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短編集  作者: 吉岡 ウカリ
2/2

「俺が嫌いな、わらしべ長者の話」

俺は「わらしべ長者」という話が嫌いだ。


ある貧乏人が藁を物々交換していき

最終的には屋敷を手に入れる。


誰もが一度は耳にした事があるであろう

有名なお伽噺だ。


だが、現実はそんな甘くはない。

高校生になり多少は

現実の厳しさを知ったつもりだ。

知りたくもないのに思い知らされた。


この世の中は


知らない方が良い事が多いのかも知れない。

知らない方が幸せって事が多いのかも知れない。


ん?そんな事ないって?


いやいや最低限、知らない方が良い事は絶対に存在する。



では、問題です。

「幸せ」とは、なんでしょう?

その定義を求めなさい。



生まれてから約18年

未だに自分なりにも答えは出ない。

答えを知りたいとも思わない。


例えばの話

「これが幸せです。」という定義があって

それを知ってしまうとする。


じゃ、その定義に当てはまらない人は

全て不幸という事になる。


もしも

「私は幸せなんです。」

と思っている人が

その定義に当てはまらなかったら?


その人は、きっと

「知らない方が幸せだった。」

と思うだろう。



ほら、世の中には知らない方が良い事はある。



おっと話が脱線した。

軌道修正。



俺はクリスマスになると

小学生低学年の時に体験した

「わらしべ長者」を思い出す。


できれば思い出したくもない話。


思い出す度に知らない方が良かったと思う。




では、知らない方が良い事なのであれば。

「知りたくはない」

と思う人であれば、

先を読まずに

どうか忘れて欲しい。


興味のある人のみ読み進めて頂きたい。



では、昔話を始めよう。



昔話といっても

遡る事、約10年前。


若々しさ溢れるフレッシュな昔話。


少々、文章が小学生の作文調になるのは、ご愛嬌。


俺の父親はアル中でDV野郎。

母親は居ない。


なぜ友達には母親がいて

自分には母親がいないのだろう?

と疑問に思った事もあったが

父親は母親の話をすると機嫌がすこぶる悪くなるので

怖くて聞けなかった。


小学生低学年の

あるクリスマスの日、

俺は公園に居た。

なぜかって?


それは父親がパチンコに行っている間

公園での「待機命令」が出されたからだ。


時刻は昼間。

とはいえ冬だ。手足が悴む。


運動して温まろうにも

腹が減ってるから動く気にもならない。


では馬鹿正直に公園で待たずに

家に帰れば良かったのだが

父親の命令に背けば殴られるので、

それはできなかった。


何をして時間を過ごそうか?


公園のベンチで1人震えながら思案していると

若い男が公園を通り過ぎ、コインを落とす。


俺は慌ててコインを拾い上げ男性に持っていったが

「お前にやる」と言われた。


人に物を貰う機会が極端に少なかった俺は

踊る程、嬉しかった。


いや、その頃の俺は本当に

公園で舞い踊っていたのかもしれない。

それくらい嬉しかったんだと思う。


このコインは金色にキラキラと

キレイに輝いているんだから

きっと高価な物が買えるだろう!と思い

何を買おうか妄想を膨らました。


きっと父親に見せたら

物凄く喜んで褒めてくれるだろう!


そう思うと

いてもたってもいられず

パチンコ店に入り父親へ見せにいった。


不機嫌な父親は何かを呟き

俺からコインを奪うと

自分の目の前にある機械に入れた。


その時の俺は、

悲しかったのか、悔しかったのか、それとも腹が立ったのか、

はっきりと覚えてはいないのだが

きっと、もの凄い顔をしていたんだと思う。


何せ、あの優しくない父親が

コーラを買って寄越してきたのだから。

父親はそれを持って、

さっさと公園に戻るように俺に言った。


俺は父親に貰ったコーラを持って公園へと戻り

寒空の下、コーラを飲んだ。


外気温で身体が冷えている上に体内からも

コーラで冷やされてきて歯をガチガチと鳴らし震えた。

せめて温かい飲み物だったらなあと思い遠くを見つめると


公園の端っこで

自分より少し幼い女の子が泣いているのを見つけた。


話しかけてみると母親と、

はぐれてしまったんだとか。

自分の持っていたコーラをその子と半分っこして

空になった空き缶を蹴って遊んだ。


そうこうしていると

女の子の母親が走ってきた。


ママ友と世間話をしていて少し目を離したら娘がいなくなってた。

とかなんとか、そんな感じだったと思う。


ああ、俺にも母親がいたらこんな感じなんだろうなと

母親と手を繋いで帰る女の子を羨ましげに見送った。


女の子の母親には、お礼にと小さなお菓子を貰った。


魔女の恰好した女の子の絵が書かれたスナック菓子だ。

裏にはネズミ色の袋に入ったカードが付いてる。


お腹を減らしていた俺は

すぐにスナック菓子を平らげてしまい

スナック菓子の後ろに付いているカード袋を開けた。


中に入っていたカードは

魔女らしい衣装の女の子がVサインをした絵だった。

表面がキラキラして綺麗だったが

カッコイイ戦隊ものじゃないとガッカリした。


捨ててしまおうかと悩んでいると

リュックサックを背負って紙袋を沢山持った

太った男が話しかけてきた。


俺の持っているカードが、どうしても欲しい様だ。

とにかくグフグフと鼻息が荒く、うっとおしかったので

カードをあげて、どっかに行って貰う事にした。


リュックの男は何やら意味不明な事を叫びながら喜び

お礼に何かあげると手持ちの紙袋を広げてきた。


男の持っている紙袋の中には

ヒラヒラのミニスカートを履いた女の子の人形とか

ポスターとか色んな物が入っていた。


別にこれといって欲しい物はなかったが

赤いモコモコの布が目に止まる。


父親が戻って来るまでに

多少、寒さを凌げるのではないかと思い

俺はその赤い布の入った袋を指定した。


リュックの男は

「家に帰ってモエコたんに着せようと思ってたのになぁ・・・。」

とかブツブツ言いながら

赤い布の入った袋を置いて立ち去った。


赤い布の入った袋を開けると

中にはサンタクロースの衣装が入っていた。


でも、なんでスカートなんだろう?


俺は首を傾げながら極端に少ない赤い布地で

どうすれば寒さを凌げるかと思考錯誤を繰り返していた。


すると若いお姉さんが

「あー!」と歩みよってきた。


お姉さんは俺の持っている赤いサンタの衣装が欲しい様で

どうしても今晩、必要だと言う。


これでは寒さは凌げないと悟った俺は

サンタの衣装をお姉さんにあげる事にした。


その時、俺の腹がグーと鳴り

お姉さんは「少し待ってて」と言い、居なくなった。


暫くして、お姉さんはコンビニ弁当を持って戻ってきた。

お姉さんは、サンタの衣装のお礼と言って弁当を俺に手渡して去っていった。


弁当は嬉しい事にホッカホカの弁当だ。

しかも滅多に食べれないハンバーグ弁当。


一口食べただけで心も体も満たされた気分だった。


匂いにつられてきたのか

髪も顔も服もグチャグチャに汚いおじさんが

段ボールの小屋から出てきた。


おじさんは

「ここだけの話、俺はサンタクロースなんだ。

欲しい物をあげるから、その弁当を渡しなさい。」

と手の平をこちらに向けてきた。


俺は、おじさんの言う事を真に受けて心底驚いた。


本物のサンタクロースは本当は赤くないんだ!

そして本物のサンタクロースは、こんなに臭いんだ!と。


もしかしたらトナカイの鼻が赤いのは

サンタのおじさんの体臭が酷いから

鼻をつまみ過ぎてしまったせいじゃないだろうか、とも思った。


サンタさんに欲しい物をお願いできるなら!と俺は喜んで

一口しか食べてないハンバーグ弁当を差し出した。


臭いサンタは

弁当をあっという間に胃袋にかきこんで

「ゲフッ、あとは熱燗があれば最高だな。」とか呟いた。


俺は欲しい物を目の前の、くっさいサンタに伝えた。

だが具体的な、これが欲しい!といった現物支給系ではなく、


自分には母親がいないから母親が欲しいとか、

父親がしょっちゅう殴ってくるから止めて欲しいとか、

今日遊んだ女の子みたく、いつでも遊べる兄妹が欲しいとか、

なんか抽象的な身の上話をした様に思う。


その話を聞いていた目の前の、腐った臭いのサンタは

「オジサンも辛いことばっかりだったけど、坊やも辛かったね。」と

大声で泣き始めた。


願い事を叶えてくれると思っていた腐サンタに

俺は目の前で号泣され心底困惑した。


公園の入口の方から父親が近づいてくるのが見えた。

俺は父親に早く本物のサンタを見せたくて

手を振りながら大声で父親を呼んだ。



すると目の前の腐サンタさんが

「あれが噂の暴力クソ親父か!」

と立ち上がり


段ボールの小屋から一升瓶を持って

父親に殴りかかった。


一升瓶は父親の左肩に命中。


驚いた父親は負けじと

サンタに殴りかかった。


二人はもみくちゃになった後

父親が俺の目の前に転がってきた。


そこにトドメを刺そうと

サンタが一升瓶を振りかぶる。


咄嗟に俺を庇おうと父親が覆いかぶさってきた。


ゴツッと鈍い音がして

ぬるっと赤い液体が頬についた。


目の前に頭から血を流している父親がいる。


俺は血だらけの父親に抱きしめられながら

頭の中が真っ白になる。



唖然としている俺を突き飛ばした父親が

「逃げろ!」

と叫ぶ。


でも足が動こうとしない。



フラフラと息の荒いサンタが

父親の後ろから迫ってきているのが見える。



そうか。

サンタの服が赤いのは血のせいなのか

混乱した俺は見当違いな事を思いながら気を失った。





以上が俺の体感した「わらしべ長者」である。



クリスマスになると思い出す

俺の昔話。


世の中、知らない方が良い事の方が多い。


あながち間違いではないだろう。





実の母親は俺を生んだ時に死んだそうだ。



あんなに心ときめかしていた金色のコインは

パチンコ店スロット用のメダルだった。



スナック菓子についていたカードは

実はかなり貴重なもので

今ではプレミアもついて10数万円するらしい。



オタクの男性がなぜ

女性用のサンタの衣装を持っていたのか?

1人寂しいクリスマスに

自宅に居るダッチワイフにでも着せる為だったのだろう。



お姉さんはそのサンタの服を着て

クリスマスパーティーへ

出会いを求めに行った。



サンタと名乗った男は公園に住む

ホームレスだった。



わらしべ長者の話では反物は馬に変わったが、

俺の場合サンタの衣装が弁当に変わった。


今、冷静に考えるとランクダウンしてるじゃん、

と思う。


現実は、お伽噺とは違うから仕方ない。


しかも臭っいホームレスの自称サンタが

俺を不憫に思って

父親に殴りかかってくれたんだと思っていたけど


実際の所、寒い冬を越すのに疲れを感じ

捕まって刑務所暮らしを目論んでいたから、

らしい。




え?



こんなバットエンドな話も知らない方が良かったって?



まぁ、”そこは”そうでもない。



高校生になった今ではそう思う。



「お兄ちゃん!早く帰ろうよ。結衣はもうお腹ぺこぺこだよ。」

「ちょ、急に引っ張んなって。クリスマスケーキが崩れたらどうすんだよ。」

目の前にいる高2の妹が俺の空いた右手を引っ張る。


挿絵(By みてみん)


実は小学生の頃に起こった事件の後、

親父は一命を取り留めた。


そして


その1年後、再婚。


父親の再婚相手には連れ子がいた。

それが目の前の結衣だ。


現在、俺が高校3年で結衣が高校2年。

1つ歳が離れている。


父親は、あの事件をきっかけに

アル中も暴力行為も無くなった


訳ではない。


再婚後も大して変わらず。


時には俺だけではなく母親や結衣にまで暴力を振るう事もあった。


俺が中学2年の頃には

息子に本気を出されると負ける、

と感じたのか

少し暴力の頻度はマシには、なっていた。


「バカは死ななきゃ直らない」

とは、よくいったもので

一度死にかけたのなら直っても、良さそうなもんなのだが


ドラマやお伽噺と違って現実は、

そう甘くなかったようだ。


3年前のクリスマスに父親は他界した。


小学生の頃の事件は全く関係ない。


父親は死ぬ前々日あたりから家に帰って来ず。


2、3日音信不通になるのは日常茶飯事だったし

どうせ、アイツのことだ。またどっかで呑み潰れているんだろう。

俺も母親、結衣もそう思っていた。


だが実際は寝ずに、ぶっ通しで派遣バイトをしていた様だ。


父親の同僚の話によると

「家族でクリスマスパーティーをする為だ。」

とか言っていたそうだ。


それなら日ごろから仕事をして

金を稼いでりゃいいものを。


そろそろクリスマスだ!金がねえ!働くしかねえ!

ってな感じだったんだろう。


本当に計画性の無い野郎だ。


アル中のクセに急に根詰めて働くから死んじまうんだろ。


金が欲しいなら犯罪に走りそうな男だったのに

なぜ、真面目に働く気になったのか?


こればかりは本人に聞いてみないと分からない。

だが、死人に口なし。

今となっては分からずじまいだ。



クリスマスになると

血だらけになった父親に抱きしめられた時のぬくもりを思い出す。


累計1000発以上殴られてきただろう痛みより、

たった一度だけ抱きしめられた

ぬくもりの方が鮮明に覚えているのはなぜだろうか。


最後の最後まで悪い父親でいてくれた方が

楽だったんじゃないかと思う。


これでは

「やっと死んでくれたぜ!」

って手放しで喜べやしない。


事実を知らない方が良かったんじゃないかとも思う。


今は義理の母親が面倒をみてくれている。


俺とは血が繋がっていないのに父親が他界してからも、

わが子の様に接してくれていて

本当に感謝している。


高校卒業後はもちろん働く予定。


今もバイト代を食費にあてているが足りていない。

社会人になれば、もっと母親と結衣を楽にしてあげれるかと思うので

早く働きたくて、うずうずしている。


今日は家族でクリスマスパーティをする為に

結衣と買い出しに来ている帰りである。


普通なら父親の命日にパーティなんて不謹慎だ!

となりそうなもんだけど

当の本人がそう願った事だから、

去年から父親の命日はクリスマスパーティーをして

供養する事にしている。


「もう早く!クリスマスケーキ溶けちゃうよ!」

「こんなに寒いんだから溶けるかってーの。」

「今日はお母さんがサンタのミニスカ着ちゃおうかって言ってたよー。」

「うげっ!いい歳こいて何言ってんだか。」

「お父さんもお母さんがミニスカサンタ着てたら喜ぶかもしれないじゃない?

それより結衣が着た方がいいかな?」

「ゆ、結衣が?」

「あー!今、変な事考えてたでしょー?お兄ちゃんのエッチ。

今日は、お母さん居るんだからダメだよ。」

「ば、ばか!さっさと帰るぞ。」


妹の挑発にドギマギしながら

今後の事を思う。



俺と結衣自身「血が繋がっていない」という事実を

知らなかった方が男と女の関係でなくなり、

兄妹の関係で終わって良かったんじゃないかなとも思う。



どちらが幸せか?



それは、これからのお話。

今回のテーマは

「わらしべ長者」

使い古されたテーマですが


なんとなく

少しダークな話を書きたいなぁ~

と思って作った

ありきたりな作品ですね。

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