表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/143

77.邪炎の禍々しい触手が少女に襲い掛かろうとしている。倒したはずの邪炎が……


 少女の全身を覆うのは澄み切った赤い光。

 その光は瞬く間に収束し、凝縮され、宵闇の迫る草原を荘厳に照らし出す深紅のレーザー光線と化した。

 くれないの閃光ほとばしる魔法の一撃が、少女の手から邪炎に向けて放たれた。

 かなり威力はありそうだが……ああ、スピードが致命的に足りない。


 邪炎はこともなげに回避し、再び触手を蠢かせ少女に迫り寄る。

 少女は迎え撃つように、右手をぐっと突き出した。

 邪炎は先ほどの一撃を警戒しているのだろうか、一定の距離を保って近づかない。


 結局、少女の手から魔法は放たれなかった。

 だが、俺が接近するまでの時間を稼ぐには十分な牽制となった。


「おいっ!」


 怒りに満ちた声で、邪炎に呼びかける。

 紅黒く渦巻き、立ち上る炎の姿。

 ヤツラに眼や鼻があるのかどうかすら定かではないが、何となく振り返ったような気がする。

 見るからにおぞましき魔の異形がこちらをにらむ。いや、きっと睨んでいるのだろう。

 突如として腹の底から沸き起こる嫌悪感。条件反射的に全身に鳥肌が立つ。


「うえっ……何度見ても慣れねえな、お前らはっ!」


 悪態をつきながらも、瞬時にロッドに魔力を込める。

 再びロッドからまばゆい水色の光が解き放たれる。


 キシャアアアアアァァァァァァッッッッ


 聖なる光を浴びた邪炎は悪魔そのままの咆哮を辺りに響かせる。

 紅蓮の炎は一段とどす黒さを増し、周囲の草を焼き尽くす。


 ロッドにさらなる魔力を流し込むと、邪炎が身をよじるかのように歪んだ。


 そのスキを見逃す俺ではない。


 一気に踏み込み間合いを詰め、邪炎にロッドを叩きつける。

 およそ音と表現できないような、おぞましい断末魔をあげて邪炎が霧散した。


「よしっ!」


 魔法を放出するのではなく、ロッドに魔力を纏わせての打撃。消費した魔力は、どうやら最低限で済んだようだ。


 かくいう俺は呪われた身。

 それは遠い昔。

 人の世の頂点に君臨した強大な魔力を頼みに、俺はこの世のカミにあだなした。

 しかし、蟻が巨象を倒すのはおとぎ話の世界だけだったようだ。

 無謀なる挑戦は、もはや戦いにすらならず一方的な蹂躙劇に終わった。


 創造神の逆鱗に触れ、我が存在すら掻き消されてもおかしくなかったはずが、カミの気まぐれか。

 死を回避する代償として、この身に罰を背負わされた。

 

 俺は魔力を使うと、同時に「呪い」が発動してしまう。


 その呪いとは……


「キャアッ!」


 突然、目の前の少女が叫んだ。

 邪炎の禍々しい触手が少女に襲い掛かろうとしている。邪炎は倒したはず……いや違う。

 さきほど散ったヤツとは別の魔物のようだ。

 油断していたといえばそれまでだが、俺は気づけなかった。


 邪炎は身体を二つに割った。裂け目の底には深淵なる闇が渦巻く。

 大口を開けて捕食するかのように、少女を其の身の中に捕らえ込もうとしていた。


 このままでは間に合わない。

 ためらわず、膨大な魔力をロッドに込める。


「邪なる炎を破せん! ウォーター・アロー!!」


 ロッドから透き通った水色の光の矢が迸る。

 それは空間に咲く、清き水流の華。


 直撃を受けた邪炎は最期の声をあげることすらかなわず、砕け散った。


 どうやら、今回襲撃して来た邪炎は2体だけだったようだ。

 しばしの静寂が訪れる。

 少女は呆然と立ち尽くしている。

 すでに宵闇に包まれつつある村はずれの草原に、生ぬるい風が吹いた。

 少女の水色の髪が、高潮した頬にそっと掛かる。


 その静寂を破ったのは、甲高く、冷たいロッドの声だった。


「ああ、アシス。クワードの姫との思い出が失われたようだぜ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ