110.釜出しショックがもたらしたのはショック以外の何モノでもなかった。
焼きあがったパンをオーブンから取り出すときに、パンパンと型を叩いて取り出します。型に入れていない場合は、天板ごとテーブルなどにバンバンと打ち付けます。クッキングシートの薄皮一枚で灼熱の鉄板に乗っかっているロールパンなどは衝撃でピョンピョンと跳ね、踊ります。
釜出しショック。
電子レンジ兼用のオーブンなので「釜」などとは恐れ多いですが、取り出し時の「パンパン」のことを敢えてこう呼びましょう。
この釜出しショックって本当に必要なのかな……何事も疑って掛かるパン大好きは、検証すべく実験に取り掛かりました。材料・レシピはいつも通り。おさらいしておきますと、強力粉400グラムで焼き型を使わない丸型パンとなります。
1次発酵を終えた生地を等分に分割します。水やバターなどを混ぜ込むと総量700グラムとなるのでその半分、350グラムのパンを2個作ります。そのまま一緒に2次発酵させて、一緒にオーブンの加熱を待って、一緒に焼き上げます。
ちなみにオーブンの設定温度は220度で焼成時間は20分+αとしました。αの分は焼き色などから判断することにしました。
条件は2つ。釜出しショックを与えるか、否か。
①ショックを与える方は、取り出してから両手のミトンに抱えてパンパントントンバンバンコンコンどうだどうだこれでもかと計300回ほど振動・衝撃を与えました。
②ショックを与えない方は、数十分抱っこしてようやく眠りに付いた赤ちゃんをお布団に着地させるように細心の注意を払って優しくそっとふわりと釜出ししました。
数時間後、①と②のパンにどんな変化が現れるのでしょうか?
いざ、レッツ・エクスペリメント!
いきなりですが生地を分割し、2次発酵を終えたところです。ホワホワの生地、ついつい指でツンツンと突付きたくなってしまいますが絶対にダメです。衝動をグッと堪えて、予熱を終えたオーブン庫内へ。
そして、焼き上がりました。1つ取り出し、釜出しショックを与えます。パンパンパン……かなりの熱気を感じましたが分厚いミトンのおかげで火傷はせずに済みました。
もう一つは、出来るだけ刺激を与えないように慎重に取り出しました。
左が①のショックあり、右が②のショックなしです。焼けたての皮は高テンションではちきれんばかりとなっています。そのまま数時間、冷ましました。
半日以上経ったので、いよいよ実食です。まずは、それぞれ半分に切って断面を観察してみましょう。
えいっ!
遠目で見るとそれほど違いがないような……両方とも上部に大きな気泡ができているのは、ガス抜き不足。お恥ずかしい限りですね。
ちょっと分かりづらいので、皮付近の画像をクローズアップしました。
上が①のショックあり、下が②です。うーん、皮の厚み、色、構造などは視覚的にはまったく同じといっていい感じです。ちなみに皮とその周辺部をそれぞれ触り比べても「差」を感じることは出来ませんでした。
実験の結果に少々の不安を抱きつつも食べ比べてみました。
ショートケーキのようにパン生地を切り出します。ハムハム、口に含みます。
①を食べてから②を。②を食べてから①を。①と②同時に。①だけ、しばらくして、②だけ。
さまざまな順番で食べ比べてみました。
その結果は……
まったく同じパンでした。チャンチャン。
いくら違いを見つけようとしても、どうしても見つかりません。むむう。これが噂の「悪魔の証明」なのか。いや、違いますね。
結果は結果として受け入れるとして、もしかしたら偶然、このような結果になったのかも知れません。
もう一度、同じ条件で焼き上げて、叩いて、叩かず、食べ比べてみました。
が、やっぱり違いの分かる男にはなれませんでした。
ということで、結果発表!
釜出しショックは、丸型パンには効果なしでした。
恐らく当方の丸型パンには必要なかったのですが、型に入った主に食パン系では釜出しショックが有効なのではないでしょうか。
食パンなどの生地の場合、金属製の型がグルテンの強度をサポートするので、多少捏ねが弱くとも天地の方向に生地が伸びてゆきます。その状態で焼き上げ、型から取り出すと、壁のサポートがなくなるので生地が自重に耐え切れず凹む=ケーブインすることになります。
この時に、釜出しショックを与えていないと生地の中心部に水蒸気が籠もったままになり、徐々に皮を湿らせ、さらにパンの腰折れを加速することになるのではないかと考えました。
もっと単純な理由としては、ショックを与えることで型に密着したパン生地を取り出しやすくしているのかも知れません。
同じ食パンでもしっかりと捏ね上げられた生地の場合は、釜出しショックがなくても問題ないのかも……時間を見つけて、今後いろいろ試してみます。
いずれにせよこれからの釜出し時、丸型パンは優しくパンパンしてあげることに決めました。




