101.パン作り、それも「釜伸び」の話をするはずが、なぜか80度バナナを食べました。
2次発酵を終えた生地したオーブンに入れて、いざ焼き上げっ! 庫内の生地を眺めていると、5分から10分後にかけて急速に生地が大きく膨らみます。これは、オーブン(釜)に入れてからググっと大きくなるので「釜伸び」と呼ばれています。
釜伸び。英語ではoven spring、オーブンスプリングと呼ぶそうです。スプリングは弾ける、飛び出すという意味から派生して、裂けるという意味も持つそうです。英検3級の当方は「oven spring」が持つ語感については想像するしかないのですが、釜伸びした時、確かに生地が裂けることが多いので、さもありなんといった感じです。
さて、デンプンの糊化とグルテンの固形化。ともに60~80度で起きる反応です。その上限である80度が次のキーポイントになります。
80度。う~ん、この温度に関するお話はちょっと思いつかないです。沸騰直前といえば90度、直角にも10度足りない。いや、これは角度ですね。
とおもって何の気なしに調べましたら、「80度バナナ」なるスイーツがあるじゃないですか。バナナをじっくり80度程度まで加熱調理すると甘みがぐっと増すそうです。一方で焼き過ぎてしまうとカラダに有用な成分が失われてしまうとのこと。バナナって、一昔前に健康ブームがあったような……。その流れなのでしょうか。
で、早速作ってみました。
スマヌ、コドモタチヨ!
おやつ? 食後のデザート? 取り置かれていた一本のバナナ。冷蔵庫の中段、野菜室の引き出しから、幼き笑顔を生み出すであろう細長い黄色いその身をむんずと掴み出した。ぺティナイフで10センチほど切り分ける。
コレクライナラ、イイヨネ!
声には出さず、小さな寝息たちに侘びを入れる。
ぶすり。突き刺されたのは温度計。液晶デジタルが14.4度でピタリと止まる。
じっくり、加熱した方がいいのよ。そう、じっくりと、ね。
誰とは知らぬが悩ましげな耳元でのささやきに従って、レンジの設定を最弱200Wに設定する。時間は分からないが、とにかく1分30秒としておこう。
ぐるぐる回る。10センチのバナナが回る。それは頭、いや、尻なのか。バナナどっちが頭なの。知りたくもあり知りたくもなし。思考も回りまわって90秒。取り出して、またぶすり。60.7度。まだ足りぬ。熱を、もっと俺に熱をくれ!
さらに30秒。レンジから這い出たバナナ。皮は、かなり茶色く変わっていた。すかさず、ぶすり。
80.8度。パーフェクト!
では、いただこう。いや、いけぬ。熱い。熱すぎる。80度は手で持てない温度なのかっ! その身は柔らかさを増し、こともあろうに摘んだ人差し指にしなだれかかる。これが柔肌の熱さなのかっ! ああっ……
……かなり取り乱してしまいました。80度、とても熱いです。確実に火傷する温度です。頑張ってフーフーして、ちょっと冷めたのでパクリ。確かに甘い。ですが、熱くて甘さを感じる余裕がない! ということで冷ましてから再度、食べてみましたが、う~ん……確実に甘さは増しているのですが、好みの問題でしょうね。元の甘さの方が当方は好きです。きっぱり。
加熱によるこの甘さがカラダによいのかどうかはさておき、バナナが甘くなる理由についてです。バナナが甘くなるということは、甘く感じる物質が多くなったことを指しています。バナナの成分の約2割はデンプンです。このデンプン、バナナが加熱されることによってアミラーゼ(パン作りでもおなじみの消化酵素ですね)が活性化され、どんどん「糖」に分解されてゆくのです。バナナの実の中に砂糖が増えていくイメージですね。
また、バナナの実を骨のように支えているペクチンという物質が、加熱によって分解・溶解してしまいます。ペクチンによって保持されていた糖が果実の中に放出されて、甘さが増しているのではないかと考えます。これに関しては調べ切れませんでしたので、憶測の域は出ませんが。
パン作り、それも「釜伸び」の話をするはずが、伸び伸びとなってしまいました。いつも通りといえばそこまでですが……すみません。80度、深々と頭を下げます。