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番外編 その28.春の出会いは、甘酸っぱくて切なくて。美酒、クイッ? どすこい?


 春は出会いと別れの季節。

 甘酸っぱくて、切なくて。


 別れるくらいなら、最初から出会わなければよかった。

 いや、それは違うよ。

 なぜ? こんなに辛い思いをするくらいなら……

 きゃっ。えっ ぎゅっっぅ……

 

 一体何があったのでしょうか?

 ここは若い人のご想像にお任せいたしましょう(おいおいっ)。


 数分、いやたった一秒時がずれただけで永遠のすれ違いに終わったかも知れない奇跡の結びつき。

 数千数万分の一の確率で人と人とが巡り合う。


 春は一期一会。

 甘酸っぱくて、切なくて。


 身体の芯まで冷たく突き刺さった風は拍子抜けするほど唐突に、鉛色の空とともに消え去った。

 菜の花の頬を撫でた穏やかな風は街角のスーパーをもきらめく早春に塗り変える。

 昨日とまったく変わらないはずのピンクの買い物カゴも、心なしか右腕に軽い。


 彼女はいつからそこにいたのだろう。

 いや、もうずっと前からそこにいたのだろう。


 すれ違ってばかりいた二人の、始まりの季節だからこその出会い。

 春を感じた心が淡く桜色に燃え上がった、その思いのままに彼女にそっと手を伸ばした。


 甘酸っぱくて、切なくて。

 そう、

 春は、イチゴ一会。


…………………………………………………………………


 今回の番外編は神戸屋さまの「いちごシャルロット」です。

 

挿絵(By みてみん)


 3月も末になると、街角のパンコーナーには新商品も混じり、色とりどりの春が咲き乱れます。そんな中で冒頭の創作のように一番ビビビと「春」を感じたのがこのいちごシャルロットでした。

 もちろん新商品ではありません。以前から何度も売り場で見かけていたのですが、なかなか手に取る機会がなく今に至ってしまいました。


 第一印象を忌憚なく書かせていただきますと「何だかカロリー高そうダナ」。それに続いて「シャルロットって、一体ナニ?」でした。

 

 シャルロット、この言葉の響きをどこかで耳にしたことがあると思っていたら……英語のスペルはcharlotte、そう、英国のシャーロット王女と同じでした。Charlotte Elizabeth Diana王女。

 

 固有名詞なのですがCharlotteをいつものwikipediaさまで調べてみますと……


 シャーロット (Charlotte) は、英語圏の女性名。フランス語圏ではシャルロットに、ドイツ語圏ではシャルロッテに対応する。愛称は、チャーリー (Charlie) 。(以上、wikipedia「シャーロット」の項目から引用)


 対応する男性名はチャールズ(Charles)です。言わずもがなですが、シャーロット王女は祖父にあたるチャールズ皇太子ご夫妻の名を受け継がれています。


 さて今回のいちごシャルロット。「シャルロット」は洋菓子の一種です。語源には多くの説がありますが、その一つにチャールズ皇太子やシャーロット王女につながる18世紀半ばから19世紀前半に存在したシャーロット王妃(ジョージ3世の王妃)にあやかって名づけられた--というものがあります。なんだかロイヤルなお菓子であられるようですね。


 当方、ケーキやクッキーなどお菓子作りに関してほとんど知識がないのですが……なんとかネット空間を徘徊し、まとめた情報によりますと、シャルロットなるお菓子は、


「ビスキュイ・ア・ラ・キュエールを型の壁に貼り付け、ムースや果物を詰めた菓子」


とのことでした。むむう。


 びすきゅい あら きゅえーる ってなんじゃらほい?


----------------------------------


「なんで苦手なきゅうりを頼むねん」

 とりあえずビールとほぼ同着で店員が差し出した皿には、山盛りのきゅうりが載っていた。

「俺が嫌いなん知ってて注文したやろ?」

 向かいの席の岡崎は放たれた愚痴をしれっと無視し、一切れ、箸でつまんだ。

 初夏を存分に吸い込んだ濃緑の皮がはちきれんばかりのきゅうりは、力づくで千切り分けられたのであろう、細かな凹凸を持った乱雑な断面をヌラヌラとしょう油色に染めていた。そして、ソワソワザワザワとそそる香ばしい匂い……そう、この香りはゴマ油だ。

 しょう油とごま油のコラボレーション。アミノ酸とオレイン酸の魅惑のデュエットに誘われ、緑の山に思わず手が伸びる。が、きゅうりを視界に捉えた瞬間、割り箸が空中で急旋回した。

「まあ、とにかく食べてみぃ」

 岡崎は俺の葛藤を見透かしたかのように一言、告げた。

 俺は意を決して、まずビールを流し込んだ。

 クーラーの効きが悪い店内の所為もあったのだろう。細かな泡が上唇と舌とを叩く刺激をピリリと感じながら、冷え切った苦味が一気に体の中心をキリリと駆け抜けた。

 この一口は、存外にうまかった。


 もう迷わない。

 割り箸は一直線にきゅうりへと向かい、新緑の身体をつかみ取ると、口の中へと放り込んだ。


 ぽりっ。

 ああっ!


 あの忌まわしき青臭さが完全に消え去ったといえば嘘になる。

 が、でも、しかし。

 それを補って余りある、身体の内側から湧き上がるようなこの喜び。そんなに上等な品ではないはずなのに、しょう油は華やかで上品な香りを放ち、ごま油のねっとり深みのある芳香と交わり軽やかに舞っている。強めの塩気としょう油の味わいがさらに加わって、俺的にはNGなはずだったきゅうり独特の青臭さが全体のうまみを引き立てていた。


 ぽりっ、ぱりっ、意外とうまいやんか! 


「なっ、うまいやろこれ」

 勝ち誇ったように鼻を膨らませる岡崎の言葉を、歯ごたえ十分のきゅうりの咀嚼音が掻き消した二十五の夜だった。



 美酒クイッ、あら!? 食え~る!

~ビスキュイ・アラ・キュエール~



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「お前のお陰で相撲の日本一になれたんや」

 土俵の上で、俺の悩みを聞き終えた山下は力強く答えた。

「今度は俺が応援する番や。絶対に大丈夫や。勇気を出して告白せえ!」

 ばちこーん!

 汗臭い道場に強烈な音が響く。

 親友の張り手を背にもらいながら、俺はエールをしっかり受け取った。



 どすこい、荒く、エール

~ビスキュイ・アラ・キュエール~


----------------------------------


 なんだか本題に入るまで長くなってしまったので、今回はこのあたりで……何を書いてるんだか。まったくもってすみません。


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