107.まっすぐな視線が彼女の心を熱くした。そして、触れ合う指先から伝わる温もり。
そもそもパンを焼き上げる源である「熱」って何なのだろう?
火は熱い、太陽も熱い、そして我がパンに対する想いもこれまたアツイ!
最後のアツさはちと違いますが、「熱」について色々と調べました。書いてみて思ったのは、文章ではとてもイメージしにくいお話であることでした。
ということで、先に結論から書いておきます。
熱を伝えるのには、
①輻射=放射
②伝導
の形態があります。このほかに③対流もあるのですが、ここでは省略します。順にざざざっと説明しましょう。
唐突ですが、太陽の熱が地球に届く仕組みって周知の事実なのでしょうか? 当方、調べてみるまでまったくもって知りませんでした。
太陽が放出しているエネルギーの源泉は核融合によるものです。例えるなら、宇宙の片隅で太陽はバクハツしているのです。
その太陽と地球の間の宇宙空間は空気が存在しない真空状態です。さらに光のスピードにして約8分という途方もない距離を隔てています。にもかかわらず太陽の熱が届くのは①の輻射(放射)という作用によるものと考えられています。
太陽から発せられた熱は電磁波、つまり光の一種に置き換えられて宇宙空間を飛んできます。電磁波は空気がなくとも進むことができます。夜空のむこうにキラキラ浮かぶ瞬きの数々がその事実を照らし出しています。電磁波自身は熱を持っていません。それが地球に到達し、何らかの物体に触れた時に初めて「熱」として変換されます。
輻射、あるいは放射と呼ばれるこの作用。焚き火がホカホカと熱いのも、炎から放出された電磁波が体の表面にぶつかり熱を生じるからです。我々の体を含めておよそすべての物体は、電磁波を発して熱を放射しているとされます。
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まっすぐな視線を受けた彼女の胸はにわかに熱くなった。それはまさに愛の電磁波。近づく瞳と瞳。差し出された一回り大きな手を握り締めることに、もはや何のためらいもなかった。指先から伝わる温もりがじわりと流れ込み、彼女の心の隙間を満たしてゆく。
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触れ合う手と手。絡み合う指と指。抱き合う体と……っっ。
このように直に触れ合ったもの同士で熱のやり取りをするのが、②の伝導となります。
①の輻射とは異なり直接熱のエネルギーを受け渡しする仕組みです。
優れた保温効果を持つ魔法瓶は①の輻射、②の伝導、この2つによる熱の移動を遮ることで内容物の温度をキープしています。
具体的には容器の壁を二重構造にして、その中を真空にしています。内容物と外の空気の間に真空の層を作り出して、②の伝導で熱が外に逃げるのを遮っています。
一方で、魔法瓶の内容物は熱を放射しています。放射は電磁波なので真空の壁に関係なく外へと通り抜けてしまいます。そこで真空の壁に電磁波を跳ね返すアルミニウムや銅の壁をプラスしています。①の輻射熱はこの「もう一つの壁」によって魔法瓶の外に出るのを妨げられます。
結果として魔法瓶の中から外へ熱が逃げなくなりホカホカ・アツアツの状態が保たれるのです。とはいえアルミや銅、そして鏡は100%電磁波を跳ね返す訳ではありません。少しずつ電磁波が外へ漏れ出し、徐々に温度がさがってしまいます。
さて……ここでやっとアルミが登場しましたね。
アルミホイルの原材料であるアルミニウムは電磁波をよく反射します。つまり、輻射による熱の移動を防ぎます。ホイルに電子レンジを使ったら……バチバチ火花が散って危険なことになりますね。これは、電子レンジの電磁波がアルミホイルで乱反射し、局所的に猛烈な高温・高エネルギーが発生することによるものです。
一方で、アルミニウムは熱をよく伝導します。最近、はやっている「くっつかないフライパン用アルミホイル」はこの高い伝導性を利用しています。アルミホイルにシリコン樹脂を塗布して焦げ付かないようにしたキラリと光るスグレモノです。
先述した実験では、焼成途中のパンにアルミホイルを被せました。
さて、その狙いは……長くなったので次回に続きます。




