108.むむう。なんだか微妙な焼き色。焼き上がりだぜっ!という覇気が感じられない……
パンを焼いているオーブンレンジ。ヒータとなる電熱線に電気を流して、その抵抗による発熱で焼き上げる仕組みです。アルミホイルを被せることで、このヒーターから出る熱のうち輻射によるものを大幅にカットすることができます。
「106話 最もよい焼き上がり状態だったパンは……」で実験いたしました3つのパン。焼成開始からアルミホイルを被せていたパンに焼き色がつかなかったのは、この輻射熱の遮断効果によるものだと考えられます。また10分後にアルミホイルを被せたものは、それ以降輻射熱が遮られ焼きすぎの防止--豊かな香ばしさが残った--となりました。
当方のオーブンレンジは(何度か書かせていただきましたが)上下のヒーターに加えてファンで庫内に熱風を循環させるタイプです。アルミホイルは帽子のようにパン生地に被せるだけなので、上側のヒーターの輻射熱は遮りますが下のヒーターの熱はセラミックの回転皿を介してパンに直接伝わります。また、アルミの裾の隙間から熱風が吹き込むことで表面も加熱されます。前回(第105話)の熱に関するお話から言えば、これらは熱伝導による加熱となります。輻射熱を遮ったとしても、じっくりとパンに熱が伝えられるのです。
厚さわずか10ミクロンのアルミホイルですが、効果は歴然です。中心部に火を通したいが、火力を上げると表面が焦げてしまう……という当方の大型丸パンの欠点を補うには好都合なアイテムだといえそうですね。
ということで、さっそく作ってみました。ばばんっ!
でっ、でかいです。大きさをお伝えするためにワンカップを置いてみました。アルミでできたテープでペタペタ、深夜の台所での工作タイム。できあがって悦に入っているところを家人に見つかってしまい、しばらく気まずい沈黙があったことは忘れたいです。
オーブンの設定は220度で20分。途中10分経ったら、このデカイ帽子を被せます。
いつものように生地を捏ねて……では加熱スタート。
いい感じに釜伸びいたしております。10分経つと、ほんのり焼き色も付き始めました。扉を開けて火傷しないように慎重に被せると、おおっ、すっぽりと収まりました。まずは一安心。
焼きを再開して規定の20分が経ったので、一旦テーブルに取り出しました。
ぶすり。
デジタル温度計を差し込みます。念のため中心部の温度を測ってみると80度をちょいと超えたあたりで表示数値の上昇がストップしてしまいました。
これでは少し加熱不足なので再度オーブン内にパンを戻し、220度で10分間追加。取り出してもう一度測ると92度を指しました。ようやく焼きあがりです。
それがこのパンです。
むむう。なんだか微妙な焼き色ですね。元気のないキツネ色? 焼き上がりだぜっ!というような覇気が感じられません。程よい香ばしさは漂っているのですが。
半日ほど冷ましてから食べてみると……中心部までしっかり火が通っていました。揮発性のにおいなども一切ありません。生地も全体的にフワリとしていて、弾力もあります。
しかし、残念なことにパンの香ばしさが半減、いや、四分の一程度にまで落ち込んでしまいました。最初からアルミホイルを被せていたパンほどではないのですが、皮の部分の味わいが中途半端すぎて全体的に物足りなさを感じました。
パンの焼き色は150度~の加熱による、主にメイラード反応によって付くと考えられています。今回の一連の試行でパンの味わいにおける「香ばしさ」の重要性を再認識いたしました。パンの耳って偉大なのですね。
さて、本題の大型丸パン対策です。もう少し焼き色が付いてからホイルを被せれば、香りよし・中心部もよしとなりそうです。では、そのタイミングは開始からいかほど経ってからなのか……おいしいパンへ、さらなる手探りは続きます。