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17.グリとグルの物語(3)-ああ、友情の結晶。その名も「グルテンの結束」。

 ニワトリみたいな魔物をグルと2人で倒した。

 グルとなら、この先も何とかなる、そう思える戦いだった。


 ブーランジェリー洞窟に向かう途中、何度もマジック・ドッグやニワトリもどきに遭遇した。


 慣れれば何のことはない。グルとは性格こそ違うけど息はぴったり。ほとんど剣の一振りで魔物を退けていった。


 ヴオオオオオオオオオオオオオ!


 あの雄たけびだけは何度聞いても生きた心地がしないけど……


 歩きながら、ふと疑問が沸き起こった。考える余裕が出てきたのだろう。


「なあ、グル。魔物を剣で切っても血が出ない。あと、死んじゃう時、分解するみたいに消えていくよな。なぜなんだろうな?」


 グルは頭をかきながら考えている様子だ。


「う~ん。僕も気になっていたんだけど」


 何でも知っていそうなグルにも、分からないことがあるようだ。


-----------------


 数時間は歩いただろうか。岩肌にぽっかり空いた大きな穴。恐らくあれが、目指すブーランジェリー洞窟なのだろう。


 ただでさえ薄暗い青の森。

 その中で漆黒の闇を抱えるように大きな口をあける洞窟の入り口。


「グリ、僕一人じゃ絶対に入れないよ」

「いや、2人でも怖いんだけど……」


 入り口に立って、まじまじと洞窟の奥をのぞき込む。奥の方に壁が見えるような気がする。かすかに水の流れる音も聞こえる。洞窟はそれほど深くないのかもしれない。


「本当に必要なら村長がたいまつも持ってけ、って言うよね」


 グルが示した推理によると、たいまつが必要ないってことは「入ってすぐのところに聖なる水があるはず」ということだった。


 俺はグルの言葉を信じた。まあ、行くしかないんだけれどね。


 2人で洞窟に足を踏み入れた。

 湿った空気。冷やりとしていて、少しかびの臭いを含んでいる。

 

 目をこらす。

 十数歩進んだころだったろうか。


 岩肌の裂け目から、淡く青い光が放たれている。そして、そこから水が流れ落ちていた。どうして、と言われても仕方ないが、直感的にそれが「聖なる水」であることを理解した。


 理解した瞬間、魔物が現れた。いや、魔物ではなく、神々しささえ感じる姿だった。


「我はケウ・フォーチ。聖なる水を守る精霊なり。そなたたちを排除する」


 いきなり出てきて「排除」かよ。思わず突っ込みたくなるのをぐっと抑える。


 グルとともに剣を構える。


「精霊さま。あなた様と戦いたくはないのですが」


 グルは必死に訴えかける。魔物じゃないしな。もしかしたら話せば分かるかもしれない。 


 しかし、期待は裏切られた。


 ケウ・フォーチは聞く耳を持たず、左手に杖を掲げ、

「グルテニン。その動くところあたわず」

 と言い放った。


「うっ動けない!」


 グルの身体と両手、両足の動きが何かに縛られているかのように止まった。

 ただ、何とかして言葉は出せる様子だ。


「グルに何しやがる」


 直線的に踏み込み、ケウ・フォーチに切りかかる。

 

 ケウ・フォーチは悠然と左手の杖を掲げる。

 杖の先が光った瞬間、青色の閃光が俺に向かって飛んで来た。


「うおっ。魔法か!」


 恐らく水系の魔法なのだろう。何とか身を翻して回避する。


 右手の杖で相手を動けなくして、左手の杖の魔法攻撃を浴びせる。これがケウ・フォーチの勝利の型なのだろう。かなり厄介な状態となってしまった。

 

「グリ、すまない。油断した訳じゃないんだけどね」


「必ず助けてみせるっ!」


 申し訳なさそうな顔をしているグリを力付けようと大声で返したが、魔法の杖の攻撃があるため、なかなか踏み込めない。


 何度かの攻防の末、ようやく魔法攻撃をかいくぐった一撃がケウ・フォーチの体に深く入った……はずなのに、宙を切ったような手ごたえ。


 どうやらまったくこちらの攻撃が効いていないようだ。


 困ったどうしよう? 物理攻撃が効かない相手に、俺が打てる手は、ない……


 あれこれ考えてしまい、動きが止まってしまった。

 そして、それが命取りとなった。


 ケウ・フォーチが右手に掲げた杖が光る。

 しまった。

 動けないグルに向けて、魔法が放たれた。


「グル!!」


 何も考えていなかった。とっさに俺が取った行動は、身を挺してグルを守ることだった。青い閃光が放たれた瞬間、俺は無防備に身体を割り込ませる。


「グリ、いけない!」


 そんな声が聞こえたような気がした。


 俺の視界は青い光で埋め尽くされた。


------------------


 気が付くと、グルテニンが心配そうに俺をのぞき込んでいた。


「俺は……というか、グル、大丈夫だったのか。あの精霊は……」


 身を起こしながら問いかけた。グルが答えるよりも先に精霊の声が洞窟に響いた。

 

「我はケウ・フォーチ。聖なる水を守る精霊なり。友を思い、その身をいとわず。そなたの友への思い、しかと見届けた」


 ケウ・フォーチは左右の杖を空中で交差させた。すると、そこからガラスの容器に入った水が現れた。


「それを持ち帰るがよい。グリアジンとグルテニンよ。両人の行く末に幸あらんことを!」


------------------


 村の祭壇に「聖なる水」を備えた。

 10歳の試練を無事、達成した。

 グルとともに、これで大人の一員として胸を晴れるんだ。


「グリアジンとグルテニンよ。お主ら2人は、聖なる水を介して認め合いお互いの結びつきをより深めたのじゃ。2人の名を取って『グルテン』の結束。決して忘れるでないぞ」


 村長の言葉を深く胸に刻んだ2人だった。


------------------


「いや~、グリ、よくやったな。最初は結構ビビってたからどうなるかと思ったけどな。グルのピンチを救うために精霊さまの攻撃に自分から飛び込むなんて、なかなかできることじゃないぞ」

 

 父ちゃんから、ほめられたのはうれしいけれど……


 えっ? なんで全部知ってるの?


------------------


 実は「青の森の試練」は森のあちこちに設置されたモニターで、すべて監視されているのだということだった。子供が参加するっていうんで、危なくなったらすかさず大人がフォロー。


 魔物もデジタル技術で作り出したものだった。だから、血も出ないし分解するみたいに消えていったんだ。


 ちなみに精霊さまはホンモノだ。聖なる水を手に入れるには、いろいろなパターンがあるらしいが。これは試練を終えた者だけが知ることのできる公認の秘密なのだとか。

 

 ああ、この秘密、聞かなかった方がよかったかもしれない……

 


 グリとグルの物語(完)

 


------------------


 ・強力粉にはタンパク質が含まれています。

 ・このうちグリアジンとグルテニンという2種類のタンパク質が水と結びつきグルテンに変化します。


 この2文から「物語」を着想、構成したのですが……無理があったか……出直します。


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