24. 満腹のコーボー。両手には透き通ったガラス玉が一つずつできていた。
アミの背中に乗せてもらったコーボー。
少し恥ずかしかったが・・・アミの申し出を断る理由も、またなかった。
コーボーはゆく。
見渡す限りの小麦粉の海を。
いや、我々人の目には見えない、ごくごく小さな存在である。
コーボーやアミの目を通して見れば、デンプンやタンパク質の分子が、水の分子の間に浮かんでいる、ある意味ファンタジーな世界なのかも知れない。
コーボーは知る。
自らのほかに、見知らぬ仲間たちがたくさんいることを。
腰のハサミで砂糖を切って食べている姿。
アミに似た少女たちが、あちこちでデンプンを切り裂いている。
そんな世界が広がっていた。
「ちょっと休みましょう」
アミは立ち止まった。
周囲にあるデンプンに狙いをつける。
両腕の刀でデンプンを切るアミの早業に感嘆するコーボー。
しかし、そんなスゴ技をもってしても、小さなコーボーの口に入るサイズにまで切り分けることはできないのだそうだ。
コーボーは背中の「愛棒」マルーを取り出し、デンプンの破片を叩き割り、かぶりついた。
腹が満たされたコーボー。
両手にはそれぞれ、透き通ったガラス玉が一つずつできていた。
「きれいね。水晶玉?」
アミの問いかけに、首を横に振るコーボー。
「違うよ。右の球にはお酒が入っているんだ」
アミは長刀を器用に動かし球をつかむ。
それは、まるで生まれたての小鳥をそっと触れるような繊細な仕草。
アミは眺める。
薄い透明のガラスのような容器。
その中に透明な液体が揺れている。
そっと口を近づけ、ふっと息を吹きかける。
球の上部が溶けるようにして消え、小さなコップのようになった。
「とは言っても、まだ飲んじゃいけないんだよね」
コーボーはあわててアミを制止しようとした。
「いいえ、大丈夫よ。わたし、こう見えても・・・」
「えっ?」
コーボーは耳を疑った。
見た目から少女とばかり思っていたアミ。
実は、コーボーの数倍以上の時間をこの世界で過ごしていたのだから。
ああ・・・アミさん、いや、アミはんと呼ぶべきでしたか。
「ぷはーっ、このお酒、のど越しがたまらないわね」
・・・まっ、アミさんが気に入ってくれたのだからいいか。
コーボーは前向きにつぶやいた。
(もう少し続きます)
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【アルコール発酵】
一般に、酵母は酸素がない環境下に置かれると、ブドウ糖などを取り込みそれをエタノールと二酸化炭素に分解することでエネルギーを取り出す「アルコール発酵」を行います。なお、パン酵母は酸素がある環境下でもアルコール発酵を活発に行います。