20.「ちぎり分け」→「ひとまとめ」を数回。驚くくらいに滑らかな生地に。
「グリは無茶ばかりなんだから」
ソファーに身を預ける。
鼓動のたびに、鈍くうずく右頬。
大きく見開かれたレザンの瞳。
少し揺れながらも、しっかりと俺を捉えている。
殴り合いなんてしたことはなかった。
「レザンを守る」
ただ、その想いしかなかった。
迫り来る相手の拳。
狂気をはらみ固く握られた指の壁。
曲がりなりにも剣道で十年以上もまれたからだろうか。
一瞬たりとも目はそらさなかった。
妙に冷静に、その拳を受けた。
ガンッ
重量のあるものが、したたかに打ち付けられる感覚。
脳に火花が散った。
レザンが叫んだ。
視界の端に通りがかりの女性たちが反応するのが見えた。
騒ぎになってはマズイと考えたのだろう。
3人組は悪態をつきながら立ち去った。
差し出されたレザンの手を握りよろよろと立ち上がる。
紺碧の空と潮の香り…
つながった手の温もりが呼び起こした場違いな記憶。
こんな時に…。俺は静かに手を離した。
何も話すこともなく、レザンとともに店に戻った。
よく冷えたタオルをほおに当てる。
大きな傷でなかったのは、幸いか。
「レザン、俺は・・・」
次の言葉を探しているうちに、レザンが言う。
「グリ。あなたは言い訳しなかった。
あの日も。
私が別れるって伝えた時も。
そして、さっき襲われた時も、あなたは逃げなかった」
「レザン、俺は・・・」
「殴られるっていうのに、目をそらさなかった。
まっすぐに、ただまっすぐに見ていた。
いつも守ってもらっていたのに・・・
逃げようとしていたのは、私の方だったのね」
震える瞳。大粒の涙がこぼれる。
そして、震える唇がまっすぐ近づいてくる。
レザンを優しく抱き寄せ、俺は静かに眼を閉じた。
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さて、本題は、
「パン生地をこねているとき、ふと気が付いたこと」でした。
前振りの話が長かったので結論からいいましょう。
こねの時、生地を数個にちぎってはまとめる作業を繰り返すと、驚くほど短時間で滑らかな生地になります。
私は一回あたり強力粉400グラムのレシピで作ります。
材料を合わせると小ぶりなメロン位の大きさの生地となります。
混ぜ合わせの初期は生地はぐちゃぐちゃです。
観念して、しばらくこねていると段々生地がまとまってきます。
混ぜ合わせから10分はかからないと思います。
生地がまとまったら、6分割になるくらいに生地をちぎります。
ぐわしっ、もしくは、むしっ、といった感じで生地をちぎり分けます。
ちぎると、生地はべしゃべしゃになります。
手にもべたべたついてきます。
ちぎり分けた生地を、また一つにまとめるようにこねます。
しばらくすると、またまとまります。
また、6分割になるくらいに生地を、むしっ、とちぎり分けます。
この「ちぎり分け」→「ひとまとめ」を数回こなすと、驚くくらいに滑らかな生地となることが分かりました。
もちろん、これだけでは不十分なので、通常のレシピ通り生地を伸ばしたり、叩きつけたりもして仕上げています。けれども、経験上「ちぎり分け」を数回入れた方が、非常に短時間で滑らかな生地になります。
えっ? それとグリとレザンの話と何が関係あるのかって?
それは・・・長くなったので、次回に書きたいと思います。




