27.少しはマジメにパン作りを考えます。とはいえ、あれとあれの絶妙の関係。
小麦の主成分はデンプンです。
デンプンは小麦の葉などの葉緑素で光合成によって作り出されます。
う~ん。いつ習ったのか覚えていませんが、何せ理科のお勉強ですね。
我々人間は(すごい表現ですが)、このデンプンを食べることでエネルギーを生み出しています。すなわち、デンプンを食べ、生きています。ああ、ありがたや~。
けれど、デンプンをそのままで食べるとお腹に負担がかかります。
生麦、生米、生卵。
いや、生卵は食べられるか。
生麦や生米は、普通はそのまま食べません。
両方とも水に浸け、火を通して、ふっくらさせてから食べています。
デンプンは常温ではあまり水を吸いません。
一方、加熱すると水をどんどん吸っていきます。
デンプン自身が水を取り込み、ふっくら・もちもちした状態となります。
そう、米を炊くこと…「おこめ」が「ごはん」になる変化のことです。
パンの基本材料である小麦粉でも同じ変化が起こっています。
小麦に含まれるデンプンは加熱されると水分を吸います。
やがて、水分を取り込んでもちもちした状態となります。
次に小麦粉に含まれているタンパク質についてです。
小麦の成分の約10%はタンパク質でできています。
「グリとグルの物語」で書いたようにそのタンパク質に水が加わるとグルテンができます。
パンの材料を混ぜあわせた当初(デンプンは水をあまり吸わないので)、水分はタンパク質に吸収されます。そしてグルテンがどんどん作られていきます。
グルテンはゴムのような、しなやかに伸びる膜を形成します。
コーボーとアミ編で書きましたが、イーストの発酵で発生する炭酸ガスを包み込んで生地にスポンジ状の無数の小部屋を作り出します。
パン生地をこねていくと、デンプンはこれらのグルテンの小部屋に閉じ込められた状態となります。
一方、グルテンは加熱されると水分を放出しようとします。
そして、硬い構造物に変化します。
焼きあがったパンが、元の生地の様に崩れてしまわないのは、加熱で硬くなったグルテンが、まるで骨格のようにパン全体をを支えているからです。
お話が込み入ってきました。
非常に単純なことが言いたかったのですが、
前置き・説明がとても長くなってしまいました。
ふっくらパンの秘密。
これはデンプンとグルテンの絶妙な関係にあったのです。
パン生地をオーブンなどで焼いている時には…
デンプンは水分を欲しがります。
グルテンは水分を出したがります。
温度にしておよそ70度付近で、双方同時に変化が起こります。
「ああ、水が飲みたいな」
「じゃあ、僕の水を飲むといいよ」
「ありがとう、グルテーン君」
「どういたしまして、デンプーン君」
デンプーンはその身に水を湛え、メタボになった。
グルテーンはその身の水を出し切り、骨っぽくなった。
「それにしても暑いな」
「そうだねぇ…」
…みたいな感じです。
実際、こんな話を書こうと思いましたが、さすがにやめたのは内緒です。
ふっくら・しっかりした、おいしいパン。
そこには、デンプンとグルテンの、
絶妙なる水分の受け渡しがあったのです。