外伝2:勇者グレイ一行
グレイとレナの前に、妖しい城が立ちはだかる。
こうして念願のギーギック城に到着したのだが、初めて見る魔城の恐ろしさにレナはごくりと唾を飲んだ。
「これがギーギック城……。とうとう来ちゃったわけね……」
「魔王の奴、ちゃんと帰って来てるだろうなぁ? 居なかったら、俺様が怖くなって逃げ出したってことにするからな!!」
グレイはそう啖呵を切ると、人差し指をびしっと魔城に向けた。それを見たレナが、慌てて小声で注意した。
「しーーっ! あんたねえ、どこからか魔物が襲いかかってくるかもしれないのに、大きな声出さないでよ!」
「あーん? そんなの、俺がちょちょいと倒してやらぁ!」
グレイが剣でさっさっと斬りつける真似をするのを見て、レナはぴしゃりと言った。
「それは『勇者の剣』を取り戻してから言ってよね!」
それからレナはギーギック城を仰ぎ見ると、心配そうに呟いた。
「勇者ライル一行がもうこの城に到着しているといいんだけど……。グレイ、今から私たちがギーギック城に入るのは、ライル一行がいるかを確認するためなのよね? もし彼らがまだここに来ていないことが分かったら、ひとまずここから引き揚げるわよね?」
「まあ、そうだな。『勇者の剣』がなけりゃ、悔しいけど魔王と勝負にならねえしな」
グレイの言葉を聞いて安心したのか、レナはホッと溜息をつく。
その時、グレイが思い出したようにポンと手を叩いた。
「……そういや、おまえに言っとかなきゃいけねえことがあったな。そのグローブのことだけど」
「グローブ? ……ああ、これ?」
レナの左手にはめられているグローブのことだ。ラグゼルの町を出た頃にグレイから渡された物だったが、結局どういうアイテムかレナはまだ知らない。グレイは『秘密兵器』とか言っていたが。
「魔王の決戦で最後の切り札になるとか言ってたけど……一体なんなの?」
「よーし、今から俺の言うことをよく聞けよ?」
よく聞いてくれましたと言わんばかりの顔で、グレイは話し始める。
「そのグローブがグレイプニルで出来てるってのは言ったよな。グレイプニルってのは細い紐のようなもんで、このグローブは全部それで編まれてる。端から糸のようなのが出てるだろ、これを引っ張ると──」
グレイはレナの左手を手に取り、グローブの手の甲側に出ていたタグを引っ張った。すると、糸がするすると解けていき、その分だけレナの手が顕わになっていく。目を凝らさないと見えないほどに細い糸だが、いかにも丈夫そうにきらりと光っている。グレイがタグを放すと、引っ張られるようにして再び元の形へと戻った。
「何これ、すごい……」
「この紐で縛り付けられた魔物は、どんなに強い魔物でさえ、これを断ち切ることはできない。グレイプニルは魔法の鎖とも言われ、強靭にできているからな。おまえには、これを使って重要な役割を果たしてほしいんだ」
「つまり……これで魔王の行動を封じろ、ってことね」
グレイは頷くと、ニヤリと笑う。
「そうだ。魔王の奴は瞬間移動魔法を使うからな。肝心なところで逃げられないように、ってわけだ」
「でも、私に使いこなせるかしら? 魔王だって動くでしょ。簡単には捕まってくれないんじゃ……」
「大丈夫だよ。タグを引っ張りながら、捕まえたい相手に向かって投げればいいだけなんだからな。あとはグレイプニルが勝手に相手の体に巻きついてくれるさ」
「へえ……これって実は、すごいアイテムだったのね」
レナが感心したようにグレイプニルのグローブを眺めている横で、グレイが腰の剣の位置を調整し始めた。
「……よし。レナ、準備はいいな?」
いよいよ最終決戦の場へ入るのだ。緊張感が一気に押し寄せてきたが、レナは口を引き締めて答えた。
「う、うん!」
「ギーギック城の攻略開始だ!」
そうして、たった二人だけのパーティーは門をくぐっていった……。




