あいつは何をしでかすか分からない。
俺はあの日、あの場所で、彼女に会わなければよかったのかもしれない。
「おはよう。」
「おう、おはよう裕真。」
扉を開けて空を見上げてみると。
3日間も降り続けていた雨は上がり、分厚く黒い雲の間から光が差し込んでいた。
今日は久しぶりの晴れ。昨日作ったてるてる坊主が効いたのかもしれない。
絶対にないだろうけど。
「そういえば今日、お前の誕生日だろう?」
「あぁそうだぜ。なんだ、祝ってくれんのか?」
「何言ってんだ?裕李を祝うのが先だ。」
「なんだよそれ?!」
裕李。俺の双子の弟だ。
昔は性格も見た目もそっくりで、親も見分けがつかないことだってあった。
まぁ今は磁石兄弟と言われるぐらい、真反対な性格の二人なんだけどね。
俺はスポーツなら何でも出来るし、誰とでもすぐに仲良くなれる。でも裕李は運動全くダメだし、引っ込み思案で人と話すのが苦手。
そんな二人だけど昔から唯一変わらないのは見た目。
背丈、顔、肌の色、笑い方…全てが同じ。同じ服を着て、同じ髪型にしたら口を開くまでどっちがどっちなんて当てられっこない。
「てか裕李まだか?」
「あいつは俺と違って朝弱いからなぁ。もうすぐ来ると思うぜ。」
毎朝起きたら、隣の部屋にいる裕李を起こしに行く。これは一日の中で一番大変なことだったりする。
今は裕李の嫌いな冬だから布団からなかなか出てきてくれない。掛け布団を剥いでも丸くなって起きてくれない。
時々腹立つこともあるけど、裕李だから仕方ない。
しばらく玄関の前で待っているとドタドタと音が聞こえてくる。そしてその音が止まると勢いよく扉が開く。
「ごめんね修哉くん。お待たせ。」
「おはよう裕李。それとハッピーバースデー!」
「ありがとう。」
あぁ!修哉のやつまだ俺のこと祝ってないのに、裕李には!
「お前本当に俺を後回しにしたな?!」
「あはは。裕真もおめでとーさん。」
「あ、ありがとよ!」
裕李も来たし、祝ってもらったし、俺たちは学校に向かう。
学校は徒歩15分のところにあって、とても近い。学力はまぁ普通くらいかな。一応進学校。特別強い部活があるわけでもない。何も特徴のない普通の学校。
ただ、急な坂道の上にあるので通い始めて間もない頃は裕李が上りきるのに苦労したものだ。
「今日さ、お前ら放課後暇か?」
俺と裕李が並んでいる前を歩く修哉が振り返ってそう言う。
「俺は暇だよ。部活休みだし。」
「僕も暇だよ。」
「よし!じゃあ放課後5組に集合な。」
修哉は何か企んでいるような顔をしている。きっと誕生日を祝ってくれるのだろう。
それにしても、去年もそうだったのだがもう少しサプライズっぽく出来ないのだろうか。修哉の変な笑顔からは嫌な予感しかしない。
ちなみに去年は水風船で全身びしょ濡れになった。祝ってくれるのは嬉しいんだけど、季節を考えて欲しかったな。次の日に雪が降るくらい寒い日だった。
修哉は小学校時代からの親友で、毎年俺たちの誕生日を祝ってくれる。でも毎年祝い方が独特と言うか、変わってると言うか。
とにかく予想の斜め上を行くような男なのだ。
俺たち3人は話をしながら坂を上りきり、昇降口で靴を履き替えそれぞれの教室に向かう。
「放課後に裕李の教室迎えに行くから、お前は待ってろ。」
「お兄ちゃん大丈夫だよ。僕一人で行けるさ。」
「お前方向音痴だろ?」
「お兄ちゃんもでしょ?」
確かに裕李ほどではないが俺も少し方向音痴だ。でもさすがに2年目の学校だし校舎内で迷子になることはない。裕李はしょっちゅう迷子になってるけど。
「やっぱり裕真は心配性と言うか、過保護と言うか…。裕李には甘いよな。」
「仕方ないだろ、裕李は目を離したら大変なことになるんだから。」
いつもいろんな人に言われるけど別に裕李を特別扱いしてるわけでもなく、ずっと一緒にいるうちにこれが当たり前になっていただけ。俺たちからしてみればこれが普通。
「修哉くんの言うとおりだよ。大丈夫だって。」
「まぁいいから待ってろよ。じゃあな。」
「…うん。後でね。」
裕李も大丈夫とは言っているものの迷子になってから探すのも面倒なので、強引気味ではあるが待つように言い聞かせた。迷子になってるのに動き回るから見つけにくいんだよね。
でもそろそろ校内で迷子になるのはどうにかして欲しいな…。
裕李と修哉は同じクラスなので2人の教室まで送って行き自分の教室に向かう。
このときの俺は修哉が用意してくれているであろうサプライズが楽しみで仕方なかった。
それがきっかけで、俺と裕李の仲が引き裂かれて行くことになろうとも知らずに…。