第一話 最先端魔法使い
小説家志望現フリーターの練習目的連載です。一応毎日更新目標です。つたない文章ですが、読んでいただければ作者が喜びます。
※毎日更新は無理でした。しばらく不定期更新になります。
第一話 最先端魔法使い
西暦三世紀頃、のちにライデン・パピルスと呼ばれる写本を書いている少年がいた。
少年は写本を書きあげると、一息つくために立ち上がった。ふとめまいがして、気が付くと目の前の景色が一変していた。突然のことに動揺し、あたりを見渡す。
周りは森のようだが、幸い奥深くではないようだ。遠くのほうで音がする。しかし、音は少年がいままで聞いたこともないような音で、少しも安心できなかった。とりあえず、じっとしていても獣に襲われるだけだと判断した少年は、森から脱出するために歩き出した。
「……以上、現場からでした」
登校前に朝食とともに流し見たニュースは、私の視線を釘付けにした。それはもう、口に入れたサンドイッチを噛むのを忘れるくらい。
「急がないと、また遅刻するわよ」
「ふぁ、ふぁーい」
お母さんの声で正気に戻った私は、牛乳で朝食を流し込むと、カバンをひっかけて玄関を飛び出した。そういうところが、女の子らしくないって小言が聞こえた気がしたけど、気にしない。
私は、カレン・エリフィアント・モアーゼ。名前の意味は、海のように蒼く美しく。だけど友達は縮めてカリンって呼ぶ。カリンは活発って意味もあるのだけど、そのほうが私に合っているとおもう。正直本名であっているのは髪の色くらい。お父さん譲りのこの髪が大好き。それで朝のニュースの内容だけど……。
「見た?」
「見たけど、あんたまさか……」
学校に着いてすぐに親友のミカにニュースの話をした。
「学校の近くの森で未登録者発見でしょ、ただのホームレスよ」
「違うよ! きっときっと古代人だって。時空低気圧が観測されてたし、現代の人で未登録はあり得ないって」
「で? 行くわけ?」
「もちろん!」
朝のニュースは、森の中で局地的な時空低気圧が観測されて、一応調査に向かった隊員の人が、未登録者を発見したって話。時空低気圧っていうのは、二二世紀にタイムマシンが完成して以降観測されるようになった時空のゆがみのこと。
高気圧は、今より未来から、低気圧は今よりも過去からタイムワープしてきたものがあるという事。
未登録者っていうのは、今や登録率一〇〇パーセントの地球人口登録制度のこと。昔はちょくちょく未登録者っていうのは話題になったのだけど、未登録者には刑罰が付くようになってから徐々に減少。数年前に世界政府から、公式に登録率一〇〇パーセントが発表された。
「だから絶対古代人だって!」
「はいはい! でも危ないことはしないでね。あんたのお母さんに怒られるのはわたしなの」
「はーい」
そして、私が大興奮しているわけは、その古代人に興味津々なのだ。
私が通う私立学園は小中高一貫の共学校だけど、歴史の授業が全然ない。でも、まったく無い他の学園よりましなほうかもしれない。内容は世界政府を称えることばかりだけど。
世界政府の改革の一つが歴史封印だった。世界統一の前に、人類があらたに生まれ変わる必要があるとして、過去につながる文献や資料すべてを世界政府が管理、封印してしまった。悪い歴史を知れば、悪事を再現するものが必ずあらわれるというのが理由だそうだ。
そんなわけで、二〇世紀以前を知る一般市民は少ない。それを不安がる市民も少ない。私のような歴史知りたがりな子が異端視されるのはこれが原因だ。
でも私はそんな知的好奇心を抑えられるほど、お上品でもない。お母さんや、ミカに止められても、今日は放課後、ニュースの現場に行ってみようと思う。ちなみに古代人は、二〇世紀以前の世界政府誕生前に存在していた人類のこと。これも世界政府が人類は生まれ変わったとかいう話のひとつ。身体的にはほとんど変わってないのに。
放課後を告げるチャイムのあと、もう一度ミカに釘をさされつつ下校。まっすぐ家路に向かうフリをして、Uターン。朝のニュースの現場に直行した。
「まだいるよね?」
夕暮れの森の入り口でぽつりとつぶやく。ニュースでは未登録者は男で、その場から逃走、市街地には入っていないとのこと。私は、勇気を振り絞って、暗い森の入り口に入っていった。
私が持ってきたのは懐中電灯と、国際言語翻訳機。世界政府が配布していたもので、どんな言語でも世界政府共通の言語に翻訳してくれる。これも世界政府の改革の一つ。言語の違いは文化の違いを生み、戦争を引き起こしかねないとのことだ。この言語統一は私が生まれる前には終わったらしいけど、今日はお母さんのをこっそり借りてきた。危うく遅刻しそうになったけど、あのニュースを見た時から古代人に会う計画をすぐ立てた。会ってまず話を聞いて、歴史を探る、いつどこから来たのか。どんな生活をしていたのか。
そのための翻訳機、これがあれば、過去人類が話していたどんな言語でも、今の世界語(って私は呼んでる)に訳してくれる。
「……あ」
声がしたほうに振り返る。かすかだけど耳にかけた翻訳機越しに人の声がした。ボリュームを最大にしていたおかけでぎりぎり聞こえたようだ。
声があったほうは、道なき道、藪を分けて木と木の間を行く。鋭い枝や葉の先が素肌を傷つける。
「着替えてきたほうがよかったかな。」
学園の制服はスカートで、衣替えが近いけどまだ夏服。みると、ところどころ生傷ができている。
「やば、またおこられちゃうかも」
私が気をとられていると、前のほうで、藪をかき分ける音がした。近くをだれかが通っている。
「だれかいるの?」
とりあえず声をかけてみよう。すると遠くから返事が返って来た。
「お前もやつらの仲間か?」
やつらって、もしかして調査隊の人たちのことかな。やったービンゴ! 未登録者って一応犯罪者扱いだから、ひどいことされそうになって警戒しているのかも。翻訳機もちゃんと作動している。翻訳機をつけている右耳から世界語で、左耳から聞き慣れない言葉って不思議な感じ。こっちの言っていることもちゃんと通じているみたい。
「違うよ。私はあなたと話がしたいだけ。どこにいるの?」
しばらくして、少年はあらわれた。もっと警戒されているかと思ったけど、言葉が通じる私をすこし信用してくれたみたい。
近くでみると、子犬みたいな印象だった。全体的に黒くて小さくて、でも目だけは何故か反抗的で、
「おまえ、だれだ」
でも向こうは私をみて少し驚いていた。この子の時代では、蒼い髪は特殊だったのかな。それとも制服かな。
「私はカレン・モアーゼ。友達はカリンって呼んでる。貴方は?」
「俺か?」
そこで少年はニヤッと笑うと楽しそうに自己紹介した。
「俺は超天才最先端魔法使い、ニルバレン様だ! 覚えておけ」
「は、はあ」
この子がどの時代から来たのかわからないけど、たぶん、異端だ。私は自分のことを棚上げしてそう思った。
第一話 最先端魔法使い 終わり 二話につづく