘われた。「これを、一緒にしてほしいの…」。語尾が少し震えていた。

「何故だ! シオ、何故リザレクトなんだ!

 うおおああああああっ!!!」


 天を仰いだ俺は、呪いの言葉を放つがごとく咆哮ほうこうする。


 「こちら側」に来るのは、俺だけでよかったんだ。

 シオは…シオまでがこの世界に巻き込まれることはなかったんだ。


 激しく動揺する俺を尻目にアイグは漆黒の鎧を駆り肉薄する。


 こんな時に…

 ああ、思い出すのも忌々しい。


 すべての発端はあの謎の「赤装束の男」との邂逅かいこうだったのだ。


----------------


 数日前、俺はシオに誘われた。


 十数年ぶりに訪れたシオの部屋。

 本棚やベッドの位置はあの頃の記憶のまま…

 変わってしまったのは2人の距離くらい、か。


「座って。お茶を持ってくるね」


 蒸し暑い夏の昼下がりだった。

 たわいもないことで笑いあい、ケンカもしたっけ。

 お互い幼かった遠い日々。

 甘酸っぱい思い出となってよみがえる。


 年頃の女の子らしい色合いと香りがあふれる部屋。

 俺は何も期待していなかった…といえば嘘になる。


 よく冷えた麦茶が運ばれてきた。

 シオから手渡されたグラス。その水滴に触れた時、俺は肩に不自然なくらいに力が入っていることに気づかされた。

 

 シオは何もしゃべらない。

 一定の間隔で「ギギギギ」ときしむクーラー噴出し口の音が、2人の唯一の助けとなってくれた。


「実は…」

 

 シオは切り出した。

 少し伏目がちな瞳が俺のまなこを捕らえた瞬間、チカラを宿した。

 ドキリ、とシオにも聞こえるくらいに心臓が高鳴った。


「これを、一緒にしてほしいの…」


 取り出された、一枚のディスク。

 DVD? いや、ゲームか何かのソフトが入っているのだろう。


 シオはパソコンを起動する。

 カリカリカリと起動音が続いている。

 その音が鼓動よりも大きいのではないかと思えるような沈黙。

「それはもしかして…」とシオに訊ねようとも考えたが、敢えて次の言葉を待つことにした。


 すらりと伸びた指で指し示しされたパソコンの画面を覗き込んだ。

 シオの顔が近い。が、意識しないように心を凍結フリーズした。


 その画面デザインは、ごくありふれたRPGのようだった。

 だが、そのタイトル名には聞き覚えがあった。

 確か…


「サトーは、こういうの、得意だった、よね…」


 一語一語区切りながら発せられた言葉。

 語尾が少し震えていた。

 俺は、そのことに気づかない振りをした。


 このゲームは確かテレビのワイドショーなどで何度も取り上げられていたものだ。


【アラジンのゲーム】


 そんな二つ名が付いていたはずだ。ある一定の条件を満たすと、プレイヤーの願いが一つだけかなうという。千夜一夜物語の「魔神のランプ」にあやかった命名だろう。


 願いを叶えた、という人はいまだ公にされていない。

 だが「数千億円を手に入れた」「不治の病が治った」など、奇跡とでもいえるような事例が週刊誌を賑わせているのもまた事実だ。


 だが、このゲームには、もう一つの呼び名があった。それは…


【帰らずのゲーム】

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