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26.颯爽と現れ、去ったプロテア。残された2人、そして最後の戦いへ・・・

 大地の激動はいまだ収まらない。


 コーボーはアミにしがみついたまま必死に耐えている。

 

 どれくらい時間が経ったのだろう。

 ようやく、揺れがおさまってきた。

 

 コーボーは辺りを見回した。

 変わり果てた風景。

 遠くまで広がっていた小麦の海や大地はどこへ行ったのだろう?

 薄い膜のようなものが壁となって視界を遮っている。

 どうやら、その膜に四方を囲まれているようだった。


「閉じ込められたわね」


 低くつぶやいたアミは両手の刀で、その膜に切りかかる。

 刀は膜に深くめり込み、弾き返された。

 膜には傷一つ付いていない。 

 強力なゴムのような、強さと柔らかさを持ち合わせている。


「アミの刀が通らないなんて」

「私の刀はデンプンを切るためのものだから。

 もしかしたら切れるかもって思ったんだけど…」

「脱出不可能、か」


 二人が途方に暮れていると、

「プロテアさまに任せろっ」

 野太い声とともに小柄な男が2人の背後から飛び出す。

 戦士風のその男は短剣を大上段に構え、体ごと膜へぶつかってゆく。

「でやぁぁ!」

 気合あふれる掛け声をはりあげ、短剣を一気に振り下ろす。

 見事に切り裂かれる壁の膜。


「おおっ」

「すごいっ」 

 コーボーとアミの眼に期待の火がともる。

 

「わしについて来い」


 素早い動きで膜を切り続けるプロテア。

 彼の者にとってこの膜は敵ではなかった。

 しかし、プロテアは小さすぎたのだ。

 コーボーとアミが通り抜けられる大きさまで、膜を切り開くことはできなかった。


「残念だが、わしにはやらねばならぬことがある。

 わしを待つ者のために、先を急ぐことを許してくれ」


 お主らに幸あれ、と言い残しプロテアは膜の向こう側へ走り去った。


 コーボーらを取り囲む膜はところどころでちぎれている。

 やや空間が広がったようだ。

 しかし、しばらくすると裂け目は結合して元の壁へと戻ってゆく。


 コーボーは考えた。

 アミの力ではプロテアのように膜を裂くことができない。

 脱出するために、いまの僕にできること。

 それは・・・


「僕の左手にできる球をたくさん作るんだ」


「あのシュワシュワの球?」

 アミはコーボーの左手に視線を移しながら答えた。


「そう、シュワシュワの球。

 風船も限界を超えて膨らませると割れるよね。

 シュワシュワの球をたくさん作って、この空間を膨らませるんだ。

 きっと同じように弾けて、僕たちも脱出できるはずだよ」


 うなずくアミ。

 もう悩んでいる暇はない。

 2人は脱出に向けた作業に取り掛かった。


 アミが手当たり次第にデンプンを切る。

 コーボーがそれを食べ、シュワシュワ球を作りだす。

 何度も何度も球を作り出してゆく。

 充満する気体。どんどん膨らんでゆく空間。


「これは、いけるぞ」

 コーボーは流れる汗も気にせず気体の球を作り続ける。


 脱出できるかもしれない・・・少し余裕が出たからだろうか。

 アミは意外なことに気がついた。


「それはそうと、ちょっと暑くない?」


「そういえば、さっきから汗が止まらない…」


 2人はまさに死に物狂いで頑張ったのだろう。

 その空間はコーボーが絶え間なく出す気体でかなり押し広げられた。

 しかし、最後まで膜が破れることはなかった。


 2人は暑さの正体に気づくことはなかった。

 そして、その暑さが「熱さ」に変わった時、何を見たのだろう。

 

 2人のその後を知る者はいない。


 ただ、パンのふわふわを形作る空間が、そこに残されていた。


(どうやら完)


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 何だか後味悪い終わり方ですみません。

 パンを食べる時、少し悲しくなってしまいそうですね。


【グルテン】

 小麦に含まれるタンパク質が水と反応してできる物質。パンのふわふわの元。弾力に富んだ薄い膜となって生地の中に無数の「小部屋」を作り出す。酵母イーストのアルコール発酵で発生する二酸化炭素(炭酸ガス)によって、この小部屋は風船のように膨らんでゆく。焼成の工程で一定以上に加熱されると今度は水分を放出して硬くなり、パンの骨組みとなる。作中ではコーボーらを取り囲む「薄い膜」として登場。


【プロテアーゼ】

 小麦に含まれるタンパク質分解酵素。タンパク質の固まりであるグルテンを分解する。グルテンが分解されることで生地の伸展性のびが増しパンの容量アップを助ける。作中ではプロテアの名で登場。何のために出てきたのか、そして彼の目的は? 誰にもわかりません。

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