表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/143

76.紅色と青色が織り成すミステリアスな光のヴェールに、女の驚く顔が浮かんでいる。


 まだかなり距離はあるが、やるしかない。


 走りながら俺は目をつむり集中する。

 意識を全身にくま無くゆきわたらせ、身体に宿る魔力を凝縮する。


 胸と腹のあいだ、ちょうど鳩尾みぞおちの奥にギュッと血液を集めるような感覚。

 身体からだと心の根幹に、愛情と憎しみと快楽とが原色で入り混じったような、動物的な衝動が渦巻く。

 意識をしっかり保たないと理性が魔力に飲み込まれ、衝動のままに暴走してしまいそうになる。


 俺は、かき集めた魔力を右手に凝縮させた。

 魔力は手からあふれ出し、一段と透き通ったまばゆい光を発している。

 周囲の草木が、聖性を帯びた青白い光に照らされ、幻想的な光景が現出する。


 ロッドに一気に魔力を流し込もうとした時だった。


「本当にいいのか、アシス?」


 緊急時だというのに、その声は妙に落ち着いていた。


「あんな小娘のために魔力を使っちまっても……」


 ロッドはさらに低い声で念を押してくる。

 そういわれても、もう時間がない。

 邪炎は徐々に距離を詰め、いまにも女を飲み込もうとしている。

 このまま走っていては、絶対に間に合わない。

 目の前で人が傷つけられるのは……もうごめんだから……


「仕方ねえだろっ! 助けられる命を無視できないぜ!」


「オトコだね、アシスってば!」


 おいおい、女だから助けるって訳じゃねえぞ、まったく。

 俺は全力で地面を蹴り付けながら、右手の杖を前方に突き出した。

 そして、俺の相棒であるロッドに魔力を流し込んだ。


 ロッドの身体は瞬時に輝き、一段とまばゆい青色の輝きを放出する。


「行けえぇっ!」


 女を追い回している邪炎に狙いを定める。

 遠くに槍を投げつけるような動作で、ロッドを思い切り振り抜いた。


 ロッドに満たされた魔法は青白き光の矢と化し飛び出した。

 草原を照らし出しながら、猛然と一直線に邪炎へと向かう。


 赤黒く燃え盛る紅蓮の触手が女の身体に触れんとする、まさにその直前。

 聖なる魔力の矢が、邪炎を背後から撃ちぬいた。


 キッシャアァァァァ


 断末魔の咆哮。

 聞く者の心の内側がギリギリと掻き毟られるような悪寒が走る。

 邪炎は強い衝撃を受けたガラスのように粉々にくだけ散った。


 霧散する邪炎が放つ炎と魔法の残光。

 紅色と青色が織り成すミステリアスな光のヴェールに、女の驚く顔が浮かんでいる。


 女・・・・・・いや、まだ少女だろうか。

 青色の長いお下げが両肩に揺れている。


 少女まではあと50メートルといったところか。

 ようやく俺たちの存在に気がついたようだが、危機は依然として去ってはいなかった。


 邪炎があと一体残っているからだ。


 もう一発、水魔法をぶっ放せばいいのだが……

 そう簡単に魔法を使うことのできないワケが俺にはあった。

 

 全速力で少女へと駆け寄る。

 あと数秒もってくれ。そうすれば、魔物に直接一撃を加えられる距離になるだろう。


 しかし、その数秒が致命的な距離でもあった。

 間に合わない、か……俺がギリリと歯軋りをした時だった。


 突然、少女の体から赤い光が放出される。

 邪炎のヤツラが発する光とは根本的に異なる、澄み切った清浄なる赤き光。


「おお、あれは炎の魔法!」


 ロッドが驚きを込めて叫んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ