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83.自慢げに語るミーアの横顔に故郷をふと思い出し、遠き目となったアシスがそこにいた。


「アシス様が行った国のお話を聞かせて?」


 並んで歩きながらミーアが目をきらきらさせて、せがんできた。村内の光景は日用品や食料品を扱う数軒のいずれも間口の狭い商店をのぞくと、ほとんどが村人たちの住宅で占められていた。気さくな笑顔で軽く会釈をする住民たちの背後の建物はどれも平屋で質素なものばかりであったが、道端の雑草は刈り取られ、壁や屋根の隅々まで手入れが行き届いており、日の光を受けた集落の空気は瑞々しさと清らかさに満ちていた。


 世界の各地で出会った人々や邪炎との戦いについて語ると、ミーアの相槌あいづちが急速に興奮の度合いを増してゆく。少ないながらも旅人や商人は村を訪れるであろうに、こんな話を聞く機会は今までなかったという。恐らく兄・モムルの過保護すぎる配慮が、ミーアの箱入り娘状態を助長したのだろう。


「はあ、私もアシス様と一緒に旅したいな……」


 色気などまったく含まれていない少女の吐息が、純粋な興味以上の色合いを帯び始めていることに、アシスは気づかないようにした。


「ふふっ」


 背中のロッドは小刻みにその身を震わせ笑っていた。



 二人と一本は村の外に出た。昨夕は暗がりだったので一面の草原だとばかり思っていたのだが、目の前には広大な農地が広がっていた。


 秋だというのにいまだ盛りを誇るような太陽が照り付ける大地には、碧濃き葉が延々と揺れていた。その碧の海原の所々に、白く泡立つような塊が見え隠れする。あれは、もしかして……


「あら、アシス様はご存知ありませんか?」


 すすっと一歩前に出たミーアは、すぐさまくるりとアシスに向き直った。青髪がふわりと空気をはらみ、心地よい香りが胸をくすぐった。


 ミーアは学校の先生のように右手の人差し指を立てながら続ける。


「ご想像通りここは綿花の農場です。イラードは綿の三大名産地でもあるんですよ」


 むむむ。ちまたにいう「世界三大」モノの綿花バージョンか。三大絶景ならばキアのミヤ島、シュウオウのマツ島と来て……なんだっけ? 珍味ならキノコのリュフト、超サメの卵のビキャア、で最後はえっと……?

 なぜか三つ目が思い出せないの法則が発動するのだが、「イラードの綿」もこの例に漏れてはいない。この世における綿の三大産地といえばサカオウのセンシュー、オカシズのエンシューが有名なのだが……ミーア先生の熱き説明によると残るひとつが、イラードとのことだった。


「あと2カ月もすれば、見渡す限り真っ白になるんですよ」


 自慢げに語るミーアの横顔に自らの故郷のことをふと思い出し、遠き目となったアシスがそこにいた。そして、その故郷の光景を破壊せんとする邪炎たちの侵略を、何としてでも食いとめねばならぬと心に決めたアシスであった。



 新月を翌日に控えたその日の深夜、村長の館に急ぎ駆けつける若き兵士の姿があった。防壁から望む漆黒の地平線に浮かびあがる赤黒く禍々しい炎の異形の群れ。


 邪炎が本格的に村へと攻め寄せてきたのだった。




パン大好きです。


お読みいただきありがとうございます。

本当に、本当に嬉しく思います。


アシスたちのお話も、そろそろっと動き出します。


それなのに恐縮なのですが…次回投稿は4、5日後となる予定です。

何卒ご了承くださいませ。


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